第6話:魔法を超えた一着のハーネス
カタカタカタカタ――!
静まり返った村の広場に、軽快で、しかし狂気じみた速度の金属音が響き渡る。
レオンの右手は残像を残すほどの速度でハンドルを回し、指先のタコが綿麻紐のテンションを完璧にコントロールしていく。
短時間の目測と触診で把握したバイソンの三次元的な骨格データに基づき、肉の盛り上がった部分と骨格の歪んだ背骨を完全に回避し、荷重を胸骨と骨盤へ等分に分散させる独自の3D荷重分散ハーネスを、わずか数十分で縫い上げていく。
「はい、出来ました」
レオンは躊躇なくバイソンの懐へ踏み込み、その巨体に出来立ての3D荷重分散ハーネスを素早く装着した。
長年バイソンを苛んでいた、背骨をきしませる激痛もこれで和らぐはずだ。
――パチリ!
空間にクリッカーの澄んだ金属音が響いた。レオンの手から特製おやつが放たれる。
バイソンは本能的にそれを咀嚼し、その瞬間、脳内に大量のドーパミンが溢れ出た。
バイソンは、信じられないことに背中を庇いながらもその巨体をちょこんと折り曲げ、レオンに服従のようなポーズをとったのだ。
魔法の力などどこにもない。純粋な科学と愛情、そして正の強化のロジックだった。
村人たち、そして三流テイマーは言葉を失ってその光景を凝視していた。
「……信じられん。ドミネイトも使わず、たった一人であの巨大な魔獣を鎮めたというのか……」
駐在の老兵士が、手から槍を取り落として涙ながらに感謝の言葉を紡いだ。村の青年たちも安堵のあまりその場にへたり込んでいる。
「ハーネスの代金は、そちらのテイマー殿の報酬から差し引いて村の修繕にあててください」
レオンが静かに告げると、三流テイマーは自身の無知と非力さを深く恥じ入り、顔を真っ赤にして深く頭を下げた。
「それと、この村にある良質な植物から作った布を少し分けていただければそれで十分です」
レオンは手際よくミシンをカバンに収め、再び背負った。
周囲の喧騒と称賛の声をよそに、レオンはいつものようにクロに歩調を合わせた。穏やかな空気のなかで、クロの頭を優しく撫でる。
「さあ、クロ。お散歩の続きをしようか」
「ハフッ!」
愛らしい尻尾を振るクロと共に、レオンは日常のルーティンへと戻るように、大量に差し出された布を数枚受け取ると、村を後にした。
補足情報
・3D荷重分散ハーネス
特徴:レオンが対象の三次元的な骨格データを短時間の目測と触診で把握し仕立てる特製ハーネス。
機能:肉の盛り上がりや骨格の歪み(背骨)を完全に回避し、荷重を胸骨と骨盤へ等分に分散させる。




