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夢力現力  作者: れむ
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第三章  死を巡る夢

ひんやりと触る冷気が吹き込む薄暗い部屋。

 心地よいはずの夜風に、額にかかる少年の髪がさらりと揺れる。が、その顔はうなされているのか、ひどく寝苦しそうに歪んでいる。左手を額に乗せ、右手は何かにすがるかのように胸元のシャツを固く握る。





『…ル……ア…ル……ア…ル』


(ああ またあの夢か…)

もう続かないと思ったのに。ようやく終わりが来たと思ったのに。

 しかし、声はただ何事もなかったかのように淡々と繰り返す…俺の名を。俺はようやく気付いたんだ。その呼びかけが俺の名だったこと。ふいに、いつだったか、初めて『アル』と呼んでくれたあの人を思い出して辛くなる。

 そんな思いも知らず、声は呼ぶ。


『…ル…アル…ア…ル』

(やめてくれ…もう…っ)



もう会えない人を思い出すのは、たくさんだ。

やめてほしい。俺を呼ばないで。その名で呼ばないで。




もうずっと一人だっていいから――……




            忘れてしまいたいから――……




『…ル、アル…』

(やめ―――――…)











 汗ばんだ首筋を、一筋の汗が流れたそのとき。


「アーーールーーートーーッ!!」


 天地を返すかのような誰かの声が、寝ぼけた耳をつんざく。


「………………な、な、な…」


 思わず肩をすくめ、固くつぶった眼を開くと、その空中に漂っていたのは、妙な形をした人形のようなものだった。

(えーっと…こいつはいったい……?)

 寝起きで回らない思考回路を必死でフル稼働させ、妖しげなそいつを凝視したまま昨日の記憶を辿っていく。


「あ?何固まってんだ?お前」


 口を開かない俺に、そいつはまた呼びかけた。

そうだ、思い出した。迷惑な居候悪魔か。


「…んだ、そっか。なんかいたっけなこういうの」


 こいつを思い出したことによって、『契約』やら『悪夢』やら面倒なことまで思いだし、ふと、大きなため息が口をつく。


「ははあ…、さては『なんだこの生き物!!』とでも驚いたろ?」

 

 ひらめいたかのように、口をニヤリと歪ませて、目を細めるヤツ。

人をあざ笑うかのような態度が気に食わず、つい反射的に食らいつくがごとく言い返してやった。


「違うね、そんなお粗末なぬいぐるみが家にあったかと思っただけだ」


「誰がお粗末だ、しかもぬいぐるみじゃねえ…と、いうかそのぬいぐるみってなんなんだ?」


 バクは、不思議そうに体を傾けた。どうやら、『ぬいぐるみ』を知らないようだ。これはもうちょっと遊んだほうが面白いかもしれない。俺はわざと、適当に返してやった。


「あー… お前みたいなやつ。…いや?お前よか女子にカワイイカワイイされるような感じのやつだよ」


「ふーん 尚更否定したくなるな、なんだよカワイイって」


「さあな。さてと…俺、学校行ってくるから鍵閉めてろよ、んじゃ」


 バクはいまだ、疑問そうに首をかしげていたが、そんな姿を横目に俺は家を出た。


(また妙なことに巻き込まれたな…)

 学校へと続く単調な通学路。朝からチラホラと視界に入って目障りだった霊すらも、今や気にならなくなってしまった。まあそれはそれで有難いが……まさか、そんなもの以上に異質なものと関わることになるとは、夢にも思わなかった。

(こっちの方が遥かに面倒なことに……なってるな)

 バクの話はいまだに何一つ呑み込めていない。異契約者だとか、悪魔だとか、精霊だとか……挙句の果てに俺の来世がなくなるだなんて、到底理解が追いつけるはずはない。


「契約破棄できなかったらどうするんだよ俺……」


 ついこぼれた独り言に、聞き覚えのある声が返ってきた。


「だから、それはもう来世がなくなっちまうぜって言ったじゃんよ」

 慌てて辺りを見回すが、そこにはヤツの姿は見当たらない。が、しかし。ふと頭上を見上げて驚いた。すぐ目の前まで迫ったあのボタンのような目と、不気味に裂けた口元からは愉快そうな笑い声が零れている。


