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転生した異能者は静かに暮らしたい  作者: 佐倉 百
5章 移り変わる境界

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不審な外出


 行方不明になったドニの捜索はもうすでに始められていた。本部に到着すると、ユーグ達と入れ変わりで猟犬を連れた団員が建物を出ていくところだった。


 ドニの友人だという男は、本部に向かっていると分かると、別の方向を探すと言ってとっくに逃げている。自警団に怒られた経験でもあるのだろうか。きっと警察を見たら隠れようとする者と同じ心理が働いているに違いない。


 建物を入って右側にある会議室では、リール領の地図を前に、数人の団員が話し合っていた。ユーグとレオンが到着したのを見ると、軽く挨拶をして手招きをする。


「来たか。どこまで聞いた?」

「家族に睡眠薬を盛って、どこかに消えたってところまで」

「じゃあ説明しなくてもいいな」

「そんなに適当でいいの?」

「相手が相手だからなぁ……」


 集まっている団員には、また失踪者かという気持ちと、普段の素行が悪いせいで犯罪に巻き込まれても仕方ないという諦めが混ざっていた。


 家族に外出を気づかれないように、薬まで使った異常性。それから放火未遂で謹慎中の立場でなければ、自警団が動くことなどなかったに違いない。普段から夜遊びをしている成人男性が家に帰らないなど、よくある話だ。


 ユーグとレオンがどこを捜索するか話し合っていると、同じ班のカミーユが入ってきた。猟犬を連れて街道方面へ行っていたが、全く手がかりがないので戻ってきたそうだ。


「レオン、ちょうど良かった」


 カミーユはレオンを見るなり、一緒に帰ってきた団員を連れてくる。その団員は小瓶に入った薄茶色の液体を見せた。


「俺はドニの家で家族から事情を聞いてたんだ。期待はしてなかったが、書き置きでも無いかとドニの部屋を探していたらコレを見つけた。昨日、レオンの班が塗料を見つけただろ? 家族に塗料のことを聞いたら、あいつの死んだ叔父のものじゃないかって。猟師だったらしい」

「ドニの叔父が死んだのは、十年以上も前のことだ」


 カミーユが団員の情報を捕捉した。


「この塗料は何年も保存できるようなもんじゃない。それに森で放火未遂した時に、キノコを採りに来たと言ってなかったか?」


 新しく明らかになった事実で、ドニを捕まえた者の表情が変わった。


 結界の魔導器に塗料が塗られていた情報は、全ての団員に共有されている。道案内のように森に付いていた方は、素人が手を出すと猟師の目印を荒らしてしまう可能性があるので、猟師たちが消すと請け負っていた。ドニの失踪がなければ、今日は分担して森で作業をしていたはずだった。


「街道方面に出ている者を呼び戻そう」


 誰ともなく提案が出た。街道方面の捜索範囲を知っている団員数人が、行ってくると告げて会議室を出ていく。


「すいません、遅れました……って、何? なんか慌ただしいけど」


 出ていく団員の勢いに流されそうになりながら、ニコラが入ってきた。急いでいたのだろう。コートは着ていたが、マフラーは首にかけただけだった。弓も弦を外したままで矢筒と一緒に持っている。


 ユーグがいる班は、今日は何も当番が無い日だった。森や街道の巡察から解放されて休んでいたところに、失踪者について聞いたのだろう。うっすらとやる気の無さが目に現れている。


 覇気がないニコラを壁際に誘導し、ユーグはこれまでの経緯を簡単に話した。森の目印がドニの仕業である可能性が高いと知り、ニコラは両手を腰にあてて困惑する。


「何でドニが結界のところに? まだ帰ってきてないってことは、森で迷ってるんだよな?」

「僕たちが移動させたからね。結界を探し回っているうちに、森の目印が見えないところに行っちゃったのかな」

「あいつが結界に何の用があるんだよ」

「二人とも、話は後だ」


 近づいてきたレオンが話を遮った。


「装具の確認をしておけ。街道に出ている奴らが戻り次第、森の捜索に取り掛かるぞ」


 森へ行くなら武器と防寒着は欠かせない。ニコラは会議室の椅子に座ると、弓の弦を張った。続いて矢筒の蓋を開けて中の矢を点検し始める。


 レオンは他の班長と森の捜索範囲について相談し合っていた。森は広い。手当たり次第に歩いても遭難者は見つからない。適当にやっていると自分たちも迷ってしまうので、事前の調整が必要だった。


 ぼんやりと待っているわけにもいかないので、ユーグも自分の刀を点検しているふりをして時間を潰すことにした。ニコラの隣で椅子に座り、黒い鞘から刀を引き抜く。問題はないと知りつつも刃こぼれがないか眺めた。


 刀を鞘に収めて柄の目釘が緩んでいないか触っていると、隣のニコラが小声で尋ねてきた。


「ドニの目的。お前、分かる?」

「そうだなぁ……」


 これまでの状況から、おおむね予想はついている。ニコラならドニの味方をすることはないと思い、話すことにした。


「例えば、誰かを恨んでいると仮定する。そいつに罪を被せたい場合、可能な限り重いものがいい。それも一人でも多くの人に知れ渡るように。そうすれば相手を貶めて、かつ自分の放火未遂の罪から目を逸らすことができる。人は新しい事件が起きれば、そちらに注目するからね」

