■無愛想な男の夢6
5月の連休に入った週末。集合場所である駅に俺は居た。旅行客でどこもかしこも、人でごった返していた。駅構内やバス乗り場が特に混雑しており、逆にタクシー乗り場や送迎用ロータリーは閑古鳥が鳴いている。
学園都市として発展した周辺は、大学や付属高校の学生アパートが建ち並び、移り住んでくる人も比較的若い世代を中心。そのため、一世帯あたりの車保有率が全国ワーストランキングに入るほどなのだ。とはいえ、普通の日であれば学生の送迎で朝夕は混雑する。
駅前から延びる真っ直ぐな大通りの突き当たりに大学がある。三キロ先からでも黙視できる校門は固く閉ざされている。学校は今日から休業に入る。と言っても正門エリアだけであり、こうしている間にも、何百もの人が他の通用口から出入りを続ける。
そんな独り言を呟いていると五分、暇な時間が潰れた。
「そろそろ来ないかな」と思いながら、集合時間十分前を差す時計に目をやる。
そうしているとガラガラな送迎用ロータリーに停まった一台の車から、見覚えのある顔が降りてきた。小柄で短髪、それに黒縁メガネといえば、くーちゃんである。
「おはよう。もう来てたんだね」
「おはようございます。今来たばかりですから、待ってませんよ」お決まりの文句を言おうとしたのだが、背後から誰かに指摘された。
「私、見ちゃったなー新人くんが五分以上前からそこでそわそわして待ってたのを」
人を弄るのが好きな まーさんだ。
「あれ?そうだったの?」クスクスと笑いながら、くーちゃんが聞いてきた。
「五分以上前から居たのは認めますが、そわそわはしてません!というかいつから居たんですか?」
「えー気づかなかった?あそこから手を振ったんだけど・・・」と、まーさんは平屋建ての駅舎に迫り出すように作られたカフェを指差す。
だが、気づくわけがない。大きな噴水と駅とバス停を行来する人ごみの向こうにあり、こちらからは遮られて見えにくい。
「あれじゃ、分かりませんよ」
「冗談だよ。それより、なんで車?もしや、かよちゃん!?」
まーさんはさらっと話題を変えた。どこまでが冗談なのか分からない。
「あっそうそう、私の写真仲間のマユさんに話したら、是非行きたいって勝手に車で来ちゃって・・・」
写真仲間なるものがいるらしい。俺はそこに驚いた。
「マユさんって、あの?」
まーさんは、名前に反応した。
「そうよ。車で連れてってくれることになったの」
「すごいじゃん!写真家なんでしょ?」
写真家と聞いて、緊張してきた。
「まぁ、そこまで名乗れるほどじゃないって謙遜しちゃうけどね。で、かよちゃんは現地集合。実家から近いらしくて、昨日から実家に帰ってるみたいなの」
「へぇーそうなんだ。じゃ、早速出発しよ!」
まーさんが珍しく浮き足立っている。そんなにすごい人なのかと身構えた。
車に向けて歩いていくと、マユさんが車の中から覗いていた。優しそうな二十代くらいの女性だった。
「話は終わった?」
「はい。行きましょう!」
一刻も早く出発したいらしく、
「自己紹介は後でいいから、早く乗って」と急かした。
車が走り出してすぐにマユさんが自己紹介をした。
「はじめまして、アマチュアで写真家をしているマユと言います。」
「はじめまして!わ、私はマリエです!フォトサークルで一緒に活動してます!今日はよろしくお願いします!」
まーさんは力が入りすぎてガチガチだった。
「はじめまして。一緒に活動しているタイチと言います。よろしくお願いします。」
俺も、そんなに変わらなかった。
「よろしくね。まぁ私は現地に着いたら、別行動だけどね」
申し訳なさそうに言う。
「えっ!別行動なの?」
くーちゃんが大きな声をあげた。
「そうよ。相方が待ってるからね。今日はプライベートと仕事の半々のつもりだから」
「えー。せっかく、久々に一緒に写真撮れると思ってたのになー」
珍しい態度を見せた。どのような関係かは分からないが、まるで姉妹のように仲が良かった。
車は街を離れ、山あいの小さな町を走る。次第にトンネルが連続するようになった。進むにつれて車の流れは鈍くなり、そろそろという所で渋滞にはまった。
「まだぁ~」
くーちゃんが待ちくたびれていた。
「あと、もう少しの辛抱よ」
マユさんはくーちゃんを励ますが、カーナビに表示された目的地までの距離は2キロ。まだまだ掛かりそうだ。




