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砂漠の紅華  作者: 馬来田れえな


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12/58

暴君の来訪

ある日の午後。


侍女たちと休憩がてらお茶を飲み

談笑している時だった。


「アディス様がいらっしゃいました!」

 

離れの警備がやってきて声高に伝える。

 

くつろいでいた侍女たちは大慌てで場を片付け、

王を迎え入れるため整列し、ひれ伏す。

 

(アディスが来るなんて……聞いてないよ!)


内心焦りながらみんなに倣う。

 

(どんな顔をすればいいの。

あいつの顔を見たらまた泣いてしまいそう)

 

アディスとはここに連れてこられたあの夜から

顔を合わせていない。

 

まさか、侍女のいる離れに来るとは思っていなかった。


(王様ってそんなに暇なの?)

 

侍女たちは頭を下げたまま

コソコソ話を続ける。


「アディス様がいらっしゃるなんて、めずらしいわね」


「あたしら、なんかやらかした?」


「何でもいいわよ。

あの美しいお顔を拝見できるだけで幸せだわ」

 

侍女たちはアディスを畏れてはいるものの

ビジュアルは最高だといつも話している。

 

足音がだんだん近づいてくる。


側近を連れ、アディスが現れた。

 

地面に顔をこすりつける勢いでひれ伏すのが、マナーだ。

 

すんごい屈辱的。


「侍女たちよ、ご機嫌いかがかな」


ハビエルの声だ。


柔らかい声だが、顔は無表情なんだろうと察しが付く。

 

ライリカが応じた。


「はい、おかげさまで皆変わりなく過ごしております。

これもひとえにアディス様のご慈悲によるものです」


反吐が出そう。

 

侍女たちは一様に頭を下げ微動だにしない。

 

唐突にアディスが口を開いた。


「マリナ。面をあげよ」


(は?ご指名?嘘だと言って)


私は固まったまま動けない。


「マリナ。聞いているのか。面をあげよ」


少しいらだった口調でアディスが言う。

 

沈黙を貫く私に、横にいた侍女が私をひじで小突いた。

 

私は反応せず、地面に顔をこすりつけたままじっとした。


「ほう……このアディスを無視するとは、侍女の身分でいい心構えだ。

 悲しい事だが、口で言っても分からん者には体で覚えさせなければな」

 

その瞬間、私の体が宙に浮いた。

 

アディスに首をつかまれ持ち上げられたのだ。


「!?苦……しい!!」


声にならない。

 

異変に気付いた侍女が顔を上げた瞬間

悲鳴をあげる。

 

「お前のこんな細い首など、簡単に握りつぶせるぞ。

声ももういらんだろう。

返事をしないのだから」


涙目になる私を見下し、アディスは高らかに笑った。

 

「お、恐れながら申し上げます!アディス様!

わたくしの監督不行き届きにございます。

以後しっかりと躾けますので、

どうかマリナをお許しくださいませ!」


ライリカが叫ぶようにまくしたてると同時に、

ハビエルが「アディス様。お戯れはそれくらいで」と諭した。

 

アディスはつまらなさそうに

「分かっておる。こんなもの暇つぶしにもならんわ」

と言って、私を解放した。

 

私はそのまま地面に倒れ込みちょっと吐いた。


侍女たちが困惑しているのが分かったが、

彼女たちはひれ伏す事しか許されない。

 

ライリカも地面に埋もれるのではないかというぐらい土下座をして

「お許しください」を連呼している。


(負けてられない……こんな男に)


「げほ!、、けほ!!」


せき込みながらも私は立ち上がった。


「……なにが王様よ!!

人をいたぶって弄ぶしか能がない男が、

一国の王だなんて笑わせるわ!」


「マリナ!何てことを言うんですか!!」


ライリカが私の侍女服のすそを

ものすごい力で引っ張った。


「許さないんだから!

私の大切な人を奪ったあんたを、

私は絶対に許さない!」


怒鳴りつけられたアディスは驚いた顔を一瞬見せたが、

また氷のような表情に戻り

意地悪な笑みを浮かべて言った。


「まいったな。

どうしているか様子を見に来ただけなんだが。

こんなに元気があったとは。

心配して損したぞ」

 

「あんたなんかに心配されたくない!

早く出ていって!」

 

「吠える犬ほど、躾けがいがある。

それに出て行けとは、ひどい言い草だな。

ここは我が王宮の一角。

私の情けでお前はここに留まり

食べものも寝床も、服も与えられている。

出ていくべきなのはお前の方だが」


「うるさい!!屁理屈言うな!!」

 

「マリナ!いい加減になさい!

アディス様!ハビエル様!申し訳ございません。!

マリナ、下がりなさい。無礼が過ぎます。

王の御前より下がりなさい!」

 

ライリカがこれまでにないくらい私に怒った。


「でも…ライリカ…」


「お下がりなさい。侍女長としての命令です」


怒りに燃えるライリカには逆らう事ができなかった。


私はおずおずとその場を去った。

 

「元気ならばそれでいいんだ。また来るからな」

と去っていくアディスの笑い声が耳障りだった。

 

私はその日から三日間、

反省部屋という名の個室に軟禁された。

 

食事もおあずけ、水だけ与えられるという始末。

 

だけど、ナダが夜中に差し入れを持ってきてくれて

それで生き延びた。


「マリナってば、ほんと怖いもの知らず。

私ちょっとチビった」


ナダが厨房から盗んだパンをほおばりながら

呆れた様子で言う。


「……だってアディスの奴むかつくんだもん。

あんなのが王様なんてこの国やばいよ」


「マリナは色々あったからアディス様のことそう言うけど、

素晴らしい方なんだよ」


「どこが素晴らしいのよ?

私の首絞めたんだよ」


「首絞めただけで終わった。

マリナ今も生きてる。

普通なら返事しなかった瞬間に斬り殺されてる。

アディス様が殺さなかった!!って

王宮中の噂になってる」

 

「………は?」


「侍女があんな物言い、前代未聞。

ライリカ寝込んでる」


「うそ」


「マリナはもっと侍女として、

王に仕える者としての自覚が必要。

常識がない」


年下の女の子にこう本質を突かれると

ぐうの音も出ない。


「それに、マリナは自分が思っているより

相当アディス様に気に入られている。

きっとこれまで仕えた従者の誰よりも。

下手したらハビエル様より好きかもね」

 

「は?んなわけないじゃん」


「…………まあ時期が来れば嫌でも分かる。

 そろそろ警備が来るから私は帰る。

じゃあね。パンしっかり食べろ。おやすみ」


そう言い残してナダは暗闇へと消えた。

  

残された私はナダの話を繰り返し考えたが

どう見積もってもアディスに気に入られているとは

到底思えなかった。

 

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