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第三十三話 愛の告白 余計な告白

閲覧ありがとうございます!


「ヘ、ヘルバートさぁん」

「……」


 無視だ。

 この調子でかれこれ一週間は経とうとしている。

 ガッツリ目は合わせてくれるが、彼は何も言わない。

 私の隣にいるローザを射抜かんばかりの眼で睨んではいるが、それだけだ。


「鬱陶しいわね」

「でしょ? ヘルバートってば頑固なんだよ」

「あんたが、よっ」


 ローザは腕に巻き付いた私を突き飛ばした。

 力の加減を知らないのか、はたまたわざとか。

 結構な勢いで押し飛ばされた私の体がよろめく。


「うわぁ」

「……」

「……ナイスキャッチ!」


 片腕で私を抱きとめたヘルバートに笑顔を見せるも、彼はそっぽを向く。

「ごめん」と謝っても無駄。

 怒っている理由を聞いても無駄。

 ローザにべっとり張り付いても無駄。

 一体どうすればいいのだろうか。


「ヘルバート、ローザと二人きりにして」

「駄目です」

「大丈夫です」

「……」


 あぁ、また無視だ。

 私の事を完全に見捨てた訳ではないが、意思の疎通が出来ない。

 脚を組んだローザの口が弧を描く。


「気にしないで平気よ、トリーゼ。この男は拗ねているだけだから」

「拗ねてる?」

「あんたがあまりにも自分の事を意識しないから、どうしていいか分からない」


 ヘルバートがローザを睨む。

 その視線を受け、彼女は一層笑みを深めた。

 完璧な悪役顔だ。


「あんたが自分を大切にしないもんだから、やり場のない怒りを抱えているだけよ。『お前を大切に思う俺の気持ちはどうなる?』。そう言いたいけど恥ずかしいから口が裂けても言えない」

「ローザってヘルバートのこと何でも知ってるんだね……。流石、五年も無理矢理傍に仕えさせてない」

「私、人の気持ちを利用するのは得意なの。相手をうまく使うにはその人間を理解する必要がある」

「まさかローザが私に仲直りの協力をしてくれるなんて……!」

「見て。彼、今ものすごく嫌がってる。あはは! その顔が見れただけで今日は良い日ね。……何、あんたに協力? 死んでもするもんですか」

「性格悪ぅ」

「お褒めの言葉、ありがとう。光栄ね」


 これでもかというくらいに眉を潜めたヘルバートを見たローザが、ケタケタと指を指して笑った。

 ヘルバートが剣の柄に手をかけたので、無骨な手を必死に抑える。

 私の手が触れるか否かというところで、彼がサッと手を引いた。

 明らかに私を避けた行動に、正直傷付いたが、それを気取られるのも癪だ。

 気にしないフリをして、ローザに抱き着いた。


「だから鬱陶しい」


 ――ピシャリと頬を叩かれたが。






「ほら見て、ロメオ」


 ヘルバートが構ってくれないときは、ロメオに絡むことが多かった。

 なんやかんや言って相手をしてくれる彼の優しさにつけこんでいる。

 ガバっと服を捲り、消えかけた腹部の痣を見せつける。

 彼の視線は本に釘付けだが。


「痣消えたの。ローザのかけた呪いが消えてきてる証拠だよ」

「へェ」

「ローザにも背中に痣があるんだけどね、同じくらい消えてるんだ。良かったよ、また意識を乗っ取られたらどうしようって思ってたから」

「なるほど、止血の魔法の応用は……」

「マリアの痣はもう消えてるだろうね。あ、そう言えばこの前マリアの働くパン屋に行ってきたよ。ローザと一緒に」

「いや、これだと傷口を塞ぐ魔法式に影響が……」

「マリア、幸せそうだった。やっぱり笑顔が一番だね。――いでっ」


 脳天にずっしりとした重さが伝わって来た。

 上を見上げると笑顔とは程遠い顔をしたヘルバートが、不敬にも私の頭に肘をかけているではないか。


「俺はお嬢に笑顔を奪われてるんですが」

「自分で封印してるだけじゃん」


 ロメオが本から目を離さずに、片手をヒラヒラ振った。


「邪魔だ。さっさと出ていけトリーゼ」

「私だけ?!」

「じゃあヘルバートさんも」


 ロメオなりに私達の間に流れる微妙な雰囲気を感じ取っているらしい。

 私達を気遣ってくれているのだろうか。

(……いや、多分違う)

