エクルの村と碧海の森 その3
「お前、アランさん達と一緒にオーキッドの街へ行くのか?」
朝食後にゴードンから、『駅馬車は週一の為オーキッドの街へ向かうのが4日後になる』事を伝えられ、それまではこの『エクルの村に暫く滞在する』旨を伝えられる。あまり遠くへは行かないように注意されたが、自由にして良いとの事だった。なのでスピネルやアンバーと戯れつつ、雑貨屋さんや畑でも見に行こうかと思案していると、後ろからガイに声をかけられた。
勝気な感じの物言いだが、ターナのお手伝いをしていたり、アランと楽しげに会話しているところを見ると、根はいい子らしい。思春期だからかな?
「うん、迷子だからお家に帰るため?に行くんだよ。ガイは、オーキッドの街に行ったことあるの?」
「父さんと一回だけな。こんな田舎とは違って、大きくって店もいっぱいあって凄いんだぜ? 冒険者ギルドもあるしな」
きらきらした目で語るガイ。もしかして、アラン達みたいに冒険者になることを夢見ているんだろうか? 彼から少し情報を収集してもいいかもしれない。
「ガイは冒険者ギルドに入ってるの? 私も入れる?」
「俺は・・・入りたいけど父さんに止められた、もう10歳なのに。
基本的には何歳でも入ることは出来るって聞いた。ちゃんとした身分証を持ってない人間とかが、その為だけに入る事もよくあるらしいから。
お前、身分証は・・・ガキだから親が持ってるか。オーキッドでやっぱり冒険者ギルドで登録することになると思う」
「他のギルドでは登録できないの?」
「他のギルドって・・・職人ギルドや商人ギルドは、ちゃんとした身分証と住所が決まってないと無理だって父さんが言ってた。
それにお前いくつだよ?そんなに小さくってどこに入る気なんだ?」
「えとね、5歳。体力回復剤とか作って売ろうかと思ったの、お金ないから。ギルドに入らないとダメじゃないの?」
「薬草ぐらいなら、薬屋とか雑貨屋、最悪冒険者ギルドで買取してるから、そこで売ればいいんじゃないか?
俺、父さんと行った時に狩りで獲ったホーンラビットの毛皮とかギルドで売ってるの見たぜ?」
なるほど。個人で露天ができるかどうかは謎だけど、買取はしてるからそこで売ればいいのか。じゃあもう少し内容を充実させるべく創らなきゃね。
「ありがとう。ガイは色んなこと知ってるんだね」
笑顔でお礼を言うと、カッと頬を赤く染める。ガイもツンデレかな? 表情が分かりやすいから好感が持てるよ。
ところでさっきから彼の周りに漂うピンクのオーラってどういう意味? 気分がいいのかな?
「そ、そんなの当然だろ?! お前よりも歳上なんだからな。分からない事があれば俺が教えてやる」
嬉しそうに胸を張ってガイが答える。うん、アラン達はなにか他の事で忙しそうだし、エクルの村では彼に頼ることにしよう。
「じゃあ、薬草を集めたいの。近くでいっぱい生えてる場所、知ってる?」
「この辺ならやっぱり【碧海の森】だな、来いよ、案内してやる」
「うん♪」
ガイに手を取られ、二人で駆け出した。一人じゃないから、ターナさんにも叱られないよね? ・・・多分。
村堺を超えて、私達が来た道とは違う道からガイが森に入って行く。ここからも入れるのか、と感心しながら手を引かれてガイの後についていく。
用心のためにガイの隣にはスピネルがついて行き、私の肩にはアンバーがいる。
視界の右上端に簡易地図が表示され、私の現在の居場所が逆三角形で表示される。私の先に表示される青い表示は、ガイのものだろう。その地図の中に魔物の表示はないので、私も安心してガイについていける。
何気に私の腕を伝ってガイの手にアンバーが猫パンチしているが、それほどガイも気にしていないようなので、アンバーも加減しているのだろう。
『そこまで警戒しなくてもいいよ?アンバー』
『いいえ!! 馴れ馴れしくご主人様と手を繋ぐなど、100年早うございます!!』
『僕はいいやつだと思うけどな~』
アンバーとスピネルの意見の相違はスルーして周りを見回すと、日当たりがいいのか可愛らしい草花が咲いている。
もちろん薬草としてマーキングがポップしているのだが、ガイの足が止まらない所をみるとガイの中では薬草ではないらしい。
認識の違いなのか、それともローシェンナではまだ薬草として使われてないのか。暫く居るのだからそのうちに取りに来ようと、地図にチェックを入れておく。
ガイに足元を気遣われながらも、ようやく目的地に到着したらしい。ガイが手を離した。
「ここが俺の秘密の場所だ!」
「わぁ・・・!」
ガイが連れてきてくれたのは、森を少し入って北に進んだ場所で、木々に囲まれ鬱蒼とした中に仄かに光の差す泉だった。小さな泉だったが透明度は最高で、その水の底にはキラキラと輝く石が敷き詰められていた。
ピコン! 途端に図鑑が反応する
【名称:月光石 月の光に反応して光る性質を持つ鉱石。体魔回復剤の材料になる。宝石としても価値が高い。】
ああー?! こんな所に月光石が!!
