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転生した異能者は静かに暮らしたい  作者: 佐倉 百
4章 終わりと始まり

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捜索する者


「近隣の領でも似たような失踪や誘拐未遂と思われる事件が起きているらしい。下は十四歳から上は二十三歳までの女性。一人でいる時に行方不明になっている」


 日が沈み、アルトロワにある領主の元に自警団員数名が集まっていた。締め切った会議室で各地から持ち帰った情報を述べていく。


 ここ数日、リール領では若い女性の失踪が相次いでいた。いずれも荷物は持たずに普段着のまま姿を消している。家族や友人に尋ねても彼女たちに悩んでいた様子はなく、駆け落ちするような相手もいなかったという。


 一件や二件なら不審に思う者は少なかっただろう。だが同じ日に何件も起きたことから、各地の自警団から領主へ不審な動きがあると報告が上がってきた。


 時を同じくして、領主のところには帝国内で活動している奴隷商についての情報が回ってきていたそうだ。手当たり次第に女性や子供を誘拐して、外国へと売り飛ばす犯罪組織があるという。帝都に潜伏していた奴隷商が摘発され、一部を除いて身柄を拘束されている。


「一人か。誘拐と断言できるような根拠は?」

「無理矢理、物陰に引き込まれそうになった、という証言なら……誘拐なのか暴行目的なのかは判断がつきませんが」


 ジルベールが全員に問いかけたが、はっきりと意見を述べた者はいなかった。


「しかし誰にも見られることなく誘拐するなんて可能でしょうか? いなくなったのは昼間だし、女とはいえ人間一人を運ぶのは目立ちますよ」

「馬車や荷車を使ったとしても、一件ぐらいは手がかりがあってもいいのだが」

「エトルタでは、誘拐未遂かもしれない事件で、犯人が魔法を使って逃走した痕跡が見つかったよ」


 ユーグが発言すると、一斉に視線が集まった。黙って聞いていたフェリクスが続きを促す。


「……痕跡は見つかったけど、残滓が消えかけてて行き先までは追えなかった。帝国の魔法式とは違う。目撃証言がない不自然な失踪には、転移魔法が絡んでるかも?」

「転移魔法なら人を運ぶには最適だが……」


 ユーグの隣にいた団員が曖昧に言葉を濁す。彼はいくつか攻撃魔法を習得しているので、帝国で魔法を使うことの困難さを知っている。


「帝国内には魔法を制限する結界が使用されている。許可を得た者以外が乱用して、悪事を働かないようにな」


 魔法が使えない団員に向けて、フェリクスが簡単に説明をした。


「仕組みは俺も知らんが、必要以上に魔力を消耗させるものから、使用者を特定して拘束する種類のものがある。軍事に利用できる魔法は特に厳しく制限されているはずだ。リール領(ここ)では俺の許可なく転移魔法を使えないことになっている」


 フェリクスから数枚の紙を渡された。整った字で魔法式が転写されている。


「これか?」

「……あ、これだ。この一部。やっぱり、あれで終わりじゃなかったのか」


 短い言葉でお互いが言いたいことが伝わった。

 二人だけが納得してもどうしようもないので、フェリクスが他の参加者へと説明をする。


「ル・ノーブル村に盗賊が来たことがあっただろう。これは、盗賊が持っていた転移門から転写した魔法式だ。エトルタでユーグが読み取った魔法の残滓と一致したようだな」


 リール領内ではフェリクスが許可をした者のみが、登録されている魔法を使用できる。ユーグは『開拓に使えるから』という理由で、特に制限をされていない。移民への待遇としては破格だが、そこはユーグとフェリクスの信頼関係で成り立っている。


 帝国の魔法制限は、昔はここまで厳しくなかった。魔石で動く魔導器の出現によって、庶民が扱える魔法が増えたことが原因だろう。犯罪に使われる前に、帝国は法律で制限をして治安を維持しようとしている。


