表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

220/223

みんなからのお祝い

 抱き上げられて帰って来たボクとルドヴィンを見て、みんなは何を聞くでもなく、お祝いの言葉をかけてきた。


「わー、おめでと」


「いえーい! 良かったっすねルドヴィン様! ルミちゃん! おれも嬉しいっす」


「ルミアちゃんの心を掴んだからと言って安心しないでください。少しでも任せてられないと思ったらすぐに別れさせますから。覚悟しておいてください」


「本当に祝う気持ちがありそうな奴がエドガーしかいないじゃねぇか! フランソワーズ嬢に至っては別れさせる気にしかないな!?」


 ルドヴィンの指摘してるところも気になるが、それよりも、どうして報告をする前にみんなが全てを察しているのかが、ボクにはさっぱりわからない。いや、ラフィネには確実に悟られてると思ってたけど……まさかフランとエドガーさんにも気付かれているとは。えっ、そんなにわかりやすかったかな。そんなことなかったと思うんだけどな。

 はっ、もしかして兄様も?と思ったが、兄様を見ると、不思議そうに首を傾げていた。


「何の話だ?」


 兄様がそう聞くと、全員が一斉にボクたちの方を、というか、ルドヴィンの方を見た。まるでお前が説明しろとでも言うようだ。というか言っているのだろう。自分で言うのも何だが、兄様に伝えるのが怖いことの一つに、ボクとの恋人になる、って言うのは必ずあると思う。それは友達だろうと親友だろうと例外ではない。伝えなくてもいいなら絶対に伝えたくはないだろう。

 それでも、ルドヴィンは恐れることなく、兄様に答えた。


「ルミアとオレが婚約したって話だ。オレ達は互いに好き合ってるんだから、お前も文句はないよな?」


 婚約!? そんなことボク聞いてないよ!? いや、お付き合いをするなら、将来的には結婚するのかもしれないけど、ちょっと早すぎるんじゃ……。あ、そもそもこの世界には、結婚するかわからないけど付き合ってみる、なんてことはそんなにないのか? 両思いじゃなくても婚約はしなきゃいけないこともあるし、一夫多妻なところなんて、身近にはいないけど普通にいるんだ。お付き合いをして見定めるよりも、結婚する方が手っ取り早いような気もする。なら婚約するには気が早いなんてことはない……? 考えれば考えるほどわからなくなってきた。やめよう。


 あ、結婚と言えば、そういえば兄様は以前に、ボクの結婚相手は、兄様よりも頭がよく、ボクを守れるほどに強く、ボクを兄様よりも愛すことができる人。それに加えて顔がよくなくてはならない。何度思い返しても厳しい条件だ。


 ふむ、とりあえず一度ルドヴィンを冷静に分析してみよう。まず頭は、結構いい方なんじゃないか? 兄様やラフィネほどと言ったら厳しいけど、悪くはないはず。兄様も大目に見てくれるかもしれない。それから、守れるほどの強さ、はあると思う。現に、ボクは大事なところでたくさん助けられてるわけだし、ルドヴィンがいなくちゃ今のボクはない。なら、ここは文句なしにクリアだ。あとは、そうだな、顔は……好きな人だからちょっと贔屓してるかもしれないけど、か、かなりかっこいいんじゃないだろうか。兄様を越えるかと言われると難しいけど、乙女ゲームの攻略対象になるくらいなんだし、すごく顔はいい部類に入るはずだ。それなら顔は大丈夫だろう。

 うん、ここまでなら条件を満たしていると言えなくもないけど、敢えて飛ばした愛の問題については、正直なところ、断言できない。というか、判断ができない。目に見えて数値化されてれば一目瞭然だけど、実際にはそんなことありえないしなあ。


 そう考えていると、兄様が絞り出すような声で、そうか、と言ったのが聞こえた。兄様の表情を見ると、予想からかけ離れたようなものだった。


「そうだったのか。それは──めでたいな」


 兄様は笑顔だった。今まで見たことがあるようで、ない笑顔に見える。穏やかだけど、儚くて切ない。見ているこっちの心がきゅって締め付けられるような、そんな笑顔。

 一瞬間だけ、沈黙が流れた。でもその時間は、みんな笑うこともなく、兄様を見ていた。だから、沈黙を破れるのは兄様だけだった。全員に黙って見られていることに、首を傾げた後、さっきまでの表情を完全にかき消して、照れたように微笑んだ。


「だが、少し寂しいな。二人がどこか遠くへ行ってしまいそうな気がしてならない」


 その瞬間、別の衝撃がボクたちに走った。


「そんなことないよ兄様! 遠くなんて行かないよ!」


「そうだぞ! 結婚したところでそんなに大きな変化はねぇよ!」


「いや、絶対に変化はあるから。それもかなり大きいんじゃない? ルミアがこの家を出るんでしょ?」


 さすがラフィネ。言いにくいことをさらりと言ってのける。むしろ言わなかったらラフィネじゃない。でも、そんなこと言ったら兄様がますます悲しんでしまうじゃないか! こんなにもわかりやすく、そしてかわいくしょんぼりする兄様、一年に一度見られるか見られないかくらいなのに、なんて酷なことを言うんだ!