思わず泉の中に手を突っ込んでみる。冷たい水の感触がして、水面が乱れる。
思いっきり伸ばして落ちそうになる所を、ガイが慌てて支えてくれた。かろうじて手が届き、袖を濡らしながら手探りで一つを拾い上げる。掌の中に握り込めるぐらいの大きさの、月光石。陽の光を受けただけでもこんなにキラキラしているのなら、月明かりの下ならどれだけ綺麗なんだろうと想像して、ホゥとため息をついた。
「なんだ、それ? やけにキラキラしてるな?」
「月光石っていう石なの。綺麗だよね」
「泉の中にあったのか?」
ガイも泉の中に手を突っ込んでバシャバシャと探っているが、何も掴めないらしく、手の中は空だった。
不思議そうに泉の中を覗き込む。私も同じように覗くと、結晶のような月光石が敷き詰められたように水底でキラキラしている。
私が再び手を突っ込み、さっきよりも小さめの月光石を掴んで水中から手を出す。私の手の中の石を見つめて、ガイが目を瞬かせた。
「ジーナお前魔法で出してるのか?!」
「生活魔法なら使えるけど、何も出してないよ??」
「・・・俺、ガキの頃からこの泉知ってるけど、こんな石見たの初めてだぞ?」
「えーー!! そうなの?!」
また何かやらかしてしまったのだろうか・・・。不安に駆られて、思わずガイに乾いた笑いを向けてしまう。
私はただ、月光石を見つけてそれを拾っただけなのに、それも特別になっちゃうわけ?! それとも見つけられること自体が既に特別なの??
「戻したほうがいい?」
「うーん・・・まぁ拾っちまったんだし、いいんじゃないか? だけどここは俺の秘密の場所だから、その石の事も場所の事も誰にも言うんじゃないぞ?」
「うんうん」
ガイに言われて月光石の小さい方をリュックにしまう。大きい方はしまったフリをしてインベントリーの中に入れた。
後で増やして体魔回復剤の材料にしよう。体力回復剤だけでも大事になりそうなので、創るだけで御倉入りになるかもしれないけれど・・・。
「お前に案内しようとしてたのは、こっちの薬草なんだ」
気を取り直したガイが泉の奥に私を連れて行こうとして、スピネルが前に立ちはだかった。先の木々の奥を睨む目つきが険しい。この先に何かいるらしいのか、アンバーも警戒態勢に入って私の足元に降りた。
軽く唸りだしたスピネルの様子にさすがのガイも気付いたのか一瞬怯えた目をしたが、すぐに私を庇うようにして後ずさる。自分も怖いだろうに、私を庇ってくれるなんて、ガイかっこいー。
昨日は【フレイムウルフ】で今日も遭遇なんて。神域では全く出会えなかったのだから、何か不思議な力が働いていたとしか思えないよ。
サーチ画面に意識をやると、昨日のように赤い点の集団がこちらへと向かっている。・・・昨日よりも数が多いように見えるのは、私の気のせい?
