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ファインダー  作者: 福山直木
ポートレート〜それぞれの明日〜
54/74

●とある写真家の憂鬱9(完)

大石さんは私の写真について話を始めた。

「君の写真は良くも悪くもシンプルだ。そして、感情が伝わってくるような写真でもある」

「悲しい感じですよね……」

それがいけないことのように思っていた私は、それが良い評価に聞こえなかった。


「そうだね。でもそれがいけない訳じゃない」

一冊のアルバムを手に取り、私に見せた。

沢山の写真が収められているが、それはどれも感情が伝わってくるような写真だった。喜怒哀楽、様々な場面が切り取られている。

「感情が伝わる写真を撮る人はね。大体ワンパターンなんだよ。そればかり撮る。もしくはそれ以外に興味がない。だからこそ、同じような場面や構図を無意識に究めているんだ」

「確かに、こういう雰囲気の写真はよく撮っている気がします」

言われている通り、同じような場面や構図で撮影することが多い。


「その過程で感情や想いが(こも)るんだよ」

「私はどうしたら、いいですかね?」

単刀直入に聞く。

「もし、何かを変えたいと思うなら、目線を変える必要がある。だが、強制はしない。こだわりがあって、これを貫きたいというなら究め続ければいいと私は思う」

「目線を変えるとは、どういうことでしょうか?」

言葉の意味を訊いてみる。

「それは、今まで撮ろうとして来なかったものを被写体にしたり、今までやったことのない技法に挑戦したりすることだよ」

説明してくれた。

「撮ろうとして来なかったもの……ですか」

「焦る必要はない。じっくり形にしてゆくものだと思うから」

「そうですか…」

少し間を置いて、話を始めた。

「もし、チャレンジするというなら、積み上げてきた常識や固定概念というものを崩し、一から積み上げることも時に必要だよ。それなりの覚悟を持たないと、途中で挫折してしまう。自分を変えようとするならば、まずは意識から変えろ。誰かの言葉さ」

「勉強になります!」

「とにかく、まだ見ぬ自分はきっとどこかに居るはず。今の道を行っても、新しい道を探しても、それは見つかるからね。自分が信じるものを行動に表せばいいんだ」


「試しにあいつを撮ってみるか?」

大石さんが手に持ったカメラを私に渡す。

「えっ!」

「えっ!」

二人とも驚く。

「少なくとも個展では、人物写真を見なかったから」

早とちりかと思ったのか、言葉を続ける。

「まぁ、確かにないですけど…」


こうして急遽、掛合さんを撮影することになった。

私はファインダーを覗く。少し緊張しながらも彼にピントを合わせる。

「で、では、撮りますね」

「どうぞ。遠慮なさらずに自由にシャッターを切ってくださいね」

「はい」


人を被写体にするのは初めてかもしれない。

記念写真などを撮ることがなかった私には、どうシャッターを切ればいいのかさえ分からなかった。

「はい、チーズ…」

カシャ


出来上がったのは、何の捻りもない証明写真のような人物写真。

だけど、私は新鮮みを感じた。

うまく言葉にできないけど、今までの自分ではないような気がした。


「まだまだ。何枚も撮って」

彼に促され、反射的にファインダーを覗く。そして、シャッターを切る。



大石さんの言葉を何度も思い返す。

ファインダーの先にある景色を見つめるように、この先に待つ未来を見つめ始めた。


これからどんな写真を撮ってゆくのか。自問自答を繰り返した。

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