表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生した異能者は静かに暮らしたい  作者: 佐倉 百
2章 幽霊屋敷と空からの来訪者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/113

来訪者


 秋の空に黒い翼を広げた人影が現れた。気流に乗って滑空する姿は安定しており、飛ぶことに慣れている様子が見てとれる。


「えっと……人間の町では羽を見せないのがいいんだよね。見つからないように降りて、隠して、それから探さないと」


 銀髪を風になびかせた女は、どこか幼さを感じさせる口調で言った。


 眼下に見えてきた町を確認し、近くの森に狙いを定める。コウモリのような翼を体に密着させるように折り畳み、ほぼ垂直の軌道で急降下してゆく。森の木の先端が近づいてくると、今度は翼を広げて勢いを殺し、ゆっくりと地面に降り立った。


「そういえば銀髪って珍しいんだっけ?」


 女は自分の髪を一房だけ摘んだ。右耳の近くにある部分だけ、薄い灰色をしている。女の種族では平均的な、ありふれた色だ。


「……まあいいか! 全くいないわけじゃないって聞いてるし!」


 悩むことを止めた女は、森から見えている町へ向かって歩き始めた。だがいくらも歩かないうちに、弓を手にした男に声をかけられた。


「お嬢ちゃん、見ない顔だな。どこから来た?」


 余所者が森にいると目立つ。矢こそ(つが)えていなかったものの、男の目には警戒の色が現れている。あからさまに敵視されているにも関わらず、女は全く焦っていなかった。


「あたし? 人を探しに来たんだよ」

「ここは街道から離れているが」

「えっと……」


 こんな時に使うといい言葉があったはずだ。女は探している人から教えてもらったことを、そのまま口にした。


「あの……お花摘み、してたの……」

「あっ……すまん、ヤボだったな。忘れてくれ」


 何かの暗号なのだろうかと女は思った。ひとまず男は警戒を解いてくれたので、それ以上は考えることを止める。本当の意味は教えてくれた本人に聞けばいい。


「それで……人探しだったか?」


 男は背中の矢筒に矢を戻しながら話しかけてきた。


「アルトロワの住人なら、ある程度は分かるが」

「本当!? ユーグって名前なんだけど、知ってる? 紫色の目で、変わった魔法を使う人」

「ああ、あいつか。いつもどこかに駆り出されてるからなぁ。まあ、何人かに聞けば居場所ぐらいは掴めるだろうよ」


 知っていそうな人のところまで案内してくれると言うので、女は遠慮なく世話になることにした。人間の中には騙そうとしてくる奴がいると聞いているが、本当に危ない奴なら臭いで分かる。この男はまだ安全だ。


「嬢ちゃんはユーグとはどんな関係だ?」

「えっとね……こっちの言葉で何て言うんだったっけ……」


 人間の言葉は発音が簡単だが、それ以外が面倒だ。女の種族なら一言で言い表せる言葉が、何種類も分かれている。


「外国人だったか。恋人ってわけじゃないよな?」

「違うよ。そんな言葉じゃなかった。たぶんユーグに会うまでには思い出せるはず!」

「いいよ、無理しなくて。あいつに聞けばいいさ」

「そうだね! ユーグに会えば全部解決するんだ」


 女はあっさり同意して、鼻歌を歌いながら男に続いて森を出た。





 革職人に手袋を注文したユーグは、工房から出てきた時に予感めいたものを感じた。何かが迫ってきている。命に関わるような脅威ではないが、あらかじめ備えておかなければいけない気がする。


「いた! ユーグだ! 本当に会えた!」


 索敵機能の警戒レベルを最大に上げると同時に、能天気な女の声が通りに響いた。慌てて声が聞こえてきた方向を見ると、銀髪の女が満面の笑みで走ってくる。大人の男でも追いつけないほどの速さに、周囲にいる住民は驚いて動けない。


「ユーグ!」


 走る勢いのまま飛びついてきた女の顔面を、ユーグは身体強化した右手で掴んだ。女は潰れたカエルのような声を上げて止まる。左右に大きく広げた腕が行き場をなくし、代わりにユーグの手を離そうとすがりつく。


「あのぅ、どうしてあたしは顔を掴まれているの……? ちょっと息苦しくなってきたから離してほしいなーって思うんだけど」

「君の腕力で抱きつかれたら、僕の肋骨が死ぬんだよ」


 試したことはないけれど、きっとそうなるに違いない。ユーグには強い確信があった。見た目では分かりにくいが、この女は人間とは違う種族だ。その気になれば、片手で人間の首をへし折ることなど雑作もない。


「人間って、再会した時は抱きつくんじゃなかったの?」

「どこで聞いたの。それをやるのは仲が良い家族だけって覚え直して。僕と君は家族じゃないでしょ」

「そっか、ごめんね!」


 危うく変な噂が立つところだった。己の危機管理センサーがまともに働いていることに安堵して、ユーグは手を離した。少し女の顔に跡が残ったが、数分もすれば元に戻るだろう。


 ――二股をかけてるなんて誤解されたら、せっかく認めてくれたお義父さんから殺される。


 子供を大切にしているテランスには、不確かな噂よりも先に、女を紹介しておくべきだろうか。ユーグが迷っていると、女よりもかなり遅れて一人の猟師が走ってきた。


「はぁ……はぁ……急に、走るから……何かと思えば……」

「ユーグ! この人が案内してくれたんだよ!」


 近くの森にいたところを見つけて、町でユーグを探す手伝いをしてくれていたようだ。確か名前はマルクと名乗っていたはず。テランスの工房を贔屓にしているので、何度か顔を合わせたことがある。


「そうだったんですか。ありがとうございます」

「いや……会えたならいいんだ。そういや名前を聞いていなかったな」

「あたし? クァンドラ。ユーグの」

「いとこ」


 ユーグはさらっと嘘をついた。


「イトコって何だっけ? 発音、合ってる?」

「うん、あとで説明してあげるから黙ってて」


 今は女が喋ると誤解されるだけだ。ユーグは乱暴にクァンドラの頭を撫でて黙らせた。なぜかクァンドラは嬉しそうに笑っているが、素直に従っているので放置しておく。


「いとこ? ああ、そういやユーグも外国出身らしいな。国境からここまで遠かっただろうに、よく女一人で来たなぁ。いや、あの足の速さなら問題ないか」


 ユーグと女の髪の色が似ているせいだろうか。マルクは簡単に信じてくれた。もしくは、クァンドラの言動が幼いので恋人とは思えないのだろう。


 アルトロワの住人は女の種族と交流をしたことがない。二人の関係を説明するのも面倒なので、この先も従姉妹として紹介しようとユーグは企んだ。


 マルクとは路上で別れ、適当に歩きながら話しかける。


「ここまで飛んで来たの?」

「すごいでしょ。気流に乗るから疲れないんだ。ユーリとは会えた?」

「うん、会えたよ」


 彼女はリリィと会ったことがある。前世の出来事だったので、呼び名も前世に由来したものだ。由利と発音できないために、ユーリと間延びしている。


「クァンドラも会いたい?」

「うん!」


 即答したクァンドラを連れて、ユーグはリリィがいるはずの工房へ行くことにした。工房にいなくても、家族の誰かは行き先を知っているだろう。


 ――リリィはクァンドラのことを覚えているかな。


 もし思い出せなくても、リリィなら空気を読んで話を合わせてくれるだろう。それよりもクァンドラがリリィに抱きつかないよう、注意しておかないといけない。


「ユーグ、いま殺気みたいなのを感じたよ?」

「気のせいじゃないかなぁ。そんなことより、クァンドラは『由利さん』に抱きつかないようにね」


 ユーグはクァンドラが理解しやすいよう、前世のリリィの名前を出した。クァンドラは不思議そうに首を傾げる。


「どうして? 女の子どうしなら家族じゃなくても問題ないよ?」

「いや。僕が毎日毎日、必死で我慢してるのに、目の前で由利さんに触る奴がいたら嫉妬して殴りたくなるから」

「そっちなの!?」


 複雑そうな顔でクァンドラは黙ってしまった。他に何があると思っていたのだろうか。


 クァンドラと話していると微妙なズレを感じるのは、種族と言語、どちらの違いに起因するのだろうか。ユーグには正解が分からなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらも読んでいただけると嬉しいです

前作はこちら
ウソつき勇者とニセもの聖女
不幸な事故をきっかけに異世界転移した二人。
お互い性別が入れ替わっている上に、誰かと勘違いされて誘拐されて……

前作終了後の短編
放浪の終わり

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