▲ついてないサラリーマンの苦悩3
担当していた仕事が一段落したため、新しい仕事を任された。
「今度は加藤と一緒にとある書籍の出版作業を任せる」
上司から通告を受けた。
「また、一緒になったな」
「そうっすね!よろしくっす!」
加藤とは本当によく一緒になる。
担当する書籍の著者が待っているという会議室に向かう。
そこには20代くらいの女性が待っていた。
「お待たせしました。担当する田嶋です。こっちは加藤です。よろしくお願いします」
「こ、こちらこそ、よろしくお願いします」
緊張気味にそう返した。
打ち合わせを終えて、作業の流れを上司に報告する。
「これでいいだろう。じゃあ、頼んだぞ」
「わかりました」
すんなりと報告書が通って一安心したのもつかの間、別の案件の仕事が待っていた。
ヘトヘトになって、新居に帰ってきた。
微妙にまだ独特のにおいが漂う部屋は殺風景だ。唯一、担当した書籍や関連の本が並ぶ本棚と仕事に関する書類が散らかるデスクが生活感を醸し出しているだけだ。
趣味という趣味がない僕にとっては普通の光景だ。
ソファに座って、部屋をぼんやりと眺めているとインターフォンがなった。
誰だろうかと思いながら、覗窓から来訪者を確認した。
確認して、すぐにドアを開けた。
「おっす!頑張ってる~?」
そこには妹が立っていた。
「いきなり来るなよ・・・」
「なんで~。いけないコトでもしてた?」
「いや、そうじゃない。何事かと思うだろ・・・」
それを聞いた彼女は、呆れ顔になった。
「お兄ちゃん、まだビクビクしてんの?そろそろ、覚悟決めれば?」
俺が社会人になりたての頃の話。
父親から本業を継いでほしいと妹経由で俺に伝えてきたのだ。その時は拒否したのだが「いずれは継いでもらう」という言葉が返ってきたのだ。
「そんなこと話に来たわけじゃないから。今年のお盆は帰るの?」
「帰れるわけないだろ・・・予定が入ってる」
「どうせ、仕事じゃないくせに・・・。何の予定があるのよ」
「仕事だ、仕事!忙しいんだよ」
「へぇ~。ま、別に帰らなくてもいいけど」
「なんだよ・・・それなら、いちいち訊くな!」
さりげなく玄関から居間へと移動していた。
「それにしても、お兄ちゃんの部屋は相変わらず何もないよね・・・」
妹は部屋を眺めながら呆れ顔で言う。
「いいだろ、別に・・・というか用事が済んだら帰れよ」
返事は返ってこず、沈黙が流れた。
部屋を1、2周した妹は俺の前に立って、意を決したように言葉を発した。
「・・・お兄ちゃん、ご飯まだなんでしょ?」
「あぁ、そうだけど・・・どうした?」
この先の展開はなんとなく分かっていた。
「なんか奢るよ・・・」
冷静なトーンで呟くように言った。予想通りだ。
「じゃあごちそうになろうか。店は決めてくれ」
こういうのは初めてではない。相談事だったこともあれば、愚痴を聞いてくれというのもあった。「とにかく話がしたい」という言葉の代わりだ。




