今日から私も錬金術師?
中途半端な気がしましたので、少し頑張りました。
門から百mと離れてなかった場所から敷地に戻ると、黒い蜜蜂の塊もついてくる。皆で門をくぐると女王蜂は私の手の中のまま、働き蜂達が少し分散して周りを調べ始めた。
気に入ってもらえるといいなぁ。
あちこちをウロウロと飛び回っていた蜜蜂さん御一行は、花壇と畑の間の場所に巣を構えることにしたらしい。地下室にあった手頃な木箱を持ってきて据えてみると、ラブリー襟巻きな働き蜂達が群がって色々チェック。そのうちに合格したのか、巣造りのために忙しそうに敷地内を飛び始めた。
私が安心して女王蜂を木箱の中にそっと置くと、働き蜂達に囲まれて忙しなく動き始める。
「気に入ってもらえたみたいで、良かったー。今日は庭でお昼にしようか」
「じゃあ小川の横なんか気持ちよさそうだね」
「私は食器を取ってまいります」
インベントリーの中からお弁当として用意していたハム・卵・野菜のボリュームミックスサンドと、ポットごとの紅茶を取り出す。アンバーが人間の姿に戻って私の出した物を受け取り、スピネルが座れるように敷物の布を広げてくれた。とりあえず敷物の上に荷物を置くと、キッチンからカトラリーや食器を持ってきたアンバーが準備してくれる。
すぐそばの泉で手を洗ってから三人で座ると、各々サンドイッチにかぶりついた。
変な添加物なんか入ってなくて(添加物自体作れないけど)、素材も新鮮。自画自賛かもしれないけど美味しいー♪ スピネルもアンバーもいっぱい食べてくれるから、作ってくれた甲斐があるし。
上を見上げると天気も良くて、風も心地よく草花や植物達も元気そうに揺れてて。家畜小屋の方で牛が鳴いてるし、白いアルパカがゆっくりと餌の飼葉を喰んでいた。
平和だなーなんて思っていると、小川でパシャンと水が跳ねる。もぐもぐ口を動かしながら、前から思ってた疑問を口にしてみた。
「ねね、ここって泉から水が沸いてるから小川だよね? 小川って淡水だよね?」
「そうですね。どうかされたのですか?」
「じゃあさ、なんで海水魚の鰹とか鮭とか鰯が、淡水魚の鮎や山女魚や鯉と同居してるんだろうね・・・」
「まぁ、現実は違うんだろうけど、でも目の前では一緒に泳いでるよね?」
「神域は女神様がお創りになられた特別な場所ですから、ご主人様の過ごしやすいようにしてくださったのではないでしょうか?」
話しているうちにザブリと小川の水面が盛り上がる。何かと思ったら大きな魚の顔が出てきた途端、一m程飛び跳ねてまた潜っていった。
水飛沫が雨のように三人に降り注ぐ。アンバーが懐からハンカチを取り出して手渡してくれた。
「今の、何・・・」
「鮪、のようですね」
「・・・二mぐらいあったわよ?」
「出てきた小川のサイズにしては大きすぎますが、・・・女神様がお創りになられた神域ですから」
おおーと感動した様子で小川を覗き込むスピネルとは対照的に、冷静に顔に飛んできた水を拭いながらアンバーが答えてくれる。
「へ、平和だなー(いろいろ違う気もするけど・・・)」
一瞬思考が停止しかけたが、考えても仕方がないので持っていたサンドイッチを食べることに専念する。紅茶が温かくて美味しい、ホッとするよ。
ビックリする事も多いけどエンデワースも畑も順調だし、やっとスローライフ?してる気がする。
今はまだまだやる事がいっぱいあるけど、落ち着いたら料理も作り溜めしてインベントリーに入れておきたいな。人型の地に行った時とかに役立ちそうだし。
それなら女神様がインベントリー拡張できるって言ってたし、限界まで拡張してしまおう! そうなると、亜空間に戻らないといけないのかな? この件も調べておかないと。
ランチを終えると、二人が手早く片付けてくれた。お腹がいっぱいになって眠ってしまいたいがまだやる事があるのだ。
