ふぁいなるあんさー
「にゃあ」
鳴いてみた。狭いアパート。通路にある台所から部屋のほうへ、ひょっこりと美鈴が顔を出す。
「急にどうしたの?」
「暇だから構って欲しかったのだ」
そして実際に美鈴が釣れたので僕の目論見は大成功したと言えるだろう。美鈴は「この馬鹿はまったくもって恥というものを知らないのだろうか。本当にこの馬鹿は」という顔をして部屋に入ってくる。だけど僕の隣のクッションに腰掛ける頃には「だがそれがよい。よろしい。もっとやるがよい」という感じの笑みに変わっている。
「あのさ、人の表情に的外れな解説をつけてご満悦な顔をするのはやめてくれないかな」
「なんと。僕ってよく何を考えてるのかわからないって言われるんだけど、なんで僕の考えてることがわかったんだい?」
「あんたは何も考えてない」
「ファイナルアンサー?」
「ファイナルアンサー」
「……!」
「どや顔でカメラ目線になってもあんたはみのさんにはなれないから。あと尻を撫でるな。殺すぞ」
「わかってないな! 尻を撫でるまでがモノマネなのさ」
「ところにより血の雨が降るでしょう」
「尻を撫でられた……女子アナの真似だと?」
あまりにも高度な返しに僕は恐れ慄いた。
厳密には (某司会者さんに尻を撫でられていた) アナウンサーさんとお天気予報の人は別のような気がしたが、僕は朝の番組を見なくなって久しいのでそのあたりのことはよくわからなかった。
「あ、あと正解」
「ん?」
「何も考えてない→ファイナルアンサー。に対して」
「ああ、知ってた」
「せつない」
顔を見合わせて苦笑する。
「今日のご飯はなに?」
「カレー。あとルー割るだけだから鍋を離れても大丈夫なのだ」
「わお、なんかカレー食べるの久々な気がする」
ちなみに普段の料理担当は僕だったりする。僕らは二人とも社会人二年目だが、帰る時間が彼女のほうが遅いのだ。ちなみに給料も彼女のほうが高い。
「ふむ」
なんとなく手持ち無沙汰になって、美鈴が僕の胸に頭を押し付けてきた。
「にゃあ」
それから鳴いた。
「!」
「さっきあたしが釣れたからあんたの目論見は大成功だー、とか考えてた?」
「なんでわかるのさ」
「勘」
女の勘、恐るべし……!
「ほんとうになんであたしはこんなのに釣られたんだろうか」
「こんなのってひどいなぁ」
「真っ当な成人男性は二十歳超えてるのににゃあなんて言わないのだ」
「まったくだ」
「納得するな!」
ネコパンチされた。
美鈴が離れていく。台所に戻って、カレールーの包装を破る音。
「おまえなんてカレーでも食ってろ。玉ねぎ食べて体壊せばいいんだ」
猫などの小動物に玉ねぎは毒物です。取り扱いにご注意ください。
「いただきます!」
「元気でよろしい! 違う!」
美鈴はカレールーを鍋に投入し、かき混ぜている。暇なので僕は美鈴の邪魔をしに行く。
「君のメンタルが鋼鉄すぎて生きるのが辛い」
「そうでもないよ」
「じゃあ最近傷ついたことは?」
「自分の彼女が仕事終わりに、誕生日プレゼントに贈っていつも薬指にしてる指輪を外してたこと」
「思ったよりデリケートだった」
「ありがとう!」
「褒めてない」
「にゃんと」
「わざとらしい。そしてあざとい」
「にゃんだと」
「しつけえ。台所狭いから部屋に戻ってなさい」
「はーい」
将来的にもこんな風に生きれたらいいなーと僕は思うのだった。




