▲ついてないサラリーマンの苦悩13(完)
その日は妹に付きっきりで看病した。
同僚との飲み会は中止になった。
次の日、同僚に謝って日程を再調整してもらった。
「時間が出来たら連絡するっす!」
今は忙しいらしく、すぐには決められないらしい。
数日が瞬く間に過ぎて、新しい仕事の初日を迎えた。
少し早めに家を出て「あおぞらブックス」に向かった。
到着すると、初対面の人が迎えてくれた。
「はじめまして。周防と申します。一応編集長っていうことになってます」
「はじめまして。シュウヘイと申します。よろしくお願いします」
「もう、お仕事の話は大体聞いていらっしゃると思いますが、編集部に届く原稿の整理をしていただきます。編集者が四人ほど、各地の島に二週間から一カ月程度泊まりがけで島の魅力を取材しているんです」
「へぇ」
「これは違うものの原稿ですが、このような感じでファックスだったり、PDFで送られてくるんです。」
原稿の見本として見せてくれたのは、所狭しと文字やマークが書き込まれたA4コピー用紙。どこかの商店街を紹介したものだった。
「結構乱雑に書く人もいるので大変ですが、本になった時には達成感が味わえますよ。自分が手直しした文章が載るわけですから。ただ、誤字脱字があった時は責任感じちゃいますけどね」
「重要なお仕事ですね…」
「ほかの役割に比べたら、そこまででもないですよ。気を張らずに雑誌を普通に読む感覚でやってください」
「分かりました」
「では、ここを使ってください。分からないことがあれば遠慮なく聞いてください。皆には紹介済みですから、誰に聞いてもいいですよ」
「ありがとうございます」
こうして編集補助としての仕事が始まった。
仕事中は個人の作業がほとんどで、人と会話をすることが少ない。そんな中、説明の時にお世話になった西浜さんが積極的に話しかけてくれる。
主に仕事のことだが、他愛ない会話をすることもある。
それから二週間が経ち、仕事にも慣れてきた。西浜さんとのやり取りも自然になってきた。
みんなそれぞれ忙しくしており、飲み会などは一切ない。そのため、少し味気なく思っていたが、徐々に西浜さんとの会話が楽しくなってきたため、それほど退屈はしていない。
異性との会話が楽しく思えたのはいつ以来だろうか。
それが恋の始まりだとは、まだ知らなかった。
新しい生活の中で新たな楽しみを見いだしていた頃、電話が掛かってきた。
「そろそろ、戻らないのか……?」
何年ぶりかに掛かってきた。
「いや、新しい職場に移ったばかりだから。短期だけど…」
「そうか。まあ、お前のペースで良い。だが、一度島に戻ってきたらどうだ?カナデも連れて帰ってこい」
「わ、分かった。時間があれば帰る」
「それじゃあ、カナデにもよろしく」
そう言って、向こうから電話を切った。
妹に連絡してみると、妹の方にも連絡はあったらしい。近い内に、島に帰る約束をしたらしい。
俺の予定が空く週末に目星をつけて、調整する事にした。
そう遠くない将来、島の診療所を継がなければならない。その時が来る前に父との関係を少しでも改善させなければならない。
そう、妹に言われた。
自分の不甲斐なさを思い知った今も、逃げ出したい気持ちが残っている。
本当は診療所など継ぎたくない。しかし、この数週間の間に父のために何かをしたいという思いと、医者の知識を持つ自分の使命を果たしたいという思いが芽生えた。
島から遠ざかりたい気持ちをぐっと抑え、向き合わなければならないのだと自分に言い聞かせた。




