ボクと君のエピローグ
「こんにちは、初めまして。ボクはルミア・カルティエと申します。ボクは、あなたに挨拶をするためにここへ来ました。ご報告をさせてください。ボクは今日、ルドヴィン様と結婚することになりました。挨拶が遅くなって、このように直前になってしまい、申し訳ございません。実は今日、これから結婚式も挙げる予定なのですが……昨日の夜、あなたのことを聞いたので、いてもたってもいられずここまで来てしまいました。まだ朝も早いですし、乗り物を使ってきたので時間までには帰る予定です! 安心してください! 絶対に遅れませんよ!
あ、ここに来たのはルドヴィンに教えてもらったからではなく、彼の従者であり良き友人から教えてくもらいました。昨日、突然連絡があったんですよ。えっルドヴィン様教えてくれてないんすか! そんなことだろうと思ったっすけど。いや、実はですね……って。多分、ルドヴィンは十分に時間が取れて、二人で行ける時に紹介してくれようとしてたんだと思いますけど、へへ、こっそり来ちゃいました。会いたくて会いたくてしかたがなかったので。今回のことがもしバレなかったら、内緒にしてくださいね。
それでえーっと、いざ来ると言うこと忘れちゃうな……そうだ、ルドヴィンの話! エドガーさ、友人の話によると、定期的に会いに来ているみたいなので、知っているとは思うのですけれど、ルドヴィンはすっごく立派な人になりましたよ! まだ王位を継いで間もないし、やってることとか、あと貴族の人たちへの態度がその、あんまりよくないので、そういう人たちからは批判殺到してるんですけど、ちゃんと国民から支持はされてますよ。実現が夢みたいな綺麗事を言うんじゃなくて、何でも包み隠さず言うのはすごいなあと思います。それでたまに、はい、たまに怒りを買うこともあるんですが……。
それは置いておいて、時々お城を抜け出しては、町や村に顔を出してそこの人とお話してたり遊んでいたり、仕事のときも、表情豊かで、見ているこっちまで楽しくなっちゃうところが、この国の人々にとっても親しみやすいんだと思います。子供と一緒になって走り回っているところを見ると、つい混ざりたくなっちゃいますよ。……白状すると、実際に混ざったことは何度もあります。連れ戻すために行くんですけど、鬼ごっこに誘われると断れないのが性と言いますか。どうしても、今回だけ、今回限りでやめると思っているのに、混ざってしまうんですよね。その度に、ボクの兄に揃って叱られるのも定番になってしまっているんです。
……出会って、友人になって、婚約者になって、そして今に至るまで、正直に言ってしまえば、ボクは彼の力になれているとは、まだ完全に思えていなかったんです。少々磨いた料理の腕で、差し入れとか作ってるので、そういう点では役に立ててるかな、と思っているんですけど、本当の意味で心の支えとか、助けになれているのかと言われればそうじゃないかもって。誰に相談しても、そんなことはないって言われるんですけど、それでも心に不安があったんです。
だけど、そんなことを思ってる内に、ルドヴィンはどんどん、前に前にと走っていってる。もう追い付けないほど先に行かれている気がするんです。だから、実は今日の結婚式も、本当にいいのかな、って思ってる部分もあります。ボクなんかがルドヴィンに釣り合うのか、と何度も何度も考えてます。もちろん、プロポーズは人生の中で一番嬉しくって、泣きそうになりながら頷いたんですよ。けれど、まだ迷っている自分がいて、情けない話ですね。
でも、ここに来て、考えが変わりました。生を失ってしまった人は、生きている人には干渉できない。それは、死んでしまったボクがナツメに何もできなかった、見守ってあげることすらできなかったのだから、よくわかっています。生きている人の支えには、同じく生きている人しかなってあげられない。だから、生きている限り、彼を支えてあげることはできてるんじゃないかって思ったんです。それが、彼への恩返しにもなるんだって、わかったんです。ボクはちゃんと支えてあげられてるんだって自信がつきました! 不安は完全になくなりましたよ!
