第16話 【我、魔獣コロシアムに参加する】
我はゆっくりと目を開ける。
視界に真っ先に飛び込んできたのは、すっかり見慣れてしまった素朴な木製の天井だった。ただ寝転がっているだけなのに、全身の関節が錆びついた鉄のように酷く軋んでいる。嗅覚をそっと研ぎ澄ませてみると、どこか懐かしい、木を燻したような薄煙の匂いと、脂の焦げる香ばしい匂いが漂ってきた。どうやら、ミツハが台所で料理をしてくれているらしい。
漂ってくるのは、紛れもなく野性味溢れる魔獣の肉の匂いだ。一目瞭然ならぬ「一嗅瞭然」とでも言うべきか。やはり、この世界には決定的に、圧倒的に、野菜が足りていない。ビタミン不足で体中が痛むのではないかと疑いたくなるほどだ。
「アレ……今日は何日だろう?」
我はぼんやりと呟きながら、重い頭を振った。
覚醒する直前まで、暗黒世界のような場所にいたような感覚がある。あの果てしない闇の空間に引きずり込まれていたということは、こちらの世界では何日もの間、ただの抜け殻のように眠りこけていたということになるのだろうか。
こればかりは、しっかりと自分の目で確認せねばならない。
軋む体に鞭を打つ。まるで硬い木の棒で容赦なく全身を叩き起こすかのような、強烈な自己への叱咤激励だ。痛い。動かすたびに関節という関節が悲鳴を上げている。
這うようにしてベッドから抜け出し、部屋の隅に掛けてあるカレンダーへと視線を這わせた。
そこには、魔導の光で【春期 20日 朝7時】とくっきりと表示されていた。
「そうだ……。今日は魔獣コロシアムの日だったな」
カレンダーの文字を目にした瞬間、途切れていた記憶のピースが急激に繋ぎ合わされていく。
そのとき、部屋の薄い木扉がトントンと小気味よく叩かれた。
「入っていい?」
聞き慣れた少女の声。我は「どうぞ」と短く応じ、ミツハを部屋の中に招き入れた。
だが、扉を開けて入ってきたミツハの様子は、明らかに普通ではなかった。
彼女は両手をぎゅっと握りしめて小さな拳骨を構え、顔を真っ赤にして、激オコな様子でプルプルと子鹿のように震えているのだ。その視線は怒りと心配が入り混じった、実に取り込み中な温度を孕んでいる。
「ジョニぃ……! なんでホメ猫を連れていかないで、古代遺跡ボルへボルンなんて行ったのですか!? ゴーレムにボコボコに殴られて気絶していたのを、通りすがりの親切な冒険者さんが助けて運んでくれたんだよ!?」
「はい? ボルボ……へボヘボ、ルンルン?」
我は素っ頓狂な声を漏らした。
ボルボというのは、確か我がかつていた世界にあった、やたらと頑丈な乗用車の名前ではなかったか。いや、そんなことよりも、頭が混乱する。ゴーレム? 古代遺跡?
そうだ――、これだ。またしても始まったのだ。記憶の改変、行動の変革。
この世界に生きる人々の認識が書き換えられているのか、それとも我自身の行動の歴史が歪められているのか。この世界で今起こったとされている出来事がホンモノの歴史なのか、それとも我の頭の中にある、あの暗黒世界の記憶が正しいのか。
その真相を知る者は、この世界を弄ぶ《先導者チーター》田中三代目か、あるいは気まぐれな神様くらいしかいないのだろう。
思考を巡らせても答えは出ない。ここはひとまず、目の前で今にも爆発しそうな少女の怒りを鎮めるのが先決だ。我はわざとらしく、感情の起伏を一切排除した声色を作った。
「ゴーレムは強かったなぁあ……」
「今度から一人では探検しないようにするから」
「許してちょ」
まったくもって謝罪の誠意など微塵も感じられない、意味などまるでない三行の言葉。だが、あえてこの形式で棒読みの謝罪を突き通してみる。
ミツハは大きくため息をつき、構えていた拳骨をようやく下ろした。
