第14話 呪われた音楽室とサイキック少女4
さて放課後だ。掃除後、タクヤにクラス会来いよな、と釘を刺されたが、そんな出会いを逃すわけないだろ、と返すと、そうだよなと、高らかに笑った。
俺の記憶の中では、お前はキョウという彼女がいてもなお浮気するようなクズだったわけだが、本当はどうなんだろうか。いやあ、顔と体格が俺よりいいからな、それくらいないと不公平ってもんじゃないかな。
タクヤの無垢な笑顔にそんなことを思いながら、教室を後にする。今日は、南川ユナは来ているだろうか。
慣れを感じつつある、放課後の事務棟三階。最奥にある音楽室から微かに聞こえる演奏を聞きながら、俺は部室へと顔を覗かせた。
そこには、しかめっ面がひとつ。ユナは、いないようだった。
部室を見回す俺の視線に気づいたアズキは、読んでいた本を閉じると、
「南川さんは係の仕事で遅れるわ」
「なるほど、じゃあいるわけか」
「ええ」
曰く彼女はアズキのクラスメイトらしい。
クラス内でも目立つ存在で、「陽キャドストライク」と目の前の「陰キャフォアボール」は形容していた。そんな子が、超オカルト研究部に? こんな部活フォアボールどころじゃない、デッドボールだ。戦力外通告だ。
何か理由があるのか、はたまたオカルトがすごい好きなのか。もし後者なら申し訳ないが。俺らには相手ができない。ここにいるのは、オカルトを信じない女と、オカルトに興味がない男だからだ。
しかし、そんなことも杞憂で、圧倒的前者だった。
少し遅れて部室を覗いた彼女は、部室内の空気を一変する雰囲気を持っていた。そう、まさにキョウのように。
「あ、あのぉ、南川ユナ、です、けどぉ」
へっぴり越しで現れた彼女が持つのは、染めている他に説明がつかないような明るい髪、あまり厚いわけじゃないが、その印象をちゃんと与える化粧。豊満な胸を覆うのは、すでに少し着崩している制服と、ムチっとした太ももを見せびらかすように短いスカート丈。
けしからん、全くけしからんね。横のアズキを見なさい。ぴっちり着崩さず、膝丈の制服を。髪も真っ黒でボッサっと外ハネで、黒縁のメガネ。制服に影? そうだな、ユナの影をユーラシア大陸とすれば、四国とか、その辺だろう。
じっと、彼女を見つめては、アズキの方にも視線を送る。その目線の意味するところを知っているアズキは、頭を抱えながら「こんにちは、南川さん」と挨拶した。
俺もつられて立ち上がると、その動きにビクウッと体をうねらせる。
ふん、いい反応じゃあないか。
俺の高校生活、楽しくなってきました、お母さん。
「え、ゆ、幽霊、じゃ、ない、ですよね?」
聞いていた通り、彼女は俺を幽霊だと思っているらしい。ほう、これは好都合。幽霊×女子高生。最近見たことあるんだよな。
そんな色々を考えていると、アズキに横から小突かれる。その目は、どうオブラートに包んでも死ねと言っていた。ヴィラン適正最高の人、ここにいました。キョウ、精進するように。
「違うわ、これは紛れもないバカよ」
「紛れもない、バカの幽霊?」
「そうね、いっそのこと幽霊にしたほうが世の中のためかもしれないわ」
「世の中の、ため?」
後で処理しとくから気にしなくていいわ、とアズキは死刑宣告を俺につげてから、彼女を自分の前の席に案内する。多分意図的に。
「それで、南川さん」
「ユナ、でいいよ。私もアズキちゃんって呼ぶから」
「わかったわ、ユナ、とりあえず落ち着いてちょうだい、そんなに震えていては話ができないわ」
至って普通に振舞っていたようだが、彼女の体は長机をガタガタ揺らしていた。
ユナは、そ、そうだよね、そうだよね、幽霊じゃないもんね。と言って深呼吸をし体を落ち着ける。
