「人間を助けたヴァンパイア」
「助けて......っ!!」
夜の街に、女性の恐怖で満ちた声が響いていた。
凛は風を切るように、凄まじい速さで声のする方へ走っていた。
細い路地へ飛び込むと、そこにはヴァンパイアがいた。
ヴァンパイアは、怯える女性の腕を掴んでいた。
「その手を離せ!!」
凛は大きな声で叫び、迷いなく銃を向ける。
その瞬間、ヴァンパイアの表情が変わった。
ひどく怯えて身体が震えている。凛の姿を見た瞬間、明らかに恐怖した。
「黒銀の凛......」
ヴァンパイアは震える声で呟いた。
ヴァンパイアの間で凛はそう呼ばれていた。凛は、冷酷なハンターとして知られていた。
ヴァンパイアは慌てて女性の腕を放し、震える声で命乞いをする。
「ち、違う......!襲わない......!だから撃たないでくれ......っ!」
だが凛は、表情を一切変えなかった。
冷たい目で、ただ呟く。
「お前達ヴァンパイアに、生きる権利なんてない」
そして銃のトリガーを引こうとしたーーその瞬間だった。
一瞬の出来事だった。
命乞いをしていたヴァンパイアの身体が、突然灰になって崩れ落ちた。
女性は悲鳴を上げることなく、その隙に逃げ出していく。
凛は灰になったヴァンパイアを見つめ、低く呟いた。
「......どうして?」
一体誰が、、、?
そう思い顔を上げる。
目の前には男が立っていた。
月明かりに照らされ、その姿がはっきりと浮かび上がる。
艶めく銀髪。酷く整った美しい顔。
白い肌。紅い瞳。そして口元から除く、鋭い牙。
彼もまた、ヴァンパイアだった。
凛はその男に、即座に銃を向ける。
男は凛から視線を逸らさず、逃げなかった。
そして凛を襲おうともしない。
ただ静かに、そこに立っているだけ。
男の姿は、不気味だった。
凛はトリガーに指をかける。
なのに、、、。
ーー撃てない。
ヴァンパイアを前にすれば、躊躇なく引けるはずなのに。
何故か引けなかった。
その時だった。
男の瞳から、涙が流れ落ちる。
そして静かに呟いた。
「......人間とヴァンパイアは、敵であり続けるしかないのか」
凛は、男が何を言っているのか分からなかった。
ヴァンパイアは、人間を喰らう獣でしかない。
あの日、凛の母を襲ったように。
凛は男を睨みつけ、鋭く言い放つ。
「ヴァンパイアは人間の敵だ!そして、、、醜い化け物だ!」
男は何も言い返さなかった。
ただ、悲しそうに凛を見つめている。
そして凛がトリガーを引こうとした瞬間ーー。
男の姿は消えていた。
「......っ!?」
見えなかった。それくらい凄まじいスピードで、夜の闇へ消えていた。
凛は、ヴァンパイアを仕留め損ねた。
そんな事、今まで一度もなかった。
迷わず打ち込んでいたはずなのに。
そして何よりーー。
ヴァンパイアが人間を助けた、、、?
その事実がどうしても信じられなかった。
凛はただ呆然と、月明かりの下に立ち尽くしていた。