「じゃあ僕はこの薬草の苗を植えてくる。野菜の隣の畑でいいんだよね?」
「うん、スピネルお願いね。アンバーは食器の片付けが終わったら、錬金の準備手伝ってくれる? まず採取してきた薬草を洗いたいの」
「かしこまりましたご主人様」
農具と共に畑に向かうスピネルと別れてアンバーと一緒に家の中に戻る。
キッチンにアンバーを残して、私は使っていなかったリビングの隣の錬金部屋?に入った。
大きなテーブルの上にインベントリーの中からまず大量のマロウ草を取り出してみると、目の前にこんもりマロウ草の山ができる。私の身長を超えて、見上げるような山になってしまう。
時間かかりそうだけど、アンバーと二人で流れ作業で洗うしかないか・・・。全部使うわけじゃないし、使い切れないし。
食器を片付けて部屋にやってきたアンバーに伝えると、
「私でしたら、ご主人様には及びませんが呪文を使用すれば一度に全部洗浄可能なはずです」
「全部一度に?」
「はい、洗浄ですから食器を洗う生活魔法と何ら手順は変わりません。ただ・・・量は飛び抜けていますが」
事も無げにアンバーに言われて、マロウ草の山を見つめる。信じられないが、アンバーの言うのだからできるのだろう。半信半疑で山に両手をかざすと呪文を唱えた。
『洗浄』
かざした先のマロウ草の山が大きな水球に包まれる。
意識することなくマロウ草が水球の中でくるくると回転してから、水球が消える。ポンという軽い風の音がして、あっという間に綺麗になったマロウ草の山がテーブルの上に現れた。
「うわぁ」
「さすがご主人様!! 私がお手伝いするまでもございませんでしたね」
アンバーがにこやかに笑って褒めてくれる。普段仏頂面だから、笑うと破壊力が半端ないんだよね。私は猫の姿の方も可愛いと思うんだけど。
早速錬金術の調合をしようとしたら、アンバーは私に向かって一礼をした。
「ここから先私はお役にたてませんので、作業後のお茶の準備をしてまいります」
「え? アンバーは錬金術は使えないの?」
「私やスピネルが使用できる魔法は、生活魔法のみでございます。人型にどのような能力が備わっているのかは存じ上げませんが、全ての魔法を理解し自在に操ることが出来るのは、この世界においてご主人様お一人だけでございますよ?」
「そうなんだ・・・。食材加工とか私の技術を真似してたから、てっきり錬金術もできると思ってた」
「能力不足で申し訳ございません。ですが食材加工におきましても、私は発酵や熟成などといった時間のかかるものは出来ませんので、それと同じでございます」
苦笑いを浮かべて説明してくれたアンバーは、再び一礼をすると静かに部屋を退出していった。
なので、ここからは『今日からあなたも錬金術師!錬金レシピブック』のアプリを頭の中で立ち上げ、必要な分のマロウ草を残して残りをインベントリーに仕舞う。
次にヘザー草とネトル草も順に全部取り出し、マロウ草と同じく一瞬で洗浄を終えヘザー草だけ必要分を残してインベントリーに片付けた。
魔力回復剤に必要なジュニパーの木の実(葉っぱでも可能)を採取してきていないので、とりあえず今回は体力回復剤だけを作ることにする。
「えーっと、マロウ草とヘザー草を綺麗に洗浄し、その成分を抽出する。抽出方法は様々ではあるが、一般的な水薬の場合は煮出すのがお勧めである、加熱による品質変化を防ぐ場合は溶解剤と混ぜた後に放置する事、と」
アプリの『体力回復剤の作り方』の文字を追う。
ここであの器具を使うのかな?
私は一番最初にこの部屋に入った時に見つけたフラスコやビーカーなどが置いてある棚を見つめた。
錬金術って器具がないとダメなのかな?だとしたら全部インベントリーに持ってたほうがいいよね?
