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last Eden  作者: 久遠夏目
2010年
46/73

生と死の同時再生

 今日もぼくは生きている。別の言い方をすれば、死に向かっている。つまり、人間は生きながらにして少しずつ死んでいるんだ。

 ――さて、では。


「君は『死』って何だと思う?」

「いきなりなかなか究極的な質問だね。君も難しいことを聞くなあ」


 不平を漏らしながら肩をすくめる彼――ぼくの友人。しかし、そのカオはどこか楽しそうでもあった。


「死、か。何かって言われると明確な答えはわからないけれど、こわいものだとは思うよ」

「君は、死ぬのがこわい?」

「もちろんだよ。できるだけ安らかに死にたいものだね」

「つまり、君は死が痛くて苦しいものだと?」

「だって、病気になるとすごく苦しんで死ぬでしょ? そんなの嫌だよ」


 ああ、結局彼もそんな答えか。ぼくは少し失望を覚えた。


「いいかい? それは『死そのもの』がこわいんじゃなくて、死ぬまでの過程に感じる苦痛がこわいだけだ。だから、『死』がこわいものだとは言えない」

「でも、死んだら自分の持ってる記憶がなくなるし、自分か消えること自体こわくない?」

「死とは『無』だ。つまり、何にもないんだよ。そこに君は存在しないんだから、『消えた』と認識することは不可能だ」


 そう、死んでしまえばすべてが無に帰す。そのとき、「消えた」と認識する誰かの脳は存在しないのだ。


「さらに言うなら、生と死は同時に存在しない。ぼくらが生きている間、『死』というものは存在しないんだ。だから、死イコール恐怖というのは間違っているのさ」

「そんなに自分の意見がしっかりしてるなら、最初から聞かないでほしいなあ」

「ああ、ごめん。君からなら、何か面白い意見が出るかと思ってね」

「つまらない意見ですいませんね」


 わざとらしくそう言って、ぷいっとそっぽを向いてしまった彼に苦笑する。ぼくは正直なだけであって、悪気はまったくないのだ。

 すると、彼は呆れたような声を上げた。


「まったく、君はどうしてそんなことを考えるんだい? そんなに『死』について知りたい? そんなに――早く、死にたい?」


 彼の真っ直ぐな目がぼくを見据える。それを見て、ぼくはふ、と笑みを浮かべた。


「まさか。ぼくは生きるために、『死』を知りたいんだ」

「はい?」

「だってそうだろう? ぼくらの終着点は『死』だ。それは誰にも避けられない」

「うん、そうだね」

「だから、『死』あってこその『生』なんだよ。終わりのない始まりは有り得ないだろう?」

「うーん、わかったような、わからないような……」

「つまり、ぼくは『死』を知ることで、それまでどうやって生きるべきか考えたいんだ」

「ふぅん……」


 自分で言ったとおり、理解したのかしていないのか、彼は曖昧な返事をしただけだった。

 けれど、別に理解してもらわなくてもいい。理解してほしいとも思っていない。ぼくは、彼が聞いてくれているのをいいことに、ただ自分が考えていたことを自由に述べているだけなのだから。


「生と死は同時に存在しない。でも、ぼくらが生きているってことは、少しずつ死んでいるってことなんだ」

「矛盾してない? それ」

「してないよ。生と死『そのもの』は、同時に存在しない。でも、年をとるってことは死に近づいてるってことだろう?」

「まあ、それは確かにね」


 ぼくの考えを理解できなくても、彼はぼくを理解してくれる。そんな理解者がいるだけで、十分なのではないだろうか。


「だから、生きるってことは、少しずつ死んでいるということになんだ。それなのに、生と死は同時に存在しない。どうだい? 死について考えることは、こんなにも面白いんだ」

「そうだね、面白いかどうかは別として、君が生き生きしてるってことは確かだよ。君の言ったとおりだね」

「何がだい?」


 彼の言葉の意味がわからずそう尋ねると、彼はふ、と皮肉めいた笑みをよこした。


「死あってこその生、なんでしょ? 君は『死』について考えてるときが一番生き生きしてるよ」

「ああ、なるほど」


 やはり彼はぼくをちゃんと理解してくれる人物だ。ぼくはその事実に満足して、にこ、と笑みを浮かべた。

 生と死は同時に存在しない。なのに、ぼくらは生きながらにして死んでいる。ああ、何て面白いのだろう!

 さて、では。


(死、とは何か?)




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