「うわっ!?おまっ…いつのまに!!…っつーか」


「ん?」


「…にしてんだよ!」


 次の瞬間、驚きの感情はすぐさま怒りへと変換され、拳となった感情が思い切りバクの頭に振り下ろされた。


「ってぇ…なにすんだよ!」


 頭を押さえながらのたうちまわるように、空中でふよふよと身をよじって震えるバク。だが、俺は容赦なく怒号を浴びせた。


「お前が何してんだよ!ついてくんなっていったろ」


「だぁって暇じゃん!」


「TVでも見てりゃいいだろ!!」


「なんだそれ?どこにあんの?どうやって使うんだ?」


バクは、またしても首をかしげた。

 うかつだった。人のお菓子を盗むテクがあるなら、それくらい手馴れているもんだと勘違いしていたが、ここまで何も知らないとは。


「……~っっ!わかった、今日帰ったら教えてやるからひとまず帰れ」


「やだ!!」


 まるで子どものように言い返すバク。これじゃあ、説得もままならない。

(どうすればいいんだよ…)


「あ おいこら!!」


 困り果てていると、バクは突然すいっと高く浮きあがった。


「心配すんな、俺は他の人には見えちゃいねーよ。むしろ……」


「な、なんだよ」


「一人で怒り狂うお前が変に見られているだけだろうな」


 ハッと思い返し、辺りを見回すといつの間にやら人通りも増え、無論、同級生もちらほら見える。


『やだ…あの人なんか空中に向かって怒鳴ってるよ…』

『えーなんか見えてんの?怖ー』


 嫌われるだけならいいが、変に噂が流れて目立つのは面倒だ。そろそろ時間もやばいし、ここは大人しく引き下がった方がよさそうだ。


「ぐ…」

(まあ、見えないなら今日ぐらいいいか…)

ひとまず今日はカバンの中にでも押し込んで、隠し通していよう。

「とにかくカバンの中で大人しく―――……ってもういねぇ!!」

 

バクが漂っていたはずの空には、ただ今日も平凡な晴れの空が広がっている。

 行方は少し気にかかったものの、俺は足早に学校へと歩を進めた。
























「久しぶりだなー現実世界(リアル)に出てくんの……………ん?」

 そこで俺は、道を歩いていた一人の少女に目が留まった。一見、アルと同じ服装をしているようだが、下半身に身に付けている衣類や髪型は違うようだ。見たところ、アルとは同い年か、少し幼いくらいの顔立ちと低い身長。


「……ちゃ………め………ね……………め……………ちゃ…………」


(何ぶつぶつ言ってんだろ……つか、あいつ大丈夫か?)

 ただそれよりも気になったのは、少女のやつれきった顔だ。その目は、もう何日も寝ていないのかクマができていて、目尻は赤く染まっていた。

 遅刻3分前、普段よりだいぶ遅れての登校だったものの、ひとまず遅刻は免れることができ、安堵のため息を漏らす。

(なんかバクのせいで疲れが……ドッとくるな……)

 普段、誰かと口をきくことさえあまりない俺だ。当然、今朝のように声を荒げたこともそうはない。

(あー…もう今日は帰ったらベッドにダイブだな……)

ふかふかの自宅のベッドを思い出すと、さらに睡魔が増した気がした。


「おはよう……夜月くん」


 突然聞こえた声に振り向くと、そこには目元に黒く深いクマがあり、疲れているのかあまり笑えていない、背の小さな女子がいた。


「え…小梅か?どうしたんだお前、その目……」


「うん……ちょっと最近眠れなくて……」


 小梅はそう言って笑ったが、単純な不眠ではないことはすぐに分かった。そのクマは1日2日そこらの徹夜ではなく、もう1週間ぐらい一睡もしていないのではと思わせるほど、それは見るに堪えなかった。


「…………あのね、今日の放課後、ちょっといいかな」


「え?」


「ちょっと話したいことがあって……」


「わかった。」


 俺はただ事じゃないことを確信し、大きく頷いた。小梅は、息を吐くような小さな声で「…ありがと……」と一言だけ置くと、自分の席へと向かった。

 ちょうど、1限目始業のチャイムが鳴り渡り、いつも通りに先生が入ってきて淡々と授業が始まる。授業中、ふと遠い小梅の席に目をやると、心なしか疲れ切っていて力なく見えた。そんな小梅の様子を見つめながら、考える。

(一体何があったんだ?……友達?親?)

