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帰ってよかった

 ボクが目覚めると、皆、喜んでいたり、心配そうにしていたり、様々な表情をしていたけれど、ボクがいることを歓迎してくれていることははっきりとわかった。ルドヴィンが言うように、ボクのことを大切にしてくれているからこうして迎えてくれているんだ、とバカなボクでも理解できた。そう思うと、情けないやら嬉しいやらで少し泣きそうになったけれど、そんな表情をすると、また心配をかけてしまうだろうから、何とか我慢した。何か、変な機械の中に入れられていたことも、今はどうでもよかった。


「ルミアちゃん! 戻ってきてくれてよかったです!」


 涙を流しながら抱き着いてくるフランの姿は、何だかとても久しぶりに見たような気がした。どのくらいの時間がこっちでは経っているのだろう。そんなには経ってないはずだけど、何だか全部、懐かしいもののように感じる。


「ごめんね。待っててくれてありがとう、フラン」


 そう言って、ふわふわと柔らかいフランの髪を撫でると、フランの涙はなぜかさらに勢いを増した。


「ど、どうしたの!? 大丈夫?」


「だ、大丈夫ですけど、大丈夫じゃありませんよぉ……」


 声をあげて泣いているフランを、どうしようかと思っていると、目を腫らしたエドガーさんがちょっと怒ったような風に言った。


「フランさんはずーっと、ルミちゃんのこと待ってたんすからね! おとなしくそのままでいてほしいっす! はー、羨ましいっすね、ルミちゃんったら!」


「あんたの願望出てるじゃないのよ。けど、本当に、あたしと引けを取らないくらい心配してたから、そのままでいさせてあげたらいいじゃない、ルミア」


 むう、ベルがそう言うなら、そうした方がいいかな。泣いてるのをそのままにしておくのは、どうしても心が痛むんだけど、このままでいるのも、大事なのかな。それなら、フランが満足するまでボクも、この体温に触れさせてもらおう。

 そう思いつつ、フランの頭を撫で続けていると、今度はイリスさんが声をかけてきてくれた。


「ルミア様、お帰りなさいませ。……その、息災でしょうか?」


「え……っと? そくさ?」


「ルミア様が永逝なさるかもしれないと聞いた際には、わたくしも酔生夢死のような生涯を覚悟して……」


「えいせい? すいせいむし?」


「ちょ、ちょっと待ってください! イリス! ちょっと落ち着けイリス! お前の言ってることはほぼ通じてないぞ! もっとわかりやすく噛み砕け! ルミア様はそこそこバカなんだからな!」


 確かにイリスさんの言葉は難しくてわからなかったけど、セザールさんがそこそこバカだと思ってることは十分伝わってしまったんだけど? 普通、思ってても本人の前では言わないようなことが、直接伝わっちゃったんどけど? よし、フランが離れたら蹴りかかろう、絶対。今回は兄様に手伝ってもらってでも、確実に傷を負わせてやる。はっ、そうだ! そういえば!


「兄様、兄様は!?」


 思い出した。確か……陽平くんの話題が出た時だ。何かめちゃくちゃ適当にルドヴィンが誤魔化してた紙。あれに書かれた字は、確かに兄様の文字だった。誤魔化してなかったときのルドヴィンの発言が真実なら、兄様は今、声が出ない状態……。どうしてそんなことに、いや、それよりも安否を!


「俺のことを呼んだのか、とアンドレ様が申しております」


 そうかけられた声に、咄嗟に振り向くと、そこにはペンと手帳を持って、和やかに微笑んでいる兄様と、何だかちょっと、やさぐれた感じのエドモンドさんがいた。……んん~? 少し見ない間に、エドモンドさんの様子が変わっているような気がするのは、どう考えても勘違いじゃないよね?


「ああ、執事長はこれを機にイメージチェンジしたんで、これからはアンドレ様以外にはずっとあんな感じだと思いますよ」


「そ、そうなんだ?」


「ええ、執事長は私利私欲に正直になりましたので、おそらくは永遠にあの態度です」


 本当にボクが眠っている間に何があったんだろうか。うん、正直なことは良いことだと思うけど、かいつまんででいいから説明がほしい。

 と、そんなことを気にしてるじゃない! やっぱり兄様は今も声が出ないんだ! さっきも、エドモンドさんが兄様の言葉を言ってたみたいだし……。


「兄様! 一体どうし……」


「ルミア様!」


 ボクが兄様に声をかけようとすると、エドモンドさんが、怒っているかのように低い声で止めに入ってきた。一瞬びっくりしたけれど、顔をあげたエドモンドさんは、何事もなかったかのように、でもわざとらしい笑顔でボクに言う。


「大変申し訳ございませんが、アンドレ様との会話は私を通してくださいますか? 今のアンドレ様は非常に残念なことに声が出せない状態でございますので」


 妙に圧のあるその言葉に対して、ボクは率直に思ったことをぶつけた。


「え、う、うん。それはわかるけど……耳が聞こえないわけじゃないなら、普通に話しかけるのに問題はないよね?」


「そうですが、アンドレ様は、い゛っ!?」


 何かを言い返そうとしてきたところで、隣の兄様がエドモンドさんの頭を叩いた。そして、手帳に何かを書き込むと、エドモンドさんの眼前に突きつけたのだ。エドモンドさんはそれを見ると、顔を真っ青にしながら必死に謝り始めた。

 ……以前よりも、上下関係がはっきりと目に見えるようになっている気がするけど、兄様的にはいいんだろうか。うーん、でも兄様が何だか嬉しそうだから、問題はない、かな? さっきのも、蹴るじゃなくて叩くだったから、かなり痛そうではあったけど、うん、兄様にとっては手加減だろうしね。かなり痛かっただろうけど。


 兄様に許しをもらった後、気を取り直して、エドモンドさんは兄様の言葉を読み始めた。


「声が出なくなったのは全面的に……っえ、エドモンドのせいだから、ルミアが気を病む必要はない。それに先程医者に診てもらったところ、数日から数週間で回復するらしい。少し不便ではあるが、それ以外は特に問題はない……と、アンドレ様は申しております……」


 何だか露骨に元気がなくなったエドモンドさんの様子は、いっそ面白かった。兄様も隠してるけどちょっと笑ってるし、完全に面白がってる感じがある。……よくわからないけど、やっぱり兄様の幸せが一番なので、助け船は出さず、そっとしておくことにしよう。エドモンドさんにとっても、ボクが介入してくるのは嫌かもだしね。


「う、ぐぅ、アンドレ様、その節は本当に申し訳、あ、次に読むものですか? かしこまりました。アンドレ様のご意向のままに。……だから、俺よりもルドヴィンのことを気にかけてやってくれ。お前が帰ってきてくれたのは、あいつのお陰なのだからな、とアンドレ様は申しております」


「あー、そうよね。今はここにいないけど、ティチアーノもフェルツィウムもすっごく心配してたし、ルミアが帰ってきてくれてホントに良かったもの! ちゃんとお礼言っとかないとね」


 ベルにそう言いながらウインクをした。そっか、うん、確かにそうだ。こんなにもボクはみんなに帰りを求められていたのに、内側に引きこもってしまおうとしていた。あの子とルドヴィンがいなければ、ボクはこの景色を見ることはなかった。ちