-1- ザ・ワールド・クリエイション
──世界は壊滅した。
倒壊しかけたコンクリート・ビルディングの残骸が、まるで巨大な墓標のように立ち並ぶ。
アスファルトの道路に走る車の影は無く。
役目を失った信号機は、まるで柳の木と見紛うばかり。
個としての意味を失くした終末世界に残された少年、ムジナ。
声を持たない彼には、言葉を発する術がない。
「……」
彼は考える。
全てが失われたこの世界で、生きる理由などあるだろうか。
絶望。
孤独。
全てを象徴するのは、この滅びかけた世界。
誰が作り出したのか。
これが世界の終焉なのだろうか。
だが少年は思い始めていた。
──もしかしたら、これは自分が心に描いていた世界かもしれない、と。
そしてまた、これが全ての終わりであって良いと思える。
滅びるべきものは存続してはならない。
全てが意味を失った彼の心には、今あるものに対する未練など微塵もなかった。
「ねぇ、君」
少年に声をかけたのは、白いワンピースを着た黒髪の美しい少女だった。
ここは、生命の失われた大地。
自分の他にも生きている人間がいたなんて、ムジナには信じられなかった。
──君は、誰?
──君は、僕の、何?
──君は、どうして、ここにいるの?
ムジナは、声なき声で問いかける。
「私はカゲヨ。私は、君の……ううん、何でもない」
声無き声は、確かに彼女に届いた。
「隣、座っていい?」
言葉を発することができないムジナは、意思表示のために黙って頷いた。
コンクリートの残骸のてっぺんに腰掛けるカゲヨとムジナ。
どこまでも続く廃墟の森の上には見渡す限りの澄み切った青空。
それは人間文明と自然の対比。
灰色で無機質な社会の名残が、青空の透明感を引き立てるだけの物に成り下がった。
鮮烈な印象を放つその情景は、ムジナの目を通してその心に深く刻み込まれた。
「君、この世界を終わらせたいの? もうほとんど滅んじゃってるけど……」
カゲヨが問う。
「こんな世界、なければいいんだ、ってそう思ってない?」
「……」
「君は世界の創造主なんだ。ううん、君だけじゃない。本当は誰もが神様になれる素質があるんだよ」
そう言ってカゲヨは、美しい声で詩を口ずさみだした。
望んだ未来
心の鏡が作り上げる
あなただけの世界
美しいものも
醜いものも
全てあなたの中にある
楽しかった思い出
つらい思い出
全てあなたの中にある
全て等しくあなたの思い出
全て等しくあなた自身
あなたの心が作り出す
あなたは世界の創造主
あなただけの世界を作り出せる
空の向こうの、そのまた向こうも
「ムジナ、この世界は君が作ったんだよ」
カゲヨは優しく微笑んだ。
ムジナが望んで壊した世界は、彼の世界だった。