 なんせ友達なんかいなかった俺にとって、相談なんかされたこともないから見当もつかない。思い浮かぶのはせいぜいありがちな理由ばかり。ましてや、繊細であろう女子の相談事の相手が俺なんかに務まるものなんだろうか。

(でも、寝れないぐらいの女子の悩みっていややっぱ……)

恋愛ごとだろうかとふと脳裏をよぎったとき、なんだか胸がざわついた気がした。


「じゃあこの問題を――……」


 そういって、先生が黒板に書いてたチョークの手をとめ、振り返って皆に向かい、そう投げかけた時だった。

 トサ…ッと軽く乾いた音を立てて何かが倒れる音が響いて、教室がしんと静まり返る。何が起きたのかと思うと、教室の中央付近の生徒が一声をあげた。


『先生!!小梅さんが…!』


 その声に教室中が波打つようにざわつく。先生が駆け寄り、席を離れた生徒たちが小梅を取り囲むように集まっていく。先生や複数の生徒が呼びかけるが小梅の応答はない。授業どころではなくなり、先生は何名かの生徒に他の先生に救援を要請するように指示をした。


「あなたたち!誰か他の先生を…!」


「「は、はい…っ!」」


 指示を受けて戸惑いながらも足早に教室を出ていく2名の生徒。続けて、小梅をどうにか保健室へ運ぼうとする先生に、俺はすかさず申し出る。


「俺が連れて行きます」


「え? でも……」


「じゃあ、お願いするわ。」


 先生は一度戸惑ったように言いよどんだ。しかし、俺の目を見て先生は何かを察してくれたのか承諾をくれた。

















「36.5°………熱もないし、やっぱり寝不足かしらね」


「そう…すか…」

 

 小梅を保健室のベッドに寝かせたあと、カーテンを引かれ閉め出された向こうから、検温を終えたらしい保険室の先生が出てきてそういった。


「もう入ってもいいわよ。ついててあげて」


 そういって、先生は小さな丸い簡易的な椅子を用意してくれた。


「………どうも」


 小さく頭を下げて、俺はその椅子に腰かけて小梅の寝顔を見つめた。

どうやら、緊急ではないよう。先生によると、今日一日でもゆっくり睡眠をとって静養すれば何の問題もないとのこと。ひとまず、ほっと胸をなでおろす。

(まあ、家が眠れなかったならここで寝て元気になるといいけど…)

 のんきにもそんなことを考えながら小梅をそばで見ていると、ふと首筋がじんわりと汗ばんでいるのが見えた。リボンで締めた襟元が暑くて寝苦しいのかは分からないが、緩めたりすることなどとてもできない。俺はせめて風を送ろうと簡易的に引いてあった一枚のカーテン越しに、先生に問いかける。


「先生、うちわか何かありますか?」


しかし、先生がいるはずのカーテンの向こうから返事は帰ってこない。


「?  先生?」


 不思議に思い、カーテンを引いて開けるとそこには飲みかけのコーヒーカップも置いたまま、さっきまでいたはずの先生の姿はなかった。

(いつの間に出ていったんだろ……?)

ドアを開ける音も、足音もしなかった気がするが、ただの気のせいだろう。そのときだった。


「……や………だ……」


 突然、ベッドの方から小梅の声がした。俺は小梅が目を覚ましたのだと思い、中途半端に引かれたカーテンから覗き込む。


「小梅?」


 小梅は目を覚ましたわけではなかった。しかし、怖い夢でも見ているのか、先程より汗はひどく、目元からぼろぼろと涙が零れている。そして、寝言とは思えないほどはっきり、強く小梅はこう叫んだ。


