●とある写真家の新天地4
貰った写真を手に島の海沿いを歩く。それほど大きな島ではないが、徒歩で回るには時間が掛かる。
でも、不思議と嫌ではない。
どこまでも続くのどかな風景。
すれ違う人や車は、指折り数えられるくらいに少ない。
それらしき景色に見える位置に立ち、写真と見比べたり、実際にファインダーを覗いて確認する。
歩いては立ち止まり、確認をしていく。カメラを持っていなければ、不審者だと思われても仕方ないだろう。
島の外周の半分を歩き終えたが、同じ景色には出会えない。
そんな時、一台の車が近くに停まる。白い軽自動車には自治体の名前が入っている。
役場の車から降りてきたのは彼女。
「おつかれ~。どう?」
コンビニ袋片手に近づいてくる。
「まだ、見つかってない…」
「そっか…。大変そうだね。これ食べて休憩してね」
袋を手渡された。
中身は島の商店で毎日売られる手製のお弁当。
商店のおばちゃんと数人のお手伝いさんたちが毎朝仕込み、昼になると店先のテーブルに隙間なく並べられる。
住民や島で働く人々に人気で完売しない日は無い。
「ありがとう。でも、貰っていいの?」
「おじさん、お弁当持ってるって言うのにくれるから、余ってるのよ。貰ってくれると助かるわ」
彼女は巡回の仕事をしていたようだ。
「そういうことなら…」
ありがたく貰うことにした。
「私も島の外を含めてネットで調べてみたんだけど、確証が持てる場所が無くてね…」
案外すぐ見つかるのでは。そんなことも思っていたけれど、難しそうだ。
「なんか、ごめんね…。面倒でしょ?正直」
そんな風に見えていたのか、申し訳なさそうに言うからそんなことはないと否定する。
「私ね。こうして歩いてみて気づいたんだ。いい島だなって」
お世辞抜きで褒めた私だったが、彼女は共感してくれなかった。
「えぇっ、この島のどこが良いのよ~。なんにもない、どこにでもありそうな島じゃない?」
「そんなことないよ。長閑だし、人は温かいし。あと、野菜もそこら中で買えるし」とこの島の良いところを挙げてみるが、
「あのやり手婆さんたちに買わされたのね~」と笑われてしまう。
やり手婆さんとは、島で代々農家を営む家の名物おばあちゃん。もうかなりのお歳だろうと思われるが、若者に負けないくらい良い姿勢で、言葉もハキハキ喋る。
全国放送の番組のロケで一時期話題になったりもしているのだが、島の人からは恐れられている。
見つかったら最後、野菜を買うまで話が続くからだ。
「もうすぐ旬が終わるから、買うなら今のうちだよ。新生活でまだ自炊に慣れてないんじゃない?。長持ちするように加工するから待ってるんだよ。すぐに終わるから」
そんな風に半ば強引に買わされたが、おばあちゃんの優しさを感じたから、特に悪い気はしなかったけれど。
「容赦ないわね…」
「でも、この写真の場所はここじゃないか?って情報もくれてね。とても助かった」
「そうなんだ?どこ?」彼女は食い気味に訊いてくる。
「まだ確認してないから、見てから教えるね」
「もし、遠そうなら言って。連れてってあげるから」
なんて、乗っていた車を指差した。
「うん。また頼むね」
会話を遮るように着信音が鳴り響く。携帯を見るなり焦りだした。
「部長からだ…ごめんっ、もう行かなきゃっ、それじゃ、気をつけてねっ」
彼女はすぐに車に乗り込んで電話に出ていた。
忙しそうだな…なんて呑気なことを考えながら、車を出した彼女を見送って、また歩き出す。
ここなら良いか。
海沿いの昔使われていた港の事務所。建物は閉鎖されたが、その軒先に当時からあったと思われるベンチと自販機が置かれている。
日に焼け、海風にさらされ、少しざらざらとした座面に腰かける。
穏やかに揺らぐ海面を眺めながら、お弁当に手をつける。
焼き魚にしょうが焼き、卵焼きに煮物に和え物。
ご飯は混ぜご飯。
デザートには一口大のおはぎ。
格子状に仕切られ、色とりどりのメニューが並ぶ。
一つ一つの量はそこまで無いけれど、品目が多いから満足感が得られる。
どれも素朴な味付けで、何も変わったところは無い。
でも、とても温かい味だったと思う。
ぷは…
お茶をぐいっと飲み干して片付ける。
さて、行こう。
英気を養った私は立ち上がり、教えて貰ったポイントへ向かうことにした。