落ち着くまでに数分かかった。
「ご、ごめんね、うち心霊とかちょっと苦手で」
一人称うち、なんともギャルらしい。一ポイント追加で。
おっと、一ポイントが横から追加されました。
「ねえ、単刀直入に聞くけれど、どうしてそんなにリョウスケ、間違えた、このバカに怯えているの?」
「え、あってたよ?」
「そ、それがね、えっと、変な話だから、信じれなくてもいいんだけど」
彼女はそこから、自分が見たというものをポツポツと語り始める。
「一昨日の放課後ね、みーこたちと喋りながら帰ってると、あ、みーこってのはうちの友達で、それで帰ってると、あの、校門出たところの少し先に交差点があるよね、で、そこでね、あの、り、リョウスケ君が車に轢かれるのを見たの」
ほお、俺はそれまでに頭によぎっていた全てを横においては彼女の話に耳をかたむける。アズキもノートにそれをまとめ始める。
「で、でも変なのはそれだけじゃないの。そのあとね、わかんないんだけど、気づいたら昼休みだったの。なんか夢みたいなんだけど、あんま朝のこととか覚えてなくて、と言うかたぶん、時間割一緒だったから戻ってる、みたいな感じで。で、それで、ええっと……」
彼女はそこまで言うと言葉を濁らせた。何かを隠すように。
しばらく黙ってしまうから、アズキがそれじゃあ、と言ってノートにまとめたことを簡潔に述べる。
「放課後にリョウスケが死ぬのを見て、そのあと気づいたら昼休みまで時間が戻っていた、と。そう言うことね?」
「そ、そう! ごめん、うちあんま喋るの得意じゃなくって」
「確かに下手ね」
「おい、だからお前は友達できないんだぞ」
俺も思ったが! そう言うのは言わないやつだ、多分。
歯に衣着せぬ物言いに機嫌を損ねてないといいが、とユナの方に目をやると、にこやかだった。それもなんか、憧れ? の光を目に宿して。
「そう、そうなの! やっぱそうだよね!」
ユナは身を乗り出して、アズキの方に迫る。腕に挟まれた胸が、存在感を二倍で主張する。
俺はそれに目を取られて、アズキは彼女の勢いに負けて、言葉にならない言葉で返事する。
「うち、絶対そうだと思ってたんだけど、みんなそんなことないよ、面白いよって言ってくれるから。ずっと気になってたの! ありがとう!」
「そ、そう? 私優しくない言葉を使ったと思うけど」
「ううん! その、ええっと、思いやり? みたいなのを感じたから! そっちの方が嬉しい」
「そう、変わってるわね」
そう言われて、えへへ、と嬉しそうな表情を満面に出す。
俺はいつぞやに言われた彼女の「あなた、変よ」と言う言葉を思い返していた。そして、なんか対応が違くないか、とアズキを睨みつける。
彼女は気づいてか、気づかずか、俺の方をチラリとも見ずに話を続ける。
「あなたの話、信じるわ」
アズキの言葉にユナは嬉という漢字が零れ落ちる笑みを作る。こいつはコミュ障だとは思うが、相性がとことんいいとこうも上手くいくんだな、と俺は感心する。
「え、ほんと!?」
「ええ、ちょうどそれについて話してたところなの、ねえ」
そこでようやく俺に会話を振る。自分で説明しろってことらしい。
「ああ、俺も、まあちょっとそれとは違うんだけど、似たような体験をした記憶があるんだよ」
「死んだの?」
「まあ、多分な。そんな気がしてるだけだが」
「どんな気分だった?」
彼女は俺に純粋な目で尋ねてから、自分が何を聞いているのかを自覚し慌てふためく。
「あ、いや、えっと、痛かったよね! そうだよね!」
「なんだこいつ、面白いな」
「リョウスケ、声に出てるわ」
ひとまず彼女は納得してくれたようで、もう幽霊だ、と怯えることもなかった。




