生と死の同時再生
今日もぼくは生きている。別の言い方をすれば、死に向かっている。つまり、人間は生きながらにして少しずつ死んでいるんだ。
――さて、では。
「君は『死』って何だと思う?」
「いきなりなかなか究極的な質問だね。君も難しいことを聞くなあ」
不平を漏らしながら肩をすくめる彼――ぼくの友人。しかし、そのカオはどこか楽しそうでもあった。
「死、か。何かって言われると明確な答えはわからないけれど、こわいものだとは思うよ」
「君は、死ぬのがこわい?」
「もちろんだよ。できるだけ安らかに死にたいものだね」
「つまり、君は死が痛くて苦しいものだと?」
「だって、病気になるとすごく苦しんで死ぬでしょ? そんなの嫌だよ」
ああ、結局彼もそんな答えか。ぼくは少し失望を覚えた。
「いいかい? それは『死そのもの』がこわいんじゃなくて、死ぬまでの過程に感じる苦痛がこわいだけだ。だから、『死』がこわいものだとは言えない」
「でも、死んだら自分の持ってる記憶がなくなるし、自分か消えること自体こわくない?」
「死とは『無』だ。つまり、何にもないんだよ。そこに君は存在しないんだから、『消えた』と認識することは不可能だ」
そう、死んでしまえばすべてが無に帰す。そのとき、「消えた」と認識する誰かの脳は存在しないのだ。
「さらに言うなら、生と死は同時に存在しない。ぼくらが生きている間、『死』というものは存在しないんだ。だから、死イコール恐怖というのは間違っているのさ」
「そんなに自分の意見がしっかりしてるなら、最初から聞かないでほしいなあ」
「ああ、ごめん。君からなら、何か面白い意見が出るかと思ってね」
「つまらない意見ですいませんね」
わざとらしくそう言って、ぷいっとそっぽを向いてしまった彼に苦笑する。ぼくは正直なだけであって、悪気はまったくないのだ。
すると、彼は呆れたような声を上げた。
「まったく、君はどうしてそんなことを考えるんだい? そんなに『死』について知りたい? そんなに――早く、死にたい?」
彼の真っ直ぐな目がぼくを見据える。それを見て、ぼくはふ、と笑みを浮かべた。
「まさか。ぼくは生きるために、『死』を知りたいんだ」
「はい?」
「だってそうだろう? ぼくらの終着点は『死』だ。それは誰にも避けられない」
「うん、そうだね」
「だから、『死』あってこその『生』なんだよ。終わりのない始まりは有り得ないだろう?」
「うーん、わかったような、わからないような……」
「つまり、ぼくは『死』を知ることで、それまでどうやって生きるべきか考えたいんだ」
「ふぅん……」
自分で言ったとおり、理解したのかしていないのか、彼は曖昧な返事をしただけだった。
けれど、別に理解してもらわなくてもいい。理解してほしいとも思っていない。ぼくは、彼が聞いてくれているのをいいことに、ただ自分が考えていたことを自由に述べているだけなのだから。
「生と死は同時に存在しない。でも、ぼくらが生きているってことは、少しずつ死んでいるってことなんだ」
「矛盾してない? それ」
「してないよ。生と死『そのもの』は、同時に存在しない。でも、年をとるってことは死に近づいてるってことだろう?」
「まあ、それは確かにね」
ぼくの考えを理解できなくても、彼はぼくを理解してくれる。そんな理解者がいるだけで、十分なのではないだろうか。
「だから、生きるってことは、少しずつ死んでいるということになんだ。それなのに、生と死は同時に存在しない。どうだい? 死について考えることは、こんなにも面白いんだ」
「そうだね、面白いかどうかは別として、君が生き生きしてるってことは確かだよ。君の言ったとおりだね」
「何がだい?」
彼の言葉の意味がわからずそう尋ねると、彼はふ、と皮肉めいた笑みをよこした。
「死あってこその生、なんでしょ? 君は『死』について考えてるときが一番生き生きしてるよ」
「ああ、なるほど」
やはり彼はぼくをちゃんと理解してくれる人物だ。ぼくはその事実に満足して、にこ、と笑みを浮かべた。
生と死は同時に存在しない。なのに、ぼくらは生きながらにして死んでいる。ああ、何て面白いのだろう!
さて、では。
(死、とは何か?)




