#93 三つ子星の優しい王女と愚かな影姫 11
「でもね、イザベラはホントに、ホントに優しいお姉ちゃんで……ってドラパパ、聞いてる?」
うんうん、聞いてるよ。
イザベラは何でもできるんだろ?
「そうなのよ! ホントイザベラってすごいんだから」
と何回目かのイザベラ自慢が始まる。
泣いたり怒ったり褒めたりと目まぐるしく話題が変わる。
こういった感情が先にくる人間との(会話は)非常に手間がかかる。
一に我慢、二に我慢、三四がなくて五に我慢。
ただひたすら耐えるのみ。
それも興味がなさそうにするとキレだすのでとりあえず内容は聞いておかないといけない。
生前身につけた「上司のどうでもいい話を聞いているふりをして半分聞き流し、別のことを考える」スキルが今更役に立つとは思わなかった。
「ね、ドラパパもそう思うでしょう?」
ほんとにな、ちょっとイザベラが悪いな。
「だよねぇ、時々そういうところがあるんだ」
現状、話をほとんど理解していないがまあ問題ないだろう。
上司が相手ならとりあえずやり過ごすだけだが、今回の場合、エクレアの感情が収まってからがスタートだ。
それまではひたすら耐えるの一手である。
……俺がイザベラのほう行けばよかったなぁ。
「……あたし、どうしたらいいんだろう?」
……ああ、ようやく会話できるのか?
ずいぶんと長かったぞ。
そろそろ向こうが頭冷やして帰ってくるかと思ったくらいだ。
まあとりあえず謝ろうか。
「うん。……でもイザベラ、許してくれるかな?」
まあそれは問題ないと思うぞ。
そこが問題ではないからな。
「じゃあ何が問題なの?」
今後のこと。
皇帝を目指すかどうか。
「……それかぁ」
それだな。
エクレアはがっくりと肩を落とす。
「あたしに皇帝なんて無理でしょ? あたし、かしこまった言葉もまともに使えないんだよ」
それは使えるようになっておけよ、と思うが話が長くなりそうなので我慢。
なら最初に断ればよかったのに。
「断ったよ! でもお祖母様は難しいことはイザベラがするからって強引だし、イザベラはイザベラでお祖母様の言うことならなんでも聞くしさ」
エクレアはバア様のことが嫌いなのか?
「嫌いっていうか好きじゃないっていうか、昔からいっつもイザベラのことばっかかわいがって、あたしには王女だからあれしなさい、これするなってずっと言うんだよ!」
ああ、バア様はとても苦労したんだろうな。
目に見えるようだ。
「イザベラは出来がいいから何でもすぐできて、褒められて、かわいがられて。だからお祖母様のことが好きで、お祖母様孝行したいんだよ」
一族の悲願を孝行娘で表現するのもどうかと思うがな。
しかしバカな子ほどかわいいというが、エクレアはどういう扱いだったんだろうか?
諦められていなければいいんだがなぁ。
「別に皇帝なんてどうだっていいでしょう?」
価値観なんて人それぞれだけどな。
で、エクレアはどうしたい?
「どうって?」
皇帝になりたいのか、なりたくないのか。
まずそこだな。
「なりたくないって言ったら?」
そう言えばいい。
協力してくれと言えばやぶさかではない。
「…………」
俺の言葉にエクレアは考え込む。
任期の30年を長いと思うか短いと思うかは人それぞれだが、嫌々するには長かろうよ。
「いやだって言ったら……イザベラ、あたしのこと、嫌いになっちゃわないかな?」
お前の姉ちゃんはそんなこと言わないと思うがな。
最後には「しょうがないな」で許してくれそうだ。
「……あたしもそう思う」
なんだかんだで甘そうだしな。
「…………うん、決めたよ」
しばしの悩んだ後エクレアは決断をする。
どうする?
「皇帝を目指すよ」
いいのか?
長いぞ。
「そうだよねぇ、長いよねぇ。めんどくさいよねぇ」
まあほぼ間違いなくな。
それでもいいのか?
「よくはないけどさ。……イザベラがお祖母様孝行したいようにさ、あたしだってお姉ちゃん孝行したいんだよ。お姉ちゃんが喜ぶなら30年くらい我慢しようかなって」
ニカっととてもいい笑顔で笑う。
「だってあたし、イザベラのこと大好きなんだもん」
なるほど、腹をくくった人間はいい表情をするもんだ。
お前さんは影姫としては愚かだけど、王女としてはとても優しいいい子だな。
「え~、それって褒めてるの?」
褒めてるよ。
だからドラパパから優しいエクレアに提案があります。
「なに?」
みんなが幸せに、エクレアだけでなく、お祖母さんもイザベラも、一族の者も、国の者も幸せになる方法がある。
「ホントに!?」
多分な。
「ドラパパやポーラは?」
そういう気遣いができるところは本当に優しい子だな。
「重要じゃない?」
何、当たり前のこと言ってるの?
素でそういう表情ができるこの子は頭の出来はともかく優しい、いい子だ。
心配するな、ポーラは魚が買えたら幸せな子だ。
俺はまあ、……なんとなくうまくまとまったら気分がいいさ。
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