『ご主人様、先日よりも強い魔を感じます。強力な個体が紛れ込んでいるのかもしれません』
「ええー?!」
「な、なんだ?!」
うっかり声を出してしまったので、私の声に驚いてガイまで声を上げた。慌てて口を抑えてガイを見つめる。
ガイの手には短剣が握られていた。攻撃用ではなく、獲物捌き用のものっぽい。
「強そうな奴が来るかもしれないって! ガ、ガイ逃げよう?!」
「今からじゃ間に合わない! くっそぅ、いつもならここまで魔物なんて来やしないのに!!」
まだ小学生ぐらいなのに、必死で私を守ろうとしてくれるガイ。私は(多分)傷つかないから、私の方がガイを守らなきゃいけないのに、この間みたいに手足が震える。
何とかしなきゃ・・・!! 私は創造主なのよ!! 私がエンデワースの民を守らなくてどうするの?!
バクバクする心臓を抑えて、大きく深呼吸をする。何度か繰り返しているうちに、少し落ち着いてきた。うん、だ、大丈夫!
サーチ画面にはもうすぐ接敵する範囲まで近づいてきていた。私はゆっくりとガイの前に進み出ると、前を見つめたままアンバーに指示を出す。
「アンバー、ガイを守って。人になっていいから」
『しかし、ご主人様?!』
「スピネル、行くわよ!」
『うん!』
アンバーが異を唱えようとするが、有無を言わせる隙を与えず左手に手甲を表示させる。そこから弓を出して大きく息をついた。
戸惑っているガイが私を引き戻そうとして、後ろからの手に阻まれる。人化したアンバーに驚いている間もなく後ろに匿われると、アンバーと私を見比べて呆然としていた。スピネルが低い戦闘態勢を取る。
「ガイ、絶対にそこから動かないでね。私なら、大丈夫だから。アンバー、頼んだわよ」
「はい、ご主人様!」
不安そうに見つめるガイを背に、私は自分の身長ほどもある銀色の長弓を正面に持った。
うん。怪我はしないよ、女神様の加護があるからね。でも戦闘に関して役に立つかどうかなんて、私には分からない。むしろスピネルの邪魔をしてしまうかもしれない。けれど創造主である以上、二人に守られているばかりではいられないのだ。それこそゲームをしている今までと何も変わらない。
剣等を振り回すまでの間合いを取られたら多分私では避けきれない、杖や錫杖を持った所で攻撃の魔法は使えない。集団でこっちに向かっているのなら、遠距離攻撃で中に矢を放てば一本ぐらいは当たるかもしれないという、儚い期待で弓にした。その後は近距離武器を振り回す・・・(当たったら嬉しいなぁ、程度の攻撃)。
適当な作戦だが、一般人で平和な日本で暮らしていた短大生に攻撃を期待しちゃダメだよ。鉄壁の防御があるからまだ死なない事に安心できるけど、ゲームでも私は後衛で補助とか回復系ジョブだったのだ。唯一できたアタッカーが弓職。どうか、ゲームの魔物みたいに攻撃できますように!!
緊張と不安で心臓の音が耳元で聞こえる。口が渇いて唇を舐めつつ、掌の汗を何度も拭いながら、やっとの思いで弓を引き絞って前方に向けた。
サーチが接敵を現すアラームが煩く鳴り始める。
引き絞った両腕がプルプルと震えたけれど、全部投げて逃げちゃいたい気持ちを押し戻して、正面を見続ける。
『スピネル、私が矢を放ったら飛び込んでね?!』
『はい、ご主人様!』
弓と弦の間に何か力が集結してるような気配がしたけれど、それどころじゃない。目を凝らして、なるべく呼吸を整える。正面の茂みの奥に、何か大きな塊というか力の塊を感じた途端、それが昨日見た【フレイムウルフ】よりもふた周りほど大きな【フレイムウルフ】。
見えた(気がする)!!!
私は引き絞った弦を、思い切って解き放つ。それと同時に、スピネルが大きく跳躍した。
最後まで読んで頂いて、ありがとうございました。
新菜初めての戦闘開始です。文章力がないので、果たして思う通りに表現できるか不安ですが、どうぞお付き合いください。