「犯罪者は帝国や領主が設定をしている結界に引っかからない魔法を使う、か。ナメた真似をしてくれる。今すぐ捕まえてやる……と言いたいところだが、さて、どうしたものか」


 ジルベールがイスの背もたれに上体を預け、腕組みをした。現役時代に魔法による脅威を嫌というほど知っただけあって、敵の厄介さが想像できるようだ。潜伏先を見つけても、魔法で逃げられてしまったら追跡が難しい。それに保持している魔法が転移だけとは限らず、戦力が測れない。


 ――是非とも参考にしたいなぁ。


 帝国が設定している結界は強力だ。歴史が長いだけあって知識が上手く継承されており、魔法の種類も豊富だった。そんな魔法先進国が総力をあげて作り、維持している結界を掻い潜るものがある。


 知らない魔法を解析するのは時間を忘れるほど楽しい。魔法の大部分は巧妙に暗号化されているが、所詮は人間が作ったものだ。絶対に解けない暗号は無い。


「同日に起きた失踪を『転移魔法を使った誘拐』と仮定すると、犯人は若い女なら誰でもいいようですね。いなくなった女性に共通するものが無い」


 行方不明の女性の一覧を見ていた団員が言った。


「あえて言うなら、一人でいることが条件か」

「一つの町で単独で行動している女を何人か誘拐して、次の町へ移動しているようだな」

「では、まだ失踪者が出ていない町が次の標的になると?」

「帝国から外国へ、転移魔法を使うことは可能ですか?」

「転移は魔力の消費が激しいから、もし使うなら国境付近で展開させるだろう。だが国境では魔法自体が無効化するような結界を展開している。陸路よりは船に乗せて運ぶ方が現実的かもしれん」


 国境の砦で勤務したことがあるという元騎士が答えた。


「せめて彼女たちがどこにいるか分かれば……」

「領から出る荷を全て検品させましょう。無駄に終わるやもしれませんが」

「……そうだな。失踪者が出ていない町や村に、警戒するよう連絡を。船と馬車は念入りに調べろ。あとは大量に食料品を購入していた者がいないか、商人に聞き込みを」


 フェリクスがそう言うと、すぐに数人が会議室を出て行った。


 集団失踪は誘拐の可能性が高いと判断した自警団は、犯人の行き先や被害者が監禁されている場所について条件が合いそうなところを述べていく。転移魔法で消費される魔力が大きいことから、そう遠くへは行っていないと思われた。


 冬が近づき、夜はだいぶ冷えるようになった。魔法を使ってまで捕まえた女性を凍死させることはしないだろうと考え、空き家や長期滞在できる宿を中心に点検するよう方針を固める。


 ユーグは失踪者が出た町に転移魔法の痕跡が残っていないか調べることになり、消えてしまう前に済ませようと会議室を出た。調査が終わるまでアルトロワに戻る気はないので、必要な荷物を取りに向かう。


 通り道になる行政棟のホールへ行くと、先に出た団員と話をしているテランスがいた。ユーグを見つけるなり険しい表情で詰め寄ってくる。


「リリアーヌがどこへ行ったのか知らないか?」

「リリィ? 今日は一度も会ってませんよ」

「……親友(アニエス)を探しに行ったきり、帰ってこない。いつも夕方には帰ってくるんだが」

「ユーグ、その親友も家に帰っていないそうだ」


 先にテランスから聞いていた団員が、領主へ報告してくると言って会議室へと走る。


「二人がいなくなったのは、いつ頃ですか?」

「アニエスは午前中。昼過ぎに母親が工房へ来て、彼女の行方を聞いてきた。それからリリアーヌと手分けをして探していたんだが……正確な時間は分からん」

「つまり、一人だったわけだ」


 嫌な共通点だ。


 ユーグはホールから外へ出た。小高い丘の上に建つ領主の館からは、アルトロワの町が見下ろせる。


 何も言わずに出てきたユーグの後ろを、テランスが不安と苛立ちを押し殺した様子でついてきた。説明をしている時間が惜しい。ユーグは鳥の形に折った紙片を空中にばら撒き、アルトロワの上空で待機させた。