「もうやめてよ……っっ!!もう見たくない…っ………もういやなの!!お願い!あっちへ―――…」


「小梅!?おい、しっかりしろ!」


「や………つ…き…くん…」


 思わず、肩を揺さぶると小梅は呟くような声とともに徐に目を開いた。頬には、涙の流れた跡がまだ薄く光っている。


「夜月くん……私、いったいどうして……」


 まだ夢見心地なのか、片目を眩しそうに細めながら左手で頭を抱える。


「覚えてない? 1時限目の授業で突然倒れたんだ」


「え?  ………………………あ…………」


 ほんの少し首を傾げたが、すぐにその表情は真っ青に変わった。何かに怯えるように顔を強張らせ、小さな肩もわずかだが微かに震えているように見えた。


「………話って、もしかしてこのこと?」


 返事はなく、小梅は目を伏せたまま小さく頷いた。


「1週間前、可笑しな夢を見たの………………」


「? 夢?」


 つい口をついた俺の問いかけに、小梅はさらに続ける。


「音も聞こえないような暗闇の中でね、私と小さな人影がいるの。そして、次の瞬間、影はいきなり私に向かって近づいてきたの。気づいたら消えていたんだけど………」


 明らかに言葉を濁らせる小梅の声に、俺は直感した。


「……………それだけじゃ、なかったんだな?」


 小梅はまた小さく頷いて、続ける。


「それからなの。その日以来、時々怖い夢を見るようになったの。毎日じゃないけど……」


「その…怖い夢…って?」






「誰かが………死んでしまう瞬間よ……」


「な………」

 首筋を汗が伝うのを感じながら、俺は思わず口元に手をやった。

(嘘だろ……小梅が眠れなかったのはその夢のせいなのか…?)

 確かに、人が死ぬ瞬間を見てそれが現実のものとなってしまうのなら、眠れるはずがない。俯き気味の小梅の顔をそっと覗き込む。その目元はよく見ると、クマだけではなく赤みもさしている。きっと、こんな悪夢を見るたびに先程のように泣いていたのだろう。そう思うと、胸が痛んだ。




「え……?」


「この前、夕暮れ時にアパートの屋上から跳び降りした女の人を夢に見て…そのアパートが近所だったから毎日屋上へ行って本当に現れたら止めようって思ってたの。そうして屋上に通い始めて4日目に、彼女は現れた。でも、彼女はしばらく風に当たった後私に笑いかけて降りて行ったの。そのまま日は暮れ、辺りはすっかり真っ暗になって…夢で見た夕暮れも過ぎたし、『もう大丈夫。未来は変わったんだ』、って…そのときは思ったの…けど…………」


 そこで、小梅の言葉が一度途切れた。声は震えていて、黒く澄んだ瞳には涙が滲んでいた。その涙を堪えるように、唇を一度噛んで涙声で言った。


「翌日、彼女は少し先の湖で水死体で見つかった。……入水自殺だったの。」


 小梅が言うには、どんな形であれ夢に見てしまった人の死を食い止めることはできず、いまだに一人も救えた人はいないという。小梅の目尻から、ずっと堪えてきた涙があふれ出し頬を濡らす。


「夜月くん……あたし、もう眠りたくないよ……。いつこの夢を見てしまうかわからない…っ!見えるのに…知ってるのに…止められないの……。」


「小梅……」


 ついに、心が弾けたように泣き出して俺にすがるように抱きついてきた。もう、限界のようだった。俺はどう声をかけていいのか分からずに、俺の胸でなきじゃくる小梅の頭を一度だけそっと撫でた。

(……ん? あれ?ちょっと待て、小さな人影…?夢で…?)

 思えば、最近俺も似たような経験をした記憶がある。真っ暗な闇の中で、小さな人影ようなもの。でも、姿を見せたそいつは”バク”で……。

(もしかして、小梅の夢に出てきたものと何か関係が――…)