「そのために結界の場所を探り当てたって?」

「結界に異変があったら、まず場所を知っている人が疑われるよね。僕は今回の巡回で正確な位置を知った。容疑者の一人として含まれるわけ。で、古参の団員とかアルトロワの住人は結界の重要性を知っているから、そんなことをするはずがない」


「新参者のお前が真っ先に疑われると? いや、そう上手くいくわけねえよ。場所を知っているだけでいちいち疑われたら、自警団なんてやってられないぞ」

「まあ、評価を落として移住を邪魔したいなら、効果的なんじゃない? 審査にはアルトロワの住民からの聞き取り調査もあるから。ドニにとっては何を為したか、じゃなくて、どう思われているかが大切なんだろうね」


 ニコラは呆れた顔で矢筒の蓋を閉めた。


「あいつ、腕っぷしでお前に勝てないからって、そんなネチっこいやり方で貶めてくるわけ? 何したらそこまで恨まれるんだよ」

「僕が知りたいよ。恨まれるほど関わった覚えが無い。自警団に捕まるまでは顔も名前も知らなかったんだよ?」

「逆恨みってやつか。面倒だな」


 いつでも外に出られるように、ニコラはマフラーを巻き始めた。ユーグも点検を終えて、緩めていたコートの襟元のボタンを閉める。


 入り口が賑やかになり、街道へ行っていた団員たちが戻ってきたことが分かった。会議室へは二人の団員のみ入ってくる。そのうち一人が険しい表情で口を開いた。


「我々は最悪の場合に備えねばならん」

「何があった?」


 彼は森でドニを捜索していたと告げ、地図にピンを刺した。


「まず猟犬が塗料の目印に反応していた。森の中は雪が少ないから、ドニの匂いを追っていけたんだが……どうやら森の奥へ行ってしまったようだ」


 地図の印は捜索を中断した場所だった。結界が及ぶ範囲の外側だ。


 森は奥へ行くほど凶悪な魔獣が徘徊している。捜索に出ていた団員は、それ以上は進まずに捜索を中断したのだという。ドニを追うには、装備を見直して魔獣への対策を万全にしなければいけない。


 会議室にいる面々には、さまざまな感情が渦巻いていた。生死が判明するまでは捜索を打ち切ることはできない。待っている家族のためにも、森の奥へと進む必要があった。


「捜索には俺が行こう」


 外でどよめきが起きたと同時に、会議室の扉が開いた。颯爽と入ってきたフェリクスが地図の前に立つ。同行してきたジルベールもまた、表情が読めない顔で地図の印を見ていた。


「しかし……」


 突然の領主の登場に、団員達は戸惑っていた。戦力としてはこの上なく頼りになるが、立場を考えると簡単に手を借りてもいい相手ではない。


「領民が危険な場所に迷い込んだなら、誰であろうと捜す。俺が指名した者は森へ行くぞ」


 フェリクスはそんな領民の反応など、とっくに予想していた。有無を言わせない口調で言いきり、数人の名前を挙げていく。名を呼ばれた者は返事をして、それぞれの武器を手に取った。


「ユーグ、お前も来い」

「了解」


 短く答えて刀を一振りだけ腰に()く。


 索敵要員か単純に戦力としてか、もしくは緊急時の脱出手段の一つとして選んだのか。ユーグを選んだ理由が何であれ、森に対して最大の警戒をしていることは間違いない。いつでも戦えるよう、気持ちを切り替えておいた。


 ニコラが魔獣避けの香袋を渡してきた。興奮している魔獣には効果が無いが、探索の助けにはなるだろう。ありがたく受け取っておいた。


「無事に帰ってこいよ」

「お土産は魔獣の生首でいい?」

「おう。本部の壁に飾れそうなヤツを頼む」


 ハンティングトロフィーのように大型魔獣の頭を飾るのは面白そうだが、本部の壁が重さに耐えられるだろうか。ニコラの冗談だろうかと、軽く流しておく。


「残った者はジルベールの指示に従え。森で捜索をしていた者達も、順次、帰ってくるだろう」


 ジルベールはアルトロワの自警団をまとめる団長を任されている。顧問として領民を訓練していたのは、職務の一つに過ぎない。あまり仕事が無い名誉職だと本人は笑っていたが、こうした事態に騎士団の元団長がいることは、精神的な支えとして非常に役に立つ。


 フェリクスは会議室の端に転移門を開いた。出口を設置せずとも使える魔導器だ。彼にしか使えない設定になっているが、移動時間を大幅に短縮できる。


「アルトロワをよろしくお願いします」

「引き受けた」


 門を潜る直前、フェリクスとジルベールのやりとりが聞こえてきた。貴族であるフェリクスが敬語を使う相手は少ない。他の貴族や皇族以外には、敬意を払う他人ぐらいだろう。ジルベールの指揮能力に大幅の信頼を寄せている証だ。


 会議室から冬の森へ出た。

 湿気を孕んだ風が吹いている。


 ユーグはコートの襟を立て、裏のベルトで固定した。まだ獣の気配は遠い。行方不明の男が五体満足である可能性は極めて低いが、誰もそれを口にはしなかった。

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ウソつき勇者とニセもの聖女
不幸な事故をきっかけに異世界転移した二人。
お互い性別が入れ替わっている上に、誰かと勘違いされて誘拐されて……

前作終了後の短編
放浪の終わり

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