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不思議なクリスマスカード  作者: 地野千塩


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27/40

恐れてはならない

 他人目が怖い。笑い声が怖い。また、いじめられるんじゃないかって思うと、冷や汗が流れてしまう。


「はぁ、今日も学校行けなかった……」


 山口繭奈、十七歳。世間では花の高校生って言われているが、逆。絶賛登校拒否中だ。去年、いじめがきっかけで転校したが、転校先でも同じ目に遭うんじゃないかと不安になり、全く通えていない。


 これでも学校の近くまで行ける。制服も着れるし、朝だって早く起きているが、いざ、校門をくぐろうと思うと不安に襲われ、逃げ帰ってしまう。実際、今の学校では優しい人も多いのに、頭の中でストーリーを描いてしまう。過去の経験をモデルにしたストーリーしか描けず、結局、一歩も進めない。


 そんなある日、クリスマスが近づいてきた時期、母の誘いで教会に行くことになった。母はクリスチャンだ。繭奈も幼い頃に幼児洗礼を受けた。母は色々と教会を変え、今は近所のプロテスタント教会に落ち着いていたが、突然、何?


「今日、クリスマスツリーを飾るんだけど、人手が足りないのよ。手伝って」

「えー?」

「ちょっとお小遣いあげるから」


 成り行きで教会へ。教会といっても幼児洗礼を受けたようなカトリックとは異なり、なんかフツーの建物。十字架のオブジェだけが辛うじて教会だとわかるだけ。あとは公民館のような雰囲気。礼拝堂は学校の教室に似てる。前方に教卓があり椅子が並んでいるところとか。


 といっても繭奈のトラウマは刺激しない。礼拝堂にいる人たち、ほぼ全員は背中が曲がった老人だったし。牧師もおじいちゃん。五十代の母が一番若いぐらい。


 通りでクリスマスツリー飾りの手伝いをさせられるわけだ。この中で一番背の高い繭奈がツリーのてっぺんの星を飾り、段ボールを運び、組み立てもした。


 礼拝は眠い。背中の曲がった老人たちは本当に寝ている人も多いし、母が一番、熱心に聞いているぐらいだったが、讃美歌演奏の時、はっと目が覚めた。


 母がピアノを弾き、数曲歌ったが、なんか普通の音楽と違う。確かにちょっと厳かというか神聖な雰囲気はあるが、動画サイトで流行っている曲と何かが違う。歌っているのに「私を見て」という自己顕示欲や承認欲求から解放されるというか。他人の目よりも神様が中心というか。


「な、賛美歌って何? なんか歌っていたら欲望が全部溶けた感じ」


 その日、夕飯の時、母に話すと頷いているだけだったが、気になる。動画サイトで讃美歌を聴き続け、なぜか元気になっていく感覚がする。投稿拒否やいじめの過去など忘れてしまうぐらい讃美歌にハマってしまった。


 いつしか自分でも讃美歌作りたいと思うようになった。AIで賛美歌を作りSNSにアップしようかと思いついたが、なぜかまた怖くなってきた。


 何か批判されたらどうしよう。学校行かないくせに布教活動するなって誰かに言われたら?


 そもそもクリスチャンが少ない日本で、讃美歌とかいいのか。怖い。他人にどう思われるかやっぱり怖い。せっかく作った讃美歌もファイルに溜まっているだけだった時。


「うん? これ、何? クリスマスカード?」


 自室の机の上にクリスマスカードが置いてあるにに気づく。心当たりはない。母も知らないというが、カードには聖書の言葉が引用されていた。


 ヨハネ14:27より

 心を騒がせるな。恐れてはならない。


 これはイエス・キリストが弟子たちを励ました言葉だ。


「な、何このカード? もしかして、神様、応援してれくれてる?」


 わからない。答えはないが、もし、そうだとしたら?


 登校拒否中、神様にも見捨てられ多様な気がして一人で塞ぎ込んでいたが、違うのかもしれない。そうだ、一人なんかじゃない。大丈夫。讃美歌のことだったらできるはず!


 もう一度、クリスマスカードを見つめ、深呼吸しながら、SNSに讃美歌をアップした。確かに怖い。足がすくむような感覚もしたが、クリスマスカードを見ていたら、徐々に力が抜けてきた。


「あ、できたかも……?」


 少し汗は出てきたが、今はちょうどクリスマス時期だ。賛美歌も思ったよりは受け入れられたらしい。ポツポツと好意的な感想も貰えた。


「あぁ……。良かった。神様のおかげで勇気出せたかも……」


 そんな経験があったおかげか、翌年から学校にもなんとか復帰できた。休んだり、早退する日もあったが、卒業もできたし、今はバイトをしながら、ゴスペルシンガーを目指している。路上で讃美歌を歌う活動を始めた。


 こうして時が巡り、クリスマスがやってきた。あのクリスマスカードの謎はまだ解けていないが、今日も路上で讃美歌を歌う予定だ。


 今だに少し緊張するけれど、大丈夫。あのクリスマスカードを見つめ、深呼吸すれば、もう怖いことなど考えられない。

 

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