「許します。今回はね! 次にそんな無茶をしたら、本当にお仕置きですからね? ――さて、それじゃあ気持ちを切り替えて、今日も張り切ってヤサイ作りを手伝いますよ!」
怒りの嵐が去り、いつもの前向きなミツハに戻ってくれたことに安堵しつつ、我はこれ幸いと彼女に仕事をお願いすることにした。
「それなら、ミツハさんには朝の【換気】と【水やり】を日課にしてもらおうかな」
畑のビニールトンネルに植えてあるデリケートな野菜の苗たちは、閉め切ったままだと太陽の強い日差しで内部に湿気と熱がこもりすぎてしまう。そのため、日中の気温が上がる時間帯には、トンネルを半分ほどめくって風を通してあげるのが正しい農法なのだ。そして言うまでもなく、植物にとって水やりは、その生死を分ける最も基本的で大切な工程である。
一通りの手順と注意点を、できるだけ分かりやすく噛み砕いてミツハに説明する。
「おっけーです!! 換気と水やり、完璧にこなしてみせますから任せてください!」
ミツハは胸を叩いて元気いっぱいに返事をしてくれた。
これで朝の農作業の引き継ぎは完了だが、今日の本番についても一言話しておいた方が良いだろう。何しろ、今日の主役であるホメ猫は、我が家においては単なるペットではなく、立派な家族の一員みたいなものだからな。
そのホメ猫はというと、今日も朝から実に見事な食いっぷりを見せていた。
朝はご飯と、たっぷりの魔獣の肉を平らげ、
昼になっても、変わらずご飯と山盛りの魔獣の肉を貪り食い、
夜になれば、どこから調達したのか豪勢な生魚の肉をこれでもかと骨ごと喰らう。
そうして得た凄まじいエネルギーを消費するかのように、今は庭で元気に独自の戦闘訓練――ものすごい速度で虚空を引っ掻くシャドーブレーキング――を繰り広げている。
「ミツハ、今日な、魔獣コロシアムに参加するンだ。もちろん、ホメ猫を連れてな」
我のその言葉を聞いた瞬間、ミツハは「えっ?」と目を丸くした後に、くすくすと笑い出した。
「マジですか!? ホメなら絶対に余裕で優勝できますよー! あそこのコロシアムなんて、地元の人たちからすれば、程度が低いお遊戯みたいなものですから!」
「……え?」
我が耳を疑う。
こないだ街の園芸屋の人と話したときは、もっとこう、血湧き肉躍る、生死を賭けた猛獣たちの饗宴であるかのような、恐ろしい場所だと聞かされていたはずなのだが。話が全然違うぞ、オイ。
あそこはそんな、子供だましのお遊戯レベルなのか。それとも、目の前の少女の基準が狂っているだけなのか。我としては、昭和の熱血精神モリモリの、ドロドロになりながら白球を追いかける野球選手みたいな、熱い魂のぶつかり合いを期待していたのだ。
まあいい。ところで、あの街の噂で聞いた「人食いワニ」を連れた怪しい参加者はどうしたのだろうか。そんな疑問を頭の片隅に抱きつつ、我はホメ猫を連れて闘技場へと向かった。
高大な石造りのドーム状の闘技場は、すでに割れんばかりの熱気に包まれていた。
「さぁ始まりましったぁあ~~!!! 魔獣の一番! 魔獣の最強! つまり、この世界でのナンバーワンを決める、血と砂のバトルロイヤルトーナメントが始まったアアア!」
派手な衣装に身を包んだ司会者がマイクに向かって絶叫し、それに応えるように観客席から地響きのような大歓声が沸き起こる。その声は、もはや個々の人間の声というよりは、一つの巨大な怪物が吠えているかのような、群勢、あるいは「あー」「いー」「うー」と意味のない音を垂れ流す奇怪な群体としての雄叫びだった。
声援の一つひとつに高尚な意味などない。ただ、ボリュームが大きければ大きいほど、観客も、戦う選手も、アドレナリンが分泌されてテンションがブチ上がる。
そういうモンだぜ、ベイビー。熱狂という名の怪物理論に惚れるなよ?