 と思っていたのだけれど、存外兄様は平気そうに言葉を返した。


「そう心配してくれなくても大丈夫だ。そもそも俺はルドヴィンの仕事を手伝う予定だから、会う機会も多いだろうしな。それに俺にはエドモンドもいるから問題ない」


 その言葉を聞いて、フランがムッとした様子で言う。


「あなたに敵意はないとはいえ、よくあんな人を今でも傍に置いていますね。一時的とはいえ、アンドレ様の声まで奪った方なんですよ? 裏切り者を簡単に許すなんて」


 本当に身内には人がいい方ですね、と言うフランは、やっぱりちょっとだけ怒っているように見えた。その辺りの事情……ん? よく考えたら全然聞いてないな? そういえば誰にも説明もらってないな!? ボクとラフィネが連れ去られた理由もまったく教えてもらってない! そうだ、何故かペネム先生とロタさんに謝られたときは、


「こっちが話すと所詮は加害者側の意見ですから、他の子に聞いた方がわかりやすいと思いますよぉ」


「そう、ねえ。それに、あの子達の関係性は、アタシには見ることができていないから、はっきりとはわからないもの。答えられることはないわ」


 と言われたから、イリスさんやセザールさんに聞いたときは、


「申し訳ありませんが、わたくしには説明できかねます。一部始終を見聞きしただけでございますので……」


「そうですね。俺も語れることは自分のこと以外不確定なんで、説明はしにくいです。当人に聞くのが手っ取り早いんですけどね。それかディゾルマジーアの方々なら話の全容を知ってるかもですねー」


 と返ってきた。その時にはベルは勝手に出掛けていってたし、フェルツィウムさんは忙しそうだったから、ティチアーノさんに聞いてみたら、我輩はヒトジチにされていたダケナノデ本人に聞いてほしいデゴザイマスナ、と言われてしまった。

 なので意を決して、ボクはエドモンドさんに聞こうとした。けれど、きちんとした答えは返ってこなかった。悪かったとは思っているがやったことが間違いだとは思ってない、と言われた。その後エドモンドさんは、この現場を目撃していた兄様に頭を叩かれていた。本当に痛そうだったけど、兄様がやることなので止めなかった。仕方ないね。


 そんなこんなで説明はしてもらえていなかったし、半ばどうでもよくなっていたけど、フランの言葉を聞くに、兄様はエドモンドさんに裏切られてしまっていたのか。……何で?

 疑問に思うボクを置いて、兄様は膨れっ面のフランに向かって言う。


「何だ? まさか俺を心配してくれているのか?」


「なっ、そ……そんなことないですよ!」


 誤魔化すフランさんもかわいい……と言うエドガーさんの声が聞こえていないのか、兄様はそうなのか、と頷いた。


「それならいいんだが。それに、お前の言っていることには語弊がある。俺はエドモンドのことを許してなんかいない」


「えっ!? そうなんすか!?」


「そうだ。だが、信頼も失ってはいない。エドモンドは裏切らないと言うのはただの俺の思い込みだ。その思い込みが壊れただけのこと。ありのままのエドモンドを信頼しないわけにはいかない」


 うーん、ボクには難しくてよくわからないけど……。


「つまり兄様は、エドモンドさんが大好きだから一緒にいるってこと?」


 そうボクが言うと、何故かみんなにポカンとした顔をされた。何でだ? ボクはそんなに的外れなことを言っただろうか、と思ったが、兄様だけは微笑んでいた。


「ああ、そういうことだな」


「そっか、ならよかった!」


 兄様がそう言うなら正解だ! やったー! と思っていると、ルドヴィンが呆れたような顔をして、口を開いた。


「あーやめだやめだ。こんなの見てたらほわほわした気分に埋め尽くされて、朝まで騒げねぇ。さっさと他の奴らにも公表するぞ」


 そう言って、手を掴まれる。な、なんだって!? ほぼ身内ばっかりと言っても、ボクがよく知らない人もいるのに!?


「待って、まだ心の準備が!」


「いつできるかわからない準備なんて待ってても仕方ないでしょ。ほら、いってらっしゃい」


「気を付けてくださいね!」


「頑張ってくるっすよ! ルミちゃん」


「気が済んだら戻ってくるんだぞ」


 助けを求めて振り向いたのに、誰も助けてくれそうじゃないな!? 味方がいないなんて。せめてイリスさんかセザールさんがいれば……いや、あの二人もこういう時は助けてくれなさそうだ。それじゃあもう腹を括るしかないのか……。

 そう思いながら、ボクはルドヴィンと一緒に、色んな人に挨拶をし始めるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