 彼は最近買った本に心を奪われているだけだ。

 単純に読書の邪魔だっただけらしい。



 そして、約数週間の攻防に痺れを切らしたのはヘルバートであった。

 腕を組み、苛立ちを隠そうともせず彼は口を開く。


「お嬢は、俺があなたをどう思っているかご存じですね」

「えぇ、まぁ、はい……」

「じゃあ、ロメオに肌を見せたのはなぜですか」

「純粋に、消えてきた痣を自慢してやろうと思って……」

「完全に無視されていましたが」

「別にいいかなって……」

「ロメオが変な気を起こしたらどうするんですか」

「えー! 無い無い! だって、ロメオだよ? 私を人としてカウントしてるのかさえ、定かじゃないのに」

「だから! ……そういう所ですよ」


 グッと何かを堪えた表情で、ヘルバートが淡々と述べる。


「やめて下さい。俺以外に肌を見せないで。嫌なんですよ、俺が」

「ごめん」

「謝ればいいってもんじゃないんですよ」

「む、難しいな……」

「単純です」


 ヘルバートがぐっと距離を詰めてきた。

 私を逃がすまいと上から覆いかぶさる。

 鼻と鼻の先がくっつくかと思う距離だった。


「嫉妬してるんです。あなたに触れるのは俺だけでいい。困ったら助けを請う相手も俺だけでいい。あなたが笑顔を向けるのも俺だけにして欲しいが、お嬢から笑顔を取ってしまっては唯一の取り柄が無くなってしまうので、それは勘弁してあげましょう」

「お、重いな……。失礼だし」

「やっとご理解いただけましたね。俺は重い男なんです。何年前からお嬢を慕ってきたか、あなたには分からないでしょうね。一目惚れです」


 ヘルバートは私から視線を逸らさない。

 この場を少しでも茶化そうものなら、接吻の一つでもしてきそうだ。


「―――っ!」


 ……いや、してきた。

 ムードもへったくれもない、ちょっと強引なキスだった。

 見開く私の目を見て、彼は満足そうに目を細める。

 困ってもない癖に、さも困ったように笑った。


「申し訳ありません。お嬢のペースを守ってあげたかったのですが、我慢の限界です」

「な、な……」

「大丈夫。既にファーストキスは俺がいただいてますから」


 もう一度顔を近付けてきたヘルバートを押しやり、バクバクと暴れる心臓を鎮めようとひたすら叩いた。

 ドン、ドン、と重々しい音が響く。

 これは私がヘルバートを威嚇する音だ。


「恥ずかしいからって奇行に走らないで下さいよ」

「す、既にファーストキスをいただいてます……?」

「えぇ」

「そんな訳。……あっ」


 とある考えに至った。

 すっと顔から熱が引き、思考が楽になる。

(ローザが言ってた。『あの男はお前の体で押し倒したら、何でも言う事を聞くムッツリ』って。うわ、まさかローザと体を重ねたであろう時のキスを言ってる? ……な~るほどね)


「ヘルバート。それは私の記憶に無いからノーカウント」

「じゃあ、先ほどのキスが初めてということにしましょうか」


 これから順を追っていきましょうね、と言う彼にニッコリと笑ってあげる。

 彼は純情ぶってるが、こちとらローザとヘルバートに体のお付き合いがあったことを知っているのだ。

 口では私を好きだと言いながら、本当は体目当てであったのではないだろうか。

 中身がローザの私でも、彼は全てを許してしまうのだから。


「隠さなくていいんだよ、ヘルバート。私の体が大好きだったのは知ってるから」

「……突然、何を言い出すんですか」

「私の意識が無いと思って、好き勝手やってくれたみたいじゃない。私ねぇ、知ってるよ――」


 私の言葉に重ねて、ヘルバートもまた声を発した。

 まさか、と言っている様子からして心当たりがあるのだろう。

 そして、心なしか彼の顔が真っ赤に染め上がっている。スケベな奴め。


「ヘルバートがローザの私と体を重ねたことを!!」

「毎夜、こっそりお嬢の体に触れていたことを??」


「は」「は?」


 二人してぽかんと顔を見合わせる。

 先に目を背けたのはヘルバートであった。


閲覧ありがとうございました!

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