5話 古参の新人がささやかながら最前線の事を教えてくれる
「転属?」
「ああ、こっちに入ってくるって」
朝礼にて、事前の打診を受けた。
その事をタクヤは班員に告げていく。
「負傷から復帰した人が来るって」
「じゃあ、また腰掛け?」
「リハビリかよ」
不満が口から出てきた。
それも仕方ないだろう。
体の一部を失うほどの負傷を受けた者は、治療を受けた後に仕事に復帰する。
とはいっても、そう簡単に元の場所に戻れるわけでもない。
体が元に戻っても、復活した部位が簡単に動くちうわけでもない。
今までと同様に動かせるよう馴染ませる必要がある。
なので、それまでの期間は比較的簡単な作業に従事する事が多い。
これを『腰掛け』『リハビリ』と読んで嫌う者もいる。
どうせ一時的にしかいないし、結局は他所にいくから仕事を教えても意味が無いからだ。
だが、そんな班員の言葉をタクヤは否定していく。
「いや、そうじゃない。
本当に転属してくるって話しだ」
一時的にやってくるというわけではない。
完全に自分達の所に入るという事になる。
「なんでまた?」
「わからない。
詳しい事は聞いて無ない」
なにせそういう話しがあるとだけ伝えられただけだ。
詳しい事までは輪からない。
「来た時に聞くしかないか」
「ああ、その事ですか」
やってきた新人というか転属希望者は、困ったような顔をして答えていく。
「大怪我をして、何とか助かったんですけどね。
もうどうにもならなくて。
戻ろうとすると体がすくんじゃうんですよ」
「なるほど」
心理的なものなのだろう。
体の傷は治っても、心がついていかないのだろう。
「そういうわけなんで、ここに厄介になります」
そう言って頭を下げていく。
「こっちもな」
「よろしく」
タクヤ達もそう声を返していった。
森山タダヒロという転属者は、思った以上に使える人間だった。
元々前線で働いていたというだけあって、仕事はしっかり出来る人間だった。
23歳という、この中で最年長なだけはある。
それだけ勤務期間が長く、様々な業務をこなしてもきたのだろう。
タクヤとしてはありがたい人材だった。
単純に1人増えたというのも大きい。
それだけ余裕が出来る。
仕事が楽になるというのもあるが、そうやって出来た余裕で研修にも行ける。
もとよりそれなりに研修に出向いてはいたが、それも仕事が比較的空いてる時期を狙ってのものだ。
それが今は、1人が抜けても元の人数を割り込むわけではない。
受けておきたい研修や講習を取る事が出来る。
順番待ちにはなるが、行ける回数は増えた。
車輌の運転から様々な銃器の取り扱い、車輌や機器の修理など。
なかなか学べる機会がなかったものにも手が出せるようになっていった。
恩恵はタクヤにももたらされる。
班長という立場だったのでなかなか行けなかった研修にも出られる。
いない間の事は森山に任せておけばよい。
経験と能力があるので、班長の代理ならば充分にこなせる。
必要そうな、出ておきたかったものを片っ端から受講していった。
傍らか見ればかなり熱心に研修に出向いていった。
「この先どうなるかわかりませんしね」
そういう森山の言葉も後押しをしていた。
「前線もどんどん忙しくなってるようでしたし。
後方にいた俺らまで戦闘に巻き込まれるくらいですから。
この先、何がどうなるやら」
だとすれば、今のままというわけにもいかないだろう。
どこまで余裕があるかは分からなかった、この先も生き残っていくにはそれなりの備えはしておきたかった。
いつ、何処で、何に巻き込まれるのか分からないのだから。
それに、いつまでもこの余裕のある状態が続けられるかわからない。
人数の調整が入る可能性はある。
そうなったら研修に出向いてる暇もなくなる。
いつ終わるか分からないこの状態のうちに、やれる事をやりきっておきたかった。
22:00に続きを出したいところ