「さあ、今日のトーナメントは実力者揃いの超過酷な形式だ! 勝ち残った者だけが頂点に立つ! 厳選された参加者はわずか四人だァァァァ!!!!」
四人。大々的な煽りの割には、随分と小規模なトーナメントだなと心の中でツッコミを入れる。だが、これほどまでにお祭り騒ぎの空間というのは、不思議と眠っていた魂の奥底を激しく揺さぶるものがある。
我は、かつて存在していたかもしれない、どこか遠い異国の祭りの情景を思い出していた。名前も思い出せない国の、美しい灯火、屋台の匂い。記憶の大部分を失ってしまう前は、もっといろいろな美しい場面やシーンを、自分にとって本当に大切な人たちと共に笑いながら見ていた気がするのだ。
切ないノスタルジーが胸をよぎるが、今は闘いの時間だ。
「さあさあ、そろそろ俺のターンだな」
我は決闘場の入場口に立ち、軽く肩を回す。
前方のゲートから姿を現したのは、スキンヘッドで、上空の太陽の光をこれでもかと反射している、眩しすぎるヘッドの持ち主だった。
その煌めく頭皮の輝きは、確かにこの闘技場にいる誰にも負けることはないだろう。だが、それはあくまでヘッドの輝度の話であって、これからの魔獣コロシアムの勝敗とはミリ単位の関係性もない、実に些細でどうでもいい問題だ。
「一回戦! 無名の自称ノウカ《ジョニー》&見た目はとってもキュートな可愛いネコゃん《ホメ猫》! VS! 煌めく頭の持ち主クリンゴ&空飛ぶ猛毒のハチさん《キラービー》だァァァ! デュエル、開始!!!」
激しい銅鑼の音が響き渡り、試合開始が告げられる。
クリンゴが指さした先には、空中を不穏な羽音を立てて静止している、巨大なキラービーがいた。その尻尾の先には、一刺しで牛をも即死させるという赤黒い毒針が鈍く光っている。
なるほど、最初からなかなかのつよつよ魔獣キタコレ。期待が高まる。
クリンゴはこちらのホメ猫を見下すように、煌めく頭を揺らしてニヤニヤと笑った。
「ヘッ、貴様の連れている魔物、やたらと弱そうだな! それ、ただのそこらへんにいる小汚いネコちゃんでしょ? ウケるんだけど?」
ウケるんだけど、か。その余裕がどこまで持つか、見ものだな。
我はホメ猫に目配せを送った。
ホメ猫は、ふん、と鼻を鳴らしたように見えた。
次の瞬間、決闘場の空気が凍りついた。
シュババババ、シュババババ、シュババババ!
シュババババ、シュババババ、シュババババ!
シュババババ、シュババババ、シュババババ!
凄まじい風切り音。
残像すら残さない速度で、ホメ猫が九回ほど空中を激しく往復したかと思うと、キラービーの背後に着地していた。
キラービーは空中で静止したまま――数秒後、その自慢の羽が綺麗に根元から全て同時にもぎ取られ、ぽろぽろと地面に落ちた。羽を失った蜂は、そのままベシャリと締まりのない音を立てて砂の上に落下する。
「ニァァァァァァァァァァァァン!!」
勝利の雄叫びを上げるホメ猫。
我の貧弱な翻訳脳で直感的にこれを翻訳すると、おそらく「おいジョニー、この蜂の羽根、美味そうだけど食うか?」と言っている。我の翻訳スキルは日常会話レベルですらゼロに等しいが、なんとなくそう言っている気がしてならない。
対戦相手のクリンゴは、あまりの出来事に一瞬で顔を真っ白にし、叫び声を上げながら決闘場に乱入した。
「あああっ! やめてくれぃ! 俺のキラービーちゃんがぁ!」
彼は大慌てで羽のなくなった蜂を愛おしそうに強く抱きかかえ、一目散に出口へと走り去っていった。
「は?」
あまりに一瞬の出来事すぎて、我は拍子抜けしてしまった。何が起きたのか呆然とするしかなかったが、どうやら勝ったらしい。観客席からも、今の神速の攻撃に一瞬の静寂が訪れた後、ワンテンポ遅れて爆発的な歓声が上がった。
一方、我々の戦いと同時進行で行われていた隣の決闘場に目を向けると、やはりそこでも噂通りの「人食いワニ」が、対戦相手の魔獣を容赦なく噛み砕いて圧勝を収めたようだった。
