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砂漠の紅華  作者: 馬来田れえな


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籠の中の鳥

「マリナ様。果物をお持ちしました」


「マリナ様。お召し替えをいたしましょう」


「マリナ様。気分転換に宮殿内をお散歩いたしませんか」


入れ替わり立ち代わり、侍女が私に話しかける。


私は軽くうなづき、ただ微笑む。


微笑んでいるとは思わないだろう。


ぎこちなく口角が上がっただけだ。

 

侍女たちは困った顔をしながらも

優しく私の世話をしてくれる。

 

自分の置かれた状況にいまだ慣れない。

 

どんな仕打ちを受けるのかと

怯えながら

王宮に連れてこられたら拍子抜けした。


私に用意されていたのは

クローゼットに収まりきらないほどの豪華な服、

毎食おなかいっぱいになるほどの食事、

天蓋がついたふかふかのベッド。

あれやこれやとお世話をしたがる私付きの侍女。


離れのナダを連れてきてくれないかという

私の意見は当然無視されたが、

私には宮殿内に立派な生活空間が整えられたのだ。


まるでお姫様扱い。


「マリナ様」と様付けされて上げ膳据え膳。

 

「麗しい赤毛ですこと」と言われながら

髪まですいてもらっている。

 

一体どういうことなのだろう。


だから髪はただ染めてるだけなんだよ。


アディスの考えが全く読めず、ひどく混乱した。

 

宮殿に拉致されてから侍女のように立ち働くことがなくなり

思いつめる時間が増えた。


どうも鬱っぽい。

 

シャフィを失った悲しみが

今更になって押し寄せてきている。

 

食欲が一切なくなり表情も乏しくなった。

 

離れでライリカやナダと過ごす忙しい日々の中で

あまり考えないようにしてきたが、

シャフィに会う前の記憶は相変わらず思い出せていない。 

 

思い出そうとすればめまいがして吐くようになってしまった。

 

私は椅子に座り、部屋に面する中庭を眺めて一日を過ごした。

 

ミアがシャフィのことを知った時のショックを思うと

気がおかしくなりそうだ。

 

そもそもミアが無事なのかどうかもわからない。

 

叔父さんのもとで身の安全は保障されているのだろうか。

 

アディスにはシャフィの家族の居所は筒抜けのはずだ。

 

彼らがどのような仕打ちを受けるのか、

悪い想像は止まらない。

 

胃がキリキリ痛む。

 

帰る場所は分からず、

この地で出会った母と弟とまで慕った人たちからも引き裂かれた。


離れでの侍女としての暮らしも奪われた。

 

残ったのは絶望だけ。

 

私の目から涙がとどまる事はなかった。


ある日、私が食事をとらず沐浴もしようとしないと

侍女たちか 聞きつけたアディスは

私の部屋を訪ねてきた。

 

私はアディスが部屋に入る事を拒んだ。

 

するとアディスは怒り出し、

ドアを蹴破って押し入ってきた。

 

こいつは怒りと暴力でしか物事に対処できないのかと、

悲しみにささくれだっていた心は憎悪で染まった。


無言で睨みつける私の頬をアディスはぶった。

 

私をかばおうとした侍女も一緒にぶたれた。

 

アディスは私に「食事をとれ」と怒鳴りつけ、

侍女たちにもちゃんとマリナの面倒を見ろと吠えた。

 

彼女たちも、当然アディスの命令には逆らえない。

 

ただただ頭を下げて許しを請うだけだ。

 

私のせいでぶたれたり怒鳴られたりする侍女たちを見ていると、

「私がこんな状態じゃいけない、しっかりしなくては。」

という思いが芽生えた。

 

私のせいで傷つく人をこれ以上見たくない。

 

その後の食事から、私はきちんと食べるようにした。

 

味なんてしない。


砂をかんでいるみたいだ。

 

いつも私の心にはシャフィの影があり、

私は悲しかった。

 

彼の美しいダークグリーンの瞳が忘れられない。

 

悲しくても辛くても残された私は生きなければならないのだ。

 

シャフィが身をもって守ってくれた命だ。

 

大切にしなければ。


強く生きなければ。

 

その日、食べる私を見て侍女が泣いた。


また泣かせてしまった。


食事もとり、沐浴も行う。

 

早寝早起きをして身だしなみにも気を遣い、

生活リズムを整えた。

 

人間としての生活を少しずつ取り戻していった。

 

もう、誰も傷ついてほしくないから。

 

廃人みたいに振る舞っていては、

救ってくれたシャフィにも申し訳が立たない。

 

