第11話 呪われた音楽室とサイキック少女1
「あんたなんかしたんじゃないでしょうね?」
「いや、南川って誰だよ?」
「はぁ? 南川さんは、南川さんよ。南川ユナ、あんたもあの時いたでしょ」
「いつ」
「昨日よ」
昨日、昨日ねえ。何でそんなに昨日に色々あるかね、年末年始かよ。
放課後の部室、俺にとってみれば謎の新入部員南川ユナがいない放課後は、至って平穏だった。見慣れない部室であったのを除けば、見知ったアズキが、見知った顔、つまりはいつものしかめっ面を顔面にはっつけてるのを、眺める、落ち着いた夕方だった。
「すまん、昨日は、なんか、あんま覚えてないんだ」
「あれ忘れられるのは、もはや何かしらの才能よ」
アズキは、はぁ、と声を出してため息をついた。
なるほど、何かそんな大きなことがあったのか?
「……褒めてないわよ」
「別に褒められたとは思ってねえよ!」
「そ。忘れたらなら教えてあげるわ」
アズキは昨日起こった出来事を語り始める。
昨日は特になんということもない一日で、二人は放課後になると部室に集っていた。そこで俺がトイレに行っている間にその件のユナが入部届を持ってきていたらしい。それを受理して軽く喋っているところに、俺は戻ってきた。
すると俺の顔を見るなり南川ユナは、
「ギャァアアア、おばけぇぇぇぇ」
と、どちらが幽霊かわからないくらい顔を真っ青にして、部室から飛び出していった、らしい。
「ってな具合よ」
といって、アズキは説明を締めた。
「わからん、てかマジで覚えてねえ」
「え、なに、本当にお化けだったとか言わないわよね」
いや、流石に違うと思うが、もしそうだった場合、お化けじゃないことってどうやって説明したらいいんだ? ううん、わからん。
「そ、それよりも、あんたの記憶がないのも厄介ね」
アズキは眼鏡をくいっと直して、小さくため息を吐く。
「そうなんだよ、結構困ってんだなこれが」
困ってなさそうに言うわね、とアズキは言った。
「もしかして、あんたの力の話?」
だと思う。
俺が答えるとアズキはノートを一冊取り出した。表紙には『超能力研究ノート②』と油性ペンでデカデカと書かれている。ご丁寧に名前まで。
「……多分それ、人前で出さない方がいいぞ」
「当たり前じゃない、超能力者なんてバレたら大変よ」
「いや、まあ、もうそれでいいか」
アズキは目を丸めて、やや首を右に傾げた。
そして誇らしげな笑みを浮かべ、ペンを取り上げて、
「それで、話してみなさい。これも立派な部活動よ」
俺は、覚えている限りのことを口にした。
まず、部室が変わっていたこと、昨日俺は入部したはずなこと、斎藤先生の担当教科が変わっていたこと、あるクラスメイト(一応名前は伏せておいた、どういう配慮なのかよくわからないが)に刺されたけたこと。で、その全てがなかったことになっていること、などなど。
かろうじて記憶の片隅にある、帰り道に何か起きたような、同じことが何回かあったような、ということは文字を繋げて文にしようとしたとところで、その文字が細かい粒子となって砕けて消えていったせいで言葉にできなかった。
彼女は俺の言葉を丁寧に拾い上げては、ノートに記していった。そして書き終えたのをみて、うーんと、顎に手をあててしばらく考えてから、口を開いた。
「ねえ、これっていつのことか覚えてる?」
「いつのことって、昨日のはずだけど」
「そう。……なるほどねえ」
確かに彼女の言いたいこともわかった、昨日入部したのはユナで俺ではない。時間の流れがおかしいのだ。
いや、というよりもそのものがおかしいというべきか、まず部室がそもそもあんな場所にあったから、それ以前の問題なのかもしれない。
わからん、本当にわからん。
俺も揃って唸っていると、アズキがふとこんなことを口にした。
「実はね、私もちょっと記憶が曖昧なのよ」
ただノートをじっと見つめながら、こぼすように言ったその言葉は、俺の意識をからめとる。
「アズキも? それってどういう?」
メガネの向こうで目頭に影を落として、ノートと睨み合う彼女の目を見つめる。
「なんか、一昨日より前のことがあんまり思い出せないのよ」
「一昨日? 昨日じゃなく?」
「昨日は忘れないわよ、あんなことがあったんだから」
まあ確かに、そんな場面に出くわせば一生忘れない可能性だってある。
「だから、あなたが記憶が曖昧だって言ったときに、もしかしたらって思ったのだけど、これじゃどうにもわからないわ」
アズキのいうことが正しければ、アズキもループに巻き込まれていた可能性がある。しかし、記憶の中で彼女はそんな風ではなかったし、だとしたらなんで出口が違うんだって話になる。俺は今日で、アズキは昨日の朝と、一日の時間のずれがある。
俺はてっきり自分の力は死に戻りかと思ってたが、どうやら違う予感がしてきた。
もう一度考えてみる必要があるな。
「そうね、それに南川さんにも聞きたいし」
彼女は俺を見て「幽霊だ」と言ったのなら、彼女は俺が死んだことを知っている人間となる。俺のループを知る三人目、というわけだ。
「ほんと、わからないわ。どうしてあなたの力はそんなにめんどくさいの?」
「知らねえよ、てか俺としても誰かにあげたいわこんなの。てか、あんたのと交換してくれ」
「いやよ、だってあなた私の力を使って、トモコさんの部屋に入り込んで一緒に風呂とか入るつもりでしょ。どうせ臆病だから手は出せないけど、見るところは全部見るんでしょ!」
「だ、だせるわい! 一から百まで、いちにのさんしで全部出せるわい!」
「サイテー、一回死んだら? どうせ戻ってくるんでしょ、それに実験は問題解決の一歩だし」
「どうすんだよ、これでほんとは死に戻りじゃありませんでした〜ってなったら。末代まで呪ってやるからな?」
「いいわよ別に、私多分影薄いからこのまま独り身だろうし、末代は今ここにいるわ。残念だったわね」
「その自虐、悲しくならんのか」
「……哀れみの目を向けないで」