そして、いよいよ運命の決勝戦の時間がやってくる。
「さあいよいよ決勝戦だァァァ! 勝ち上がったのは、奇跡の農家ジョニーとホメ猫! &対するは、街で噂の最強の女騎士、ツー・シンユェだぁぁぁぁぁああああああ!!!」
実況の声を聞いて、我は「え? ぇっ? マジ?」と素で困惑の声を漏らしてしまった。
そこに立っていたのは、園芸店でいつも親切に花の苗を売ってくれる、あの物腰の柔らかいお姉さんだったからだ。しかし、今の彼女はいつものエプロン姿ではない。全身に漆黒の禍々しいフルプレートアーマーを纏い、その背後からは見る者を恐怖させるような、ドス黒い邪悪なオーラが立ち上っている。
しかも、彼女の隣にいるはずの「人食いワニ」の姿がどこにも見当たらない。
怪しく微笑む女騎士シンユェが、その冷徹な瞳を我に向けて口を開いた。
「ジョニー君、概念を持つものは、君だけではないアルヨ。……来い、ドーガーワッニ」
つか、名前がダサい。ドーガーワッニってなんだよ。
心の中で突っ込んだ瞬間、シンユェの全身の鎧の隙間から、する、するすると、ドス黒い粘り気のある煙が大量に放出され始めた。その黒い煙は、空中で蠢きながら、徐々に巨大なワニの形状へと収束していく。
あれは、我々の知る通常の野生のワニではない何かだ。
ワニというのは、あくまで奴が現世に具現化するための、単なる仮の姿かたちでしかない。
これこそが「概念魔獣」。パンドラの箱は、実際に開けてみないとその中身は分からない。
箱の中から、救いようのない阿呆が出てくるか、あるいは世界を滅ぼすバケモンが出てくるかなど、神様も含めて誰も知らないのだ。
「フッ、面白い。さすがに決勝戦は一筋縄ではいかないようだな」
我は不敵な笑みを浮かべ、腰のホルダーから切り札を取り出した。
「だけど、こちらにはこれがある!」
我は、天に高く「魔獣コントローラー」をかざした。
その近未来的な機械の光沢に、観客たちがドッとどよめき、大きな嘆声を上げる。わーきゃーという訳の分からない熱狂の叫び声は、我が全身に吸収され、心地よい勇気へと還元されていく。止めどなく頭の中から溢れ出てくるエレジー、いや、これは大いなるエネルギーだった。
「客もこれだけ騒いでるんだ。決勝戦、お互いに全力で楽しもうぜ。いざ、デュエル開始!」
シンユェの鋭い指先がこちらを指した。
その瞬間、ドーガーワッニの姿が目の前からフッと消えた。地面の影に沈むようにして潜り込んだのだ。
一秒にも満たない極小の時間で、ワニはホメ猫の真下の地面から影を突き破って飛び出し、その鋼鉄をも噛み砕く鋭い牙で、ホメ猫の胴体目掛けて喰らいついた――!
――が、断然、ホメ猫の方が疾かった。
「ニァン!」
ホメ猫の体が、一瞬にして硬質な金属質の光を放ち、巨大なピコピコハンマー(しかし素材は超合金)へと形状変化した。
そして、地面から飛び出してきたワニの脳天を、上空から容赦なく叩き伏せる。
バコン! バコン! バコン!
そう、それはまさに、かつて我がゲームセンターで慣れ親しんだレトロゲーム「ワニ〇ニパ●ック」の筐体そのものだった。ホメ猫ハンマーは、次々と地面の影から顔を出そうとするワニの頭を、実に見事でリズミカルな連打でバコバコと叩き込んでいく。
「――、やるでアルヨ、ジョニー君。ドーガー、戦士モード起動するアルヨ!」
シンユェが叫ぶと、ワニの肉体がグニャリと歪み、二本足で直立する人型の戦士へとその姿を変えた。全身に硬質の鱗の鎧を纏った、凶暴極まりない狂戦士の誕生だ。
ワニ戦士は強靭な腕を伸ばし、ホメ猫の首根っこを掴んで、そのままへし折るようにキリキリと締め上げ始めた。いや、正確には、締め上げる「つもり」だったらしい。
「甘いなッ! 魔獣コントローラー、接続完了ッ!」
我は画面を高速でスワイプし、秘められたコマンドを入力する。
【↑↓↑↓××〇】――入力成功!