王宮で暮らすと言っても、

私の肩書は「メリト・ネスウト」王付きの侍女で

いわゆる幽閉状態にある。


私が探索できるのは自分にあてがわれた部屋と

部屋に通じる中庭だけだった。

 

まるで鳥かごの中の鳥のようだ。

 

鳥かごで侍女たちと過ごす日々はおだやかで、

シャフィの死を少しずつ、ほんの少しずつ癒してくれた。


それだけは救いだ。


アディスが時々私の様子を見に訪れたが、

私は無視を貫いた。

 

侍女がぶたれるのは見たくないから、

彼の訪問には応じたけれど

ただ無言でその場をやり過ごした。

 

訪問を拒否しない私に対して

アディスは怒鳴ったり暴力をふるう事はなかった。

 

毎回アディスは「今日もだんまりか。また来るとしよう。」と

あいさつの様につぶやいて

私の部屋から去った。

 

弟と慕ったシャフィの仇だ。


話す事などなにもない。


アディスは私がかたくなに心を開かない事で

戦法を変えてきた。

 

ハビエルを寄こすようになったのだ。

 

ハビエルは表情に乏しく感情が全く読めない男だ。

 

ストレートロングの髪の毛は艶やかで

一見女性と見間違うような中性的な人。

 

アディスよりひと回りほど年上らしいが、

そのミステリアスさから

年齢を感じさせない若々しさを備えている。


アディスの右腕で

シュメシュのブレインと噂される才子。

 

誰の言う事も聞かない暴君が

唯一耳を貸すのがハビエルという男だ。

 

宮殿に仕えるものは皆ハビエルを信頼し尊敬した。

 

「マリナ様。かの者の件は致し方なかったのです。

いかなる理由があろうとも罪は罪。

そうでしょう?」


ハビエルは表情筋一つ動かさず私に問いかける。


「……でもアディスはひどいよ。冷酷」


私は侍女が淹れたお茶を片手に、

ハビエルと会話をするようになっていた。

 

わたくしと話すように

アディス様にも気さくに話してほしい、

というのが彼の口癖だ。

 

「アディス様は砂漠の富める国シュメシュの王です。

時には、いえ。常に、厳しいご決断を強いられています。

その不動の精神こそ、シュメシュが繁栄の証。

気を抜けば命など一瞬でかすめとられる砂漠の地において、

力をもって制することは必要なのです」


「…………あいつ、私の事も殺そうとしたもんね。

ハビエルが私をメリト・ネスウトに、って言わなかったら

きっと私はあの時死んでたよ」


「あなた様を救おうとはしておりませんよ。

ただわたくしはアディス様が神に背きかねんと判断し、

申したまでです」


「……ふふっ。私の為ではなくて、

あくまでアディスの為ってことね。

忠誠心の厚い腹心がいて、あいつは幸せ者だわ」


「もったいないお言葉にございます」


「ねぇ。いつも思ってたんだけどさ。

なんでそんな敬語使って私にへりくだるの?

それに、ここに来た時から侍女はずっと私に付いてくれてて。

申し訳ないし。やめてほしいよ。まじで」


「は?」


「だって私も侍女でしょ?

ずっと思ってたの。

なぜかわかんないけど。

こんな豪勢なお部屋にいさせてもらってるし

着ていく所もないのに服も多すぎるから

毎日選ぶのが大変でさ。

まるでお姫様みたい。

アクセも家にいるだけなのに

侍女がつけるようにって、うるさいの。

ごはんも沢山出てきて太っちゃうよ。

それに……こんな暮らししてるなんて

あんな風に死んじゃったシャフィに顔向けできないよ」


「……………………マリナ様。

大きな勘違いをされているようですね」


ハビエルの声に真剣さが増した。

 

「勘違い?」


「はい。王付きの侍女と申しましても

「メリト・ネスウト」つまりマリナ様は王に愛される女人。

王に最も近い方であるマリナ様を、

アディス様に仕えるわたくしどもがお慕いしないわけがないでしょう」


「ん?アディスに最も近い方?」

 

「ですから、アディス様と契りを結ばれる方ということになります。

 つまり、アディス様とマリナ様は婚姻関係を築き、

いずれマリナ様は王妃になられるお方だと申しております」


「…………ええええええええええ!?

私が!?王妃!?

あのアディスと!? 

け……結婚!?」

 

ショックを隠せず動揺する私を置いて

「結婚は今すぐというわけではない」とため息をつきながら、

ハビエルは部屋を後にした。


あんまりだ。


涙がほほを伝う。


シャフィを殺した相手と結婚するなんて。


おぞましい。


あの時一緒に処刑されていれば良かった。


死ぬより辛い。


まさに生き地獄だ。


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