第十話 忍び寄る強者
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ロメオとトリーゼは似た者同士。
「だぁから、何度言えば分かんだよ! わざとか?!」
「ぐ。……じゃあもう一回やるから見てて! えい!」
「~~~~んで、毎回出す魔法が異なるんだよ! 訳分かんねぇ!」
「何が出るかはお楽しみってこと? ドッキドキだね!」
「そのまま心臓止めちまえ!!」
ジャキン
「「ひぃぃ」」
「……何やってるんだ、あの二人は」
ヘルバートは庭で騒ぎ続けているトリーゼとロメオを見つけた。
そして、遠くに控えるマルルスも。
どうやらトリーゼはロメオから魔法を教わっているらしい。
いや。規則性のない彼女の魔法に、国家治癒魔法士(最年少)が匙を投げかけているという方が正しいか。
このままでは、彼女の成長は見込めまい。彼女は基本の「き」すら知らないのだ。
そんな相手に魔法のエリートが教えを説くのは、いささか早計ではないだろうか。
「お嬢」
「あ、来た! 私のまぼろ師匠!」
「魔法の練習ですか?」
「うん。ロメオってね、この見た目の割には魔法が凄いの。こんな真っ赤な髪してるくせにね」
「関係ねぇだろ」
トリーゼはロメオの頭をツンツンと突くが、彼は鬱陶しそうに頭を振るだけで激高はしなかった。
(驚いた。彼がここまで絆されるとは)
やはり精神年齢が近い者同士は波長が合うのだろうか。魔法のレベルは雲泥の差だが。
「ロメオ。お嬢に実践は早いのではないでしょうか。この方は魔法という存在をつい最近知ったのです」
「え? ヘルバートさん、今なんて……?」
「え? ヘルバート『さん』なら、私はトリーゼ『様』じゃないの……?」
衝撃を受けるロメオと、別の意味で衝撃を受けるトリーゼ。
彼女はようやっと、自分がロメオからかなり舐められていることを自覚したようだ。
「実践より理論。まずは座学で魔法とは何たるかを教えて差し上げた方がよろしいかと」
「確かに。このままだと、オヤジの職が無くなっちまうなァ……」
ロメオは三白眼で周囲を見渡した。
暴風により葉が散り、業火により芝生が燃え、氷により土が凍っている。
トリーゼの暴走は、暴言を吐き散らしながらも、なんやかんやでロメオが相殺していた。
そのため、被害は比較的小規模に抑えられている。
「はぁ……。コイツに座学……。考えただけで頭が割れそうだ」
「ロメお師匠……。そこをなんとか」
「もう魔法は諦めろよ。お前にセンスはねぇ」
「駄目! 借金が残ってるの!」
「は? 遂にイカたのか?」
ロメオの困惑も最もだった。
トリーゼ・ファルシカ。大貴族に名を連ねるファルシカ家の人間が、借金?
自分を雇うのに大枚をはたいたと言われる彼女が――「借金」?
+*+*+
私はロメオに借金の経緯を赤裸々に述べた。
とある職人に作品を依頼し、一方的に約束を反故にしたこと。
そして一億ルシカの借金を課せられたこと。
案の定、彼は途中から耳糞をほじりながら聞いていた。
「んだよ、身から出た錆じゃねぇか。とっとと家の金で返せよ。相手も困るだろ。オマエが地道に自分家の口座に金入れりゃいい話じゃねぇの」
「ごもっともなんですけれども、それじゃあ多分相手は納得しない気がして……。私が苦しむ必要があるっていうか……」
「ふぅん。殊勝なこって。じゃ、頑張れよォ」
薄情だ。この男は。この場から逃げたいという姿勢がひしひしと伝わってくる。
小指で何となくこちらに向けて耳糞を放った様な気もするし、このまま逃がしてはならない。
ロメオの服を掴み、懇願する。
「お願い!」
「嫌だ」
「そこをなんとか!」
「諦めろ」
「もうひと声!」
「……ヘルバートさん。人語もままならねぇ動物に魔法は早すぎる」
「そうですね……。ロメオと知能の差があり過ぎますね。お嬢が癇癪を起してしまう可能性が高い」
ヘルバートは本気で心配をしていた。
勉強によって知恵熱を出して気絶した現トリーゼが、前トリーゼに戻ってしまう厄介な事態を。
「ロメオもお嬢を嫌いでしょう? そんな相手と二人きりになる状況は互いの精神衛生上、避けた方がいい」
「あ! いま『も』って言った! ねぇ! 傷付いた!」
「まぁ……、あんま言いたかねぇですが、そこは平気っす。コイツは前よりマシになったんで。……でも一体、コイツに何があったんです? まるで他人だ」
「俺にも分からないんです。ある時、乱心されて以来、性格が反転してしまったようで……」
「え、自分の腹を殴りつけたっていう噂は本当なんすか?!」
「はい」
「あっはははは! マジかよ! オレも見たかったー! さぞかしその場は盛り上がったんだろうなァ!」
カチン。
私は息を吸い込む。大きく吸い込み、喉をこれでもかという程震わせた。
「あ、マルルスさん!!!」
瞬間、ロメオはゲラ笑いを止め、怯えたように辺りを見渡し始める。
ここぞとばかりに私は高笑いを響かせた。
「あっははははは! 引っかかってやんの~」
「ぶち殺す!!」
ッジャキン
「「はっ」」
彼が、いた。背後に。
背筋が凍る。いつの間に忍び寄っていたのか。
隣にいるヘルバートは恐ろしい程にしれっとしているので、絶対気が付いていた。
「そそそ、そうだね! ロメオ! じ、じゃあ明日――し、しょ、書庫でね! 勉強、お願いしまーす!」
「おっ……、おう! まっ、任せろ! 居眠りしねぇように、しっかり寝ろよォ!」
――クモの子を散らすようにして、二人は逃げた。
お読みいただきありがとうございました!
明日はもしかしたら更新が無いかもしれません。。
ロメオとの掛け合いも楽しいのですが、そろそろトリーゼにはヘルバートとも遊んであげて欲しいと思ってたりします。




