第15話 出会い 後編
リハビリの先生は即座に「楽器が出来る事より性別重視か」と聞くと、吉田という女性は笑顔を作って「だって女が増えるとライバルになっちゃうでしょう。結婚相手を探すためにバンドをやっているのだから」と言い返した。もう二人のバンド仲間の男性陣はこの吉田という女性に何も言い返せないでいる、きっと候補者から外されているのだろう。
「高校二年生ってまだ十六歳ってことよね。私よりも四歳、歳下じゃん、ラッキーよ、姉さん女房ですもの」
僕が何も言い返さないでいると、リハビリの先生の思惑に乗ってバンドのメンバーにさせられてしまい、さらには遠くない将来、ウエディングマーチを聴くことになりそうだったので「あのぅ、僕、楽器できないんですけれども・・・」と小声で言ってみた。
吉田さんというバンドリーダーに僕の声は聞き取れていたようだ。
「あっ、本人がいたんだ。気が付かなかった、楽器なんてあとあと、まずは参加することに明日がある」
正直な感想を言ってしまうと『なんて自分本位な女なんだ!』というイメージがこのあともずっと吉田というフランス人のような瞳をした女性に付きまとう事になるのだが、兎に角、この件に関して僕に決定権はないらしいので結論を先延ばしにする事を優先した。
「欲しいのはピアノ演奏者かな、私が教えてあげられるし自信がないんだったらオルガンでもいいよ。最悪、ピアニカでもいいや」
吉田さんの人を小馬鹿にした言い方は腹立たしかったが、バンドに入ってピアノを本気になって覚えたい気持ちは僕の中にも充分にあった。でも、この小生意気な女性に教えを乞おうとは思わなかった。
「ちょっとだけ時間をもらってもいいですか?」
この言葉を口にするには、ある種の勇気が必要だった。僕はこの吉田という四歳年上の女性の無作法な性格に相反する風貌と、決して見ることが叶わないのに青く光を反射させる瞳に魅力を感じていたので、またすぐに会える口実が欲しくなっていたのだと思う。
「いいよ、ちょっと考えてピアニカを選んだら蹴っ飛ばしてやるから」という言葉に続き「君ってまだ見えているの?」と直球で聞いてきたのも彼女らしい。
「もうすぐ見えなくなると思う」と僕は素直に答える事ができた。
「ふ〜ん、そうなんだぁ、じゃあ、ピアノを覚えてきてよ。ビートルズのコピーバンドやっているからピアノがいいの。ところで君って名前なんだっけ」
唐突だ。僕に名前を聞く質問にビートルズを絡めてきた。
「村尾です」
「苗字じゃあなくって名前よ」
「あぁ、名前は良雄です」と答えた。すると吉田さんは「良雄くんね、覚えた。私はみゆき、吉田深雪。深く積もる雪の降る日に生まれたから深雪、覚えてくれた?」
二人の会話に何も言わなかったリハビリの先生がやっと口を開いて出てきた言葉は「吉田さんって深いって漢字に雪だったんだ。未練がましい残雪の雪だまりで深雪かと思っていた」だった。
「やっつけてやる!」
この吉田深雪という女性なら本当にやりかねない事を先生に向かって言ってのけた。




