本当のクリスマス
冬瀬一乃はこの時期、ずっとベットの上でゴロゴロしている。まるで冬眠中のクマだが、仕事はフリーランスなのでどうにかなってはいる。といっても確実に収入は落ちるので、楽観視もできず、貯金額を思うと一乃の表情は曇る。
精神科医によると、冬季うつらしい。毎年、この時期に限ってうつになり、ベッドから動けない。
「何がクリスマスだよ。独身アラフォー女に嫌がらせ?」
溢れる言葉も愚痴、弱音、泣き言ばかり。街に出ると華やかなイルミネーション、ツリー、カップル、家族連れ。派手で温かい風景は、冬季うつの一乃を全否定しているかのようで、余計に落ち込んでしまう。
今日は雪も降っていた。ベタベタとした水っぽい雪だったが、窓から日差しも入らず、一乃はさらにうつになってしまった時だった。窓を叩く何かがいた。
「何よ? は、野良猫?」
窓辺には近所の野良猫がいた。真っ黒で汚らしい猫だ。全く可愛くないが、背中や頭に雪が積もっている。
その上、口には何か加えていた。気になってしまう。この猫、このままだと凍死するかもしれない。
一乃も別に極悪人でもない。ついつい野良猫を家に招き入れ、身体を乾かし、猫まんまも与えてやった。野良猫はベッドのうえでスヤスヤと眠り、実に大人しいものだ。この様子では近隣住人にとやかく言われる心配もなさそうだったが。
「何これ?」
野良猫が咥えていたものは、クリスマスカードだった。なぜ野良猫がクリスマスカード?
しかもこのクリスマスカード、妙だ。デザインは白とゴールドで上品だったが、変な言葉つき。
イザヤ書 41:10
恐れるな、わたしはあなたと共にいる。
おののくな、わたしはあなたの神である。
わたしはあなたを強め、あなたを助け、
わたしの義の右の手であなたを支える。
「何これ? 神? もはやクリスマスだから、聖書?」
一乃はキリスト教系の高校に通っていた。この言葉、おそらく聖書のもの。
確か高校でもクリスマス礼拝をしたが、静かなものだった。派手なツリーもイルミネーションもない。チキンもケーキもなく、牧師がキリストの誕生の紙芝居をして、蝋燭を灯し、静かに讃美歌を歌うだけ。
紙芝居の内容、なんとなく覚えてる。確かキリストは粗末な場所に生まれ、身分を一番低くされたとか云々。
「クリスマスって本来は地味なん?」
「ミャー」
いつのまにか起きていた野良猫の泣き言が響く。まるで一乃の疑問に答えるかのようだった。
「このクリスマスカード、誰が送ってきたが不明だけど……」
悪戯かもしれないが、冬季うつになり、ベッドの上で過ごすクリスマス、世の中と比べて否定しなくてもいい気がしてきた。
それに今年はなぜか野良猫もいるし。外は雪が降っているけれど、うちの中は温かいし、食べ物もデリバリーすれば大丈夫じゃないか。
「ミャー!」
「何、あんた、まだご飯食べたいの?」
また餌の催促をする野良猫に呆れつつも、もう一度このクリスマスカードを見つめる。この言葉の意味はよくわからないけれど、地味で孤独で憂鬱なクリスマスも、今年だけは受け入れられそう。