・・・んん? さっきの『洗浄』みたいに器具なしで出来ないかな? この辺は生活魔法みたいに見えるし、なんとかなりそうな気がする。煮出すのなら水球を沸騰させて、その中に薬草を入れればいんだよね。
あれ? でもそうしたら、もし錠剤とか軟膏にする時に更に煮詰めて乾燥しなきゃいけないような気がする。それは面倒だよね。
んー、精製油みたいに蒸留抽出出来ないかな? あ、それだとやっぱり油か水を媒体にしなきゃいけないか。油よりは水の方が扱いはしやすそうだけど・・・。
ぐるぐる考えていたが、いいアイデアが浮かばない。ここはもう伝家の宝刀、適当にやってみたほうが上手くいくかも?
ダメ元でマロウ草とヘザー草をまとめて目の前に置き、その上で両手を向かい合わせにして目の前で抱えるように構える。二つの薬草が混ざり合い精製液だけが現れるようにイメージして。
『精製』
ぶわーっと風というか力場というかそういうものが現れて、私の両手の間に丸く形成される。その中に集まるようにマロウ草とヘザー草が吸い込まれていき、ものすごい勢いでぐるぐると回転を始めた。
そしてほんの少しだけ光を放つと力場が消え、目の前に小さな親指ほどの茶色い小瓶が現れる。予防接種の時に看護婦さんが注射器に吸い込んでる薬剤の瓶ぐらいの大きさ。なぜだか蓋は存在せず、密閉されている感じである。赤いラベルが貼ってあるが、文字は書いてない。
瓶がどこから出てきたとかは、追求しないようにしよう・・・。こういうものなんだよ、うん。
現れた茶色の瓶を手に取る。手のひらに収まってしまう程の精製液を鑑定してみると、
【名称:マロウ・ヘザー濃縮液(level 5 ランクS) 体力回復剤用薬液 品質保証:5年】
うん、これならなんとかなりそうだ、インベントリーの中にある薬草も全部精製してしまおう。インベントリーの中なので腐敗も枯れもしないけど、調合する時には精製してある方が扱いは速いしね。
思い立つとすぐに、インベントリーから全てのマロウ草とヘザー草を取り出す。地震でも起きたら生き埋めになりそうな山が二つ出来たが、とっとと精製してしまう。
『全部精製』
両手をかざしながら、呪文を唱える。
一度創ったので今度は(量はあるが)あっという間に出来た。茶色の小瓶がザラザラと机の上を埋め尽くす。
あとはこれを水薬にするか錠剤にするか軟膏にするかで媒体が異なるのだが、とりあえず一番簡単に手に入りやすい水を媒体とする水薬にしてみる。
濃縮液を一つを除いて全部片付けた後、小瓶の上に両手をかざす。小さめの水球を出現させてから呪文を唱えた。
『調合』
眩しい光が水球と小瓶の間に閃き、収まった時には机の上には栄養剤ドリンクサイズの瓶が現れた。今回は透明な瓶でラベルはやはり赤、中に入っている液体は薄いトマトジュースのような色で炭酸のような泡が見える。もう一度鑑定してみる。
【名称:体力回復剤(level 5 ランクS) 効能:HPをフルに回復させる。MPも少し回復する 品質保証:6ヶ月】
・・・あれ? 体魔回復剤風になってるんだけど、なんで?? (level5 ランクS)だから付加価値でもついたんだろうか? まさかこれが一般的じゃないよね・・・。
念の為にもう一つ作製してみるが、やはり(level5 ランクS)が出来て効能にはHP回復だけではなくMPも少し回復することになっていた。
い、色々と特別だから、作製した体力回復剤も特別なんだよ、きっと・・・。
後に、二人とインベントリーに入っていた(女神様から貰った)体力回復剤と飲み比べてみた。
女神様のは漢方臭く苦い薬だったのだけれど、どうしてだか私が作ったものはジンジャーエールの味がする。
砂糖を入れていないのにほんのり甘く、炭酸もいい感じで飲みやすいのかスピネルに絶賛される事となるのであった。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
色々と知識が中途半端なので、錬金術は難しいです。科学が得意な方が羨ましいですね。