ボクは昨日教えてもらうまで、ルドヴィンの過去を知りませんでした。彼に聞いても、いずれ話すの一点張りでしたから。だけど、結婚式が行われる前に知れて良かったです! 貴女のことが知れて、挨拶もすることができて、迷いも晴れました。……全部、ボクの自己満足ですけど、それでも嬉しいんです。 ここに来れて良かったって、心の底から思ってます。
……あっ! 折角自信がついたのに、大事なことを忘れてた! リズットさん、いえ、お母様!……ですかね? これからもずっと、貴女の息子さんと幸せを築いていきますので、ルドヴィンさんをボクのお婿さんにさせてください! 結婚させてください! お願いします!
あれ? お婿さんじゃなくて、夫って言った方がいいのか? どう言うのが正しいんだろう。うーん……って痛っ!?」
「何こんなところで大声で恥ずかしいこと言ってんだ馬鹿!」
つねられた頬の痛みと同時に聞こえてきた声に振り向くと、真っ赤な顔で怒るルドヴィンがいた。やっぱりバレちゃったのか。おそらくエドガーさんが昨日話したことを言ったのだろう。まったく、あんなに内緒話みたいな感じで聞かせてくれたのに、ちょっと口が軽いんじゃないだろうか。まあ、エドガーさんも多少なりとも怒られただろうから良しとしよう。それに、この様子だと、挨拶より前の話は聞かれてないみたいだしね。
「何って、ルドヴィンのお母様の前で挨拶をしてたんだよ」
「それは癪だが内容でわかる。というかこんな朝に大声でそれを言うことが近所迷惑だと言うことを考えろ」
「それは、ごめんなさい」
周りをよく見てみると、小さな子たちが数人、色んなところから顔を出してこちらを見ているのがわかる。どの子も一緒に遊んだことがある子たちだ。ひらひらと手を振ってみると、にこっとして振り返されたので、思わずボクもにこにこしてしまった。
だが、数秒の内に、その手を掴まれてしまった。
「おい、何やってんだ。お前今笑える状況じゃあねぇんだぞ」
「あはは、つい……」
「まあいいが、それより何で今日、というか今! ここに来やがった? エドガーが余計なお節介で話したにしろ、明日でも明後日でも、せめて式が終わった後でも良かっただろうが」
「うーん、それもそうなんだけどねえ」
返答に困ってしまった。ボクにとっては今じゃなきゃダメだったんだ、と言うと、その理由を聞かれてしまう。お母様に話すことはできても、ルドヴィンには話したくないんだよね。絶対に馬鹿って言われるから。もう既に言われた後ではあるんだけども。何回も言われるのは嫌だ。それに、そんなこと思ってたなんて言ったら、心配もかけちゃうだろうからね。
でも誤魔化す技術もなく、ただ言い淀んでいると、ルドヴィンは呆れたようにため息をついた。
「言いたくねぇならそれでもいいぜ。逃げ出したわけでもなさそうだしな」
「なっ!? 逃げ出すなんてことしないよ!」
「お前はそう思ってても疑われてんだよ。向こうでイリスとセザールがすげぇ焦ってたぞ。ルミア様が帰ってこないってな」
何!? もう焦らせてしまうほどの時間なのか! それなら速く行かなきゃ!
「よし、じゃあお話も大体終わったから大丈夫! 行こう!」
「おお、急ぐぞ。アンドレが心労で死ぬ前に」
「兄様死にそうなの!?」
内心焦りつつも、ボクはお母様に手を振った。すると、お母様も一瞬、笑顔で手を振ってくれたように見えた。けれど、瞬きをした時にはもういなくなっていた。
ベルが昔言っていた。乙女ゲームは大体、続編がないものは結婚で終わるんだって。だけど、ボクのいるこの世界は結婚で終わりじゃない。人生はもっとずっと続いていく。ここからは、ボクとルドヴィン、そしてみんなとの、長い長いエピローグだ。少しでも長く、そしてずっと幸せだと思ってもらえるよう、ボクもみんなとともに生きていこう!
君のことも絶対に助けてみせるから、もう少しだけ待っててね、ルミア。
ここまでご愛読ありがとうございました!
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