作戦考案
これからどうするか、という雑な議題で4人が集まった。
昨日の青柳との電話で集まってみようかと皆に連絡をしたのだ。
ボロいアパートの中テーブルを囲む私たちは相変わらず各々作業をしている。青柳はパソコン、黄川はマカロンを食べ、白砂はお千代の(偶然言ったであろう)お兄ちゃんだいすき、のボイスを永遠と聞いてはテーブルに突っ伏している。本格的に気持ちが悪い。
「昨日のアレがあっても結局この状態かよ。マイペース過ぎて全員異性に嫌われろッ」
「桃乃ちゃん、ボクはお金があるから嫌われないよ?」
「お前は何なの。」
不思議そうに言い返してくる黄川を割と本気で問い返しては、ふいに青柳が口を開いた。
「赤羽根が動き始めましたね」
赤羽根、と言う言葉に皆の動きが一瞬止まった。手元にあるレモンティーの入ったカップを傾けると、液体がゆっくりと動く。
「…やっぱり私たちも動かないと、みたいな?」
視線は手元に向けたまま青柳に続いてそう言うと黄川がふいに立ち上がった。
「そうだよね!アクティブ!」
「具体的にどうするの?この前みたいに店とかで暴れられるとかなり困るんだけど。」
立ち上がったままの黄川は放置しつつ、割と真面目なトーンで言う。一緒にいる人たちに被害が出るのはかなり居心地が悪い。元はと言えば赤羽根たちが悪いけれど、私をからかいに来てるんなら私が原因とも言える。
「…あんな風に襲うなんて前なら有り得ませんでした。…実際彼等の本質があれなのかと。」
「周りなんてどうでも良い、って事?」
「むしろ一般人を巻き込むのも娯楽と考えているのかもしれませんね。」
青柳の言葉に思わずテーブルに突っ伏してしまった。…さいあく。
「頭おかしいんじゃないの、それ」
頬をテーブルに載せていれば上から青柳たちの声が交わされる。
頭おかしいですよ、とかやばいよね、とか。
何だか疲れた。ぼんやりとする頭で何とか考えようとするも上手く言葉に出来ない。
私の所為、なんて嫌なのに。
「桃乃ちゃん?」
「…なあに。」
「マカロン食べる?」
黄川の声にゆっくりと顔を上げ目の前に出されたマカロンを見やる。
しばらく見やってから手を伸ばした。
食べ慣れないマカロンを咀嚼しては大して美味しくも感じなかった。
「…黄川、」
「ん、なあに?」
「黒澤を説得してきて。で、つれてきて」
「ええっ、桃乃ちゃんは?!」
私が意に介さない様な表情で言うと、案の定黄川は思い切り表情を歪めて私を見た。しかし構わず続ける。
「私はリーダーだから」
何て横暴な、と思われるかもしれないがこれくらい良いだろう。面識あるのはコイツらだし。そう思っていると何がおかしいのか青柳が小さく笑っていた。
「…何さ」
「いえ、リーダーだからそりゃ命令もするだろうなと。」
「でしょ、言い出しっぺは黄川だし、だから黄川行ってきて」
「……白くんも青くんも行かない?」
「俺は黒澤嫌いだからね」
「僕も遠慮します」
あっさり断られている黄川が何だか可哀想にも見えてきたがまあ良いか。取り敢えず全員参加のフルメンバーで応戦させる。最低限な準備だがこのままよりは良いだろう。
「もう、みんなワガママさんなんだから」
そう言いながら立ち上がり、黄川が扉に向かっていく。今から行くのだろうか、真面目だな。
「それじゃあ行ってくるね、何かあったら迎えに来てよ?!」
「何もないから早く行け」
何かってなんだよ。
扉が締まり、その場が 3人だけの空間になる。すると白砂が立ち上がる。
「ちょっと野暮用で出て来るよ、黄川くんが戻ってきたら連絡してくれるかな」
「野暮用ってお千代関係?」
バタン、と勢いよく扉が閉められた。…絶対お千代関係だろ。
「さあてと、私は何するか」
いつの間にか2人きりの空間で、ふと天井を見上げて呟いた。カタカタとキーボードを打つ音がする。
本当に青柳はよくパソコンと向かい合っている。頭良いんだろう、多分。イメージだけど。
静かになると、私は気が抜けた様に窓から見える外を見やった。よくもまあ知りもしない4人で動けるものだ、と思う。まあ全部知る必要は無いし、赤羽根と言う奴をぎゃふんと言わせて最近起こっている事件も終結すれば万々歳だ。
けれども子供のヒーローごっこじゃない。愛も勇気もないし、助け合い精神なんて有るのかさえ不安だ。
…それでもやってるんだから、こいつら全員極悪人では無いんだろう。
「5人揃ったら無敵になりますかね?」
「いや、ならないんじゃないの?」
それ何のアニメだよ。
嘆息して青柳を見やれば至って真面目な顔をしていた。馬鹿にしてんのか、何なのか相変わらずよく分からない。
「…暇だし何か買ってくるよ、何食べる?」
「……茶碗蒸しで」
「お菓子とかアイスとかにしてくんない?」
***
近くのコンビニエンスストアで適当に商品をカゴに入れて会計を済ませば早々に店から出た。
雑誌をパラパラと見ていたが興味が惹かれなかった。芸能人の離婚や結婚、麻薬所持。雑誌を直ぐに閉じた。店内はクーラーで冷えていたが外はなんとも蒸し暑い。
店を出て日陰を探しながら歩いていると、不意に影が落ちてきた。何だろうと見上げると、思わず身体が固まる。
「………………」
背が異様に高く、着ているものは黒を基調としているからか何だか、どちらかと言うと恐い雰囲気だ。
所謂、オールバックで髪を纏めてあり色は真っ黒。染色だろうか、異様に綺麗だ。
日本人では無いのは直ぐに分かる。イギリス、イタリア…分からないが整った顔立ちだ。威圧的で、映画に出て来る高慢な上官みたいな…、あとは目の色…光の反射で赤にも見える。私の目がおかしいんだろうか。
「………………」
何故立ちはだかる。
いや、本当に何故。威圧感が半端ないし、何で私を見てるんだこの人は。うん?怒ってんの?…いやいや、私何もしてないよね?
何か話しかけた方が良いんだろうか、英語なら少し話せる。
「…Imissedyou」
「は?」
聞き間違いでなければ、この強面外国人はあい、みすど、ゆーと言った気がする。うん、意味が分からない。
初対面の人に言われる程紳士的な行いはしてきていない筈だ。
恐る恐る見上げれば、あんな事を言う割に至って冷静そうな真顔だった。訳が分からん、助けて下さい。
「……汗が滲んでいるぞ」
「んえ?」
随分と間の抜けた声を出してしまったざ仕方ないだろう。あんなに流暢な英語を開口一番に使っておいて今度は完璧な日本語だ。流暢過ぎて驚いた。
「暑いのか」
「あ、いや…まあ、少しは」
私よりも暑そうな黒い服のクセに随分と涼しそうな顔だ。
「…だから氷菓か」
ビニール袋に入った数個のアイスに視線がいっている。小さく頷けば「成る程な」と返って来た。
先ほどから普通に会話をしているが、この目の前の男は誰なのだろうか。もしかしたらヤバい奴なのか。ヤバい奴だったら警察…、いや変身すれば良いか。変身と言う単語が当たり前の様に出てくる時点で終わっている気がする。暑さでやられたとでも思われそうだ。