「なあ小梅、小梅が夢の中で見た小さな人影って―――」


 どんなやつだった、と聞こうとしたその時だった。突然、背後から聞き覚えのある悪戯に笑う声が聞こえて、俺は思わず勢いよく振り返った。


「お やっぱ匂い辿ってきてセーカイ。俺の嗅覚も相変わらず上々」


「!! バク…!?お前なんでここに…っ」


 その空中でふよふよと漂うように浮いていたのは紛れもなく、バクだった。俺の声に、バクは今更気付いたようにケラケラと笑う。


「お なんだ、アルも一緒だったか。なら、話は早いな」


「おい、ちょっと待てよ。聞いてんだろ、人の話を――…」


 いつまでもふざけているバクに怒りをぶつけていると、小梅はおびえた表情で声を震わせながら、恐る恐る口を開く。だが、小梅の反応は俺の予想とは違っていた。


「ね、ねぇ夜月くん……それ、なに…??」


「え…」


そう、俺は当然『空中に向かって何話しているの?』という類の反応が返ってくるものだと思っていたが、小梅は明らかに見えるはずのないバクを見て怯えているのだ。

 俺は声を潜めてバクに耳打ちをする。


「…なあ、お前普通の人には見えないんじゃなかったのか?」


「ああ、見えない……………”普通の人”ならな」


「? 一体どういう――…」


 ニィッと口元が避け、口角が歪ませながら、不気味に笑う。

いつもと変わらぬはずのその表情と愉快気な言葉を、俺は意味深に感じた。


「アル、お前が俺を見えるのはどうしてだろうな?」


「俺?…は契約したから、じゃ…ないのか?」


 俺の曖昧な返答に、バクは返事はなく、ただ口角をあげて笑ってこう続けた。


「アルさぁ…俺、最初に言ったろ? 異契約者を追ってきたって」


 そういえば出逢った頃、そんなことを言っていた気がする。確か、異契約というのは契約者の同意もなく一方的に結ばれる契約だという。

(小梅は契約はしてないはず。けど”見える”ってことは……)

見えなかったものが暴かれるように、俺は一つの答えに思い当たった。


「え……それってまさか……」


「そこのお嬢さんが一人目ってわけだ」


「え……? あたし?」


 不気味なバクの風貌にいまだ怯えながらも、小梅は戸惑いながら自分を指さしながら尋ねる。


 その言葉に小梅が恐怖を感じたのも束の間。

バクは俺と出逢った夜と同じように、一瞬のうちに小梅の目前へと迫っていた。驚きつつも、小梅は距離を取ることはできなかった。バクが迫った次の瞬間、ふっと意識を落としたのだ。


「やだ…っ!来ない……で…」


 意識を失い、床へと崩れ落ちた小梅。バクは、しばらくその上を浮遊しながら旋回する。


「ちょっと待てよ、バク!お前、どうするつもりだ」


 俺の制止に、バクは小梅めがけて大きく開いていた口をピタッと止めたかと思うと、また大きく口元を開いて愉快気に笑う。


「何って…身体に宿る精霊ごと安らかに永眠につかせてやるのさ。悪夢を見続ける生き地獄よりずっとマシだろう?」


「……やめろ、バク」


「くっくっくっ……アル、俺は悪魔だ。こんなオモチャみてぇな形(なり)してたって人を貶めるのがだぁい好きな生き物なんだぜ?」


「……そうかもな。」


「なら、大人しく――…」


「だが、今は俺の契約した悪魔。主は俺だ。」


 そう言い放った後、部屋は静けさに包まれ、しばらくの沈黙が流れる。

 出逢ってからまだわずか数日。バクがどんなやつなのか、俺はまだまだ知らない。ましてや、人一人を触れずに気を失わせてしまうような得体のしれないやつに、無鉄砲にもこう強気で刃向かうなんて……感情的になるなんて。俺らしくない、そう思った。

 しばらくしてバクは長く大きなため息を一つ吐いた後、小さく舌打ちを打って不機嫌に口を開いた。



「……………チッ。んで、お望みは?」


「殺さずに小梅を助ける方法は?」


「ないことも、ない。だが、かなりハイリスクだ」


「………どんな?」


「俺がこのお嬢さんの夢を喰らう。お前はその間、代わりにその夢を見ることになるだろうが……お前がこの夢に呑まれてしまえば二人とも現実(ここ)に帰ってくることはできないだろう。」


「小梅も…」


(俺だけじゃなく、小梅の運命もかかってるのか…)

 ふりかかるプレッシャーに思わず息をのむ。


「それに、たぶんこのお嬢さんの中に潜む精霊とも対峙することになる。それでも行くか?」


 真剣なバクの目。理解が追い付かない展開に疑問は山ほどあったが、バクのその目で、この事態の深刻さだけは理解できた。


「…………頼む」


「いい目だ。んじゃ、行くぞ」


 珍しくバクは微笑み、次の瞬間俺の意識は揺れるようにぐらつきはじめた。


(……う……ん…?…なんか……眠………)
























ここで、俺の意識は途切れた。


次回の更新予定日は、まだ未定です。確定次第、随時お知らせいたしますので、どうぞお楽しみに(*^^)♪

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