「検索」


 町全体を探してみたが、リリィの姿が見つからない。他に探す手段がないかと記憶を探っていると、ふと『糸』があったと思い出した。生まれ変わったら居場所が分かるようにと、前世で魂に付けていたものだ。特に邪魔にならないので回収するのを忘れていた。


 指先に糸を絡めて引き寄せてみると、アルトロワではなく森の方へと延びている。リリィが家族に何も言わずに森へ入るわけがない。正面から襲われたなら結界で防げるはずだから、やはり不意をついて転移魔法で連れて行かれたと考えるのが自然だろうか。


 折り紙の鳥に糸の先を探すよう命じ、ユーグは検索を中断した。


「……テランスさん。これはまだ自警団の一部しか知らないことなんですが、リール領の各地で女性の失踪が相次いでいます」


 つい先ほど、誘拐ではないかと予想して捜査が始まったばかりだ――そう聞いたテランスの目に、わずかな怒りが見えた。だが表に出すことなく、静かに受け止めている。


「一人で行かせるんじゃなかった」

「まだ結論を出すのは早いですよ。リリィは生きてる」

「無事なのか!?」

「会うたびに保護の魔法をかけていたんで、五体満足なのは間違いないですね。リリィだけなら何があっても傷一つなく生き残れるはず」

「……は? お前、人の娘に何やってるんだよ」

「魔法を使った誘拐は想定してませんでした。リリィの許可なく触れた輩を荒野に転送する魔法でも開発すべきかなぁ……あれ? 似たような魔法をどこかで……」

「おい、それでリリアーヌはどこにいるんだ?」


 テランスの呆れた声で我に帰った。リリィの安全と大まかな居場所が分かったことで、ユーグの心に余裕が出来ている。


「大体の方角は分かってます。テランスさんは家族のところにいて下さい。大丈夫ですよ、犯人には生まれてきたことを後悔させてやりますから」

「あ、ああ。その、ほどほどに頼む……」


 ユーグは足早に行政棟に戻り、ノックもせずに会議室の扉を開けた。


「誘拐事件、解決できるかもしれない。探すのは町の中じゃなくて森だ」

「そうか。お前は監禁場所を特定したら、被害者をアルトロワへ転移させろ。誘拐犯の対処はこちらが受け持つ」


 フェリクスが冷静な声で一方的に命令してきた。まるで余計なことを喋る前に、仕事を押し付けているかのような態度だ。


「誰か、教会へ使いに行ってくれ。何人いるか分からんが、保護した女も行政棟よりは教会のシスターが相手をしてくれた方が安心するだろう」

「そうですね。じゃあ俺が行ってきます」

「町へ行った人員を呼び戻そう。他の団員も招集して――」

「災害時の組み分けで動くぞ。こちらに残すのは、これと」


 会議室に残っていた団員たちも慌ただしく準備に取り掛かろうとする。


「えっ。僕も誘拐犯をシメる組がいいな。脅威を排除してから安全に転移させるべきじゃない?」

「お前はリリアーヌが絡むと、やりすぎるから駄目だ」


 はっきりと言ったフェリクスの後ろで、団員がうなずいている。全員が同じ意見のようだ。


「やりすぎるって、別に殺しはしないよ。取調室で気持ちよく歌ってくれるように、ちょっと脅すだけじゃないか」

「それがやりすぎだと言っている。もう決定だ。口答えすると会議室で待機させるぞ」

「パワハラだー」


 ユーグの抗議は最初から無かったものとして処理された。フェリクスは有言実行する男だ。あまり文句を言うと本当に会議室に監禁されそうだったので、ユーグは大人しく従うことにした。

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前作はこちら
ウソつき勇者とニセもの聖女
不幸な事故をきっかけに異世界転移した二人。
お互い性別が入れ替わっている上に、誰かと勘違いされて誘拐されて……

前作終了後の短編
放浪の終わり

小説家になろう 勝手にランキング
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