「【スキル:覇王の力】発動!!」
闘技場の中心に、すさまじい真空の暴風がブァッっと舞い上がった。凄まじい重力波がワニ戦士の全身にのしかかる。
いつの間にか、ホメ猫をキリキリと締め上げて優勢に立っていたはずのワニ戦士が、その場に膝をつき、ダラダラと冷や汗を流しながら苦しそうに喘いでいる。重圧で身動きが取れないのだ。
動けない敵に対し、ホメ猫の反撃が始まる。
ホメ猫は自身の鋭い尻尾の形状を、白銀に輝く一本の鋭利な大剣へと変形させた。
「ニャーーー!」
その尻尾剣を高速で回転させ、ワニ戦士の腕をキリキリキリと音を立てて容赦なく切り刻んでいく。
「これならどうアルカ!」
シンユェの叫びに応じるように、戦士モードを強制解除されたワニは、自身の体の一部――背中のトゲ――を分離させ、現代兵器さながらの自動追尾ミサイルに変形させてホメ猫へと一斉に放った。
ドヒューン!!!
激しい噴射音を立てて飛来するミサイル。
しかし、ホメ猫は驚異的な身のこなしでそれをすべて紙一重で躱していく。
標失したミサイルはそのままの勢いで、遥か後方の客席へと着弾し、大爆発を起こした。黒煙が立ち上る。
幸いにも、その一帯の客席には誰も座っていない、完全に不人気の空席エリアだったため、大惨事は免れた。運営の席配置のセンスに感謝だな。
「ミサイルまで持ち出すとは、本当に何でもありだな。なら、我はこれで行くぜ!」
我はコントローラーの十字キーとボタンを限界以上の速度で叩き込んだ。
「ホメ猫よ、お前の真の力を見せてやれ!」
【××△↓↓↓〇】――入力完了!
「【スキル:爆心地のにゃんこ】発動だ!!」
ホメ猫の体が、まばゆい光に包まれる。
光が収まったとき、そこにいたのは猫ではない。金属の翼を持ち、ジェットエンジンを搭載した、異世界の超最新鋭戦闘機そのものだった。
戦闘機と化したホメ猫は、轟音を響かせて急上昇し、闘技場の天井近くまで駆け上がると、急降下しながら翼の下から無数の小型爆弾――クラスター爆弾――を投下した。
ヒュオオオオオ……。
無数の爆弾が決闘場の地面へと降り注ぐ。
ドガガガガガガガガガガガアアアアン!!!!
凄まじい連続爆発。決闘場は瞬く間に地獄のような火の海、ファイヤーゾーンへと変貌を遂げた。激しい熱風が我の髪をかき乱す。
ワニの影は、現代科学の結晶である暴力的な《爆弾》の雨を一身に浴びることとなった。
いくら強力な《概念魔獣》であろうとも、これほどの絶対的なエネルギーの奔流には耐えきれない。全身に炎を浴びたワニは、体内エネルギー量が完全に底を尽き、哀れな悲鳴を上げながら、召喚主であるシンユェのもとへと、霧散するように消えていった。
決闘場を包んでいた炎と煙が、ゆっくりと風に流されて消えていく。
「……見事アル。貴公の魔物、底が知れないほど強いな――」
シンユェは黒いオーラを消し去り、いつもの優しい園芸店のお姉さんの表情に戻って、穏やかに微笑んだ。
「今回の負けを認めるアルよ。今度、うちの園芸店に来たら、特別な花の苗をいくらか値引きしてあげるアルよ。行くぞ、ドーガーワッニ」
彼女はそう言い残すと、優雅な足取りで決闘場を後にして去っていった。
静寂が訪れた闘技場に、実況の絶叫が再び鳴り響く。
「デュエルに勝利し、見事このコロシアムを制したのは――! ジョニー、アーーーーンド、ホメ猫だァ!!! さあ、約束の賞金だ! 金貨30枚持っけ泥棒ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」
ドサリと、ずっしり重い金貨30枚が入った革袋が、司会者の手から我へと投げ渡された。
こうして、お祭り騒ぎの魔獣コロシアムは、大盛況のうちに無事閉幕したのだった。
ミツハはお遊戯レベルだなんて言っていたが、さすがにそこまでのお遊戯ではなかったな。
だが、終わってみれば実に楽チンで、何より退屈な日常を吹き飛ばすには最高のイベントだった。
これだけブチ上がる良い祭りなら、機会があれば次もぜひ参加したいものだ。
さて、懐の金貨をチャリチャリと鳴らしながら、我はホメ猫を連れて、待っている我が家へと帰路につく。
畑の野菜たちが、今頃ミツハの水やりで元気に育っていることを願いながら。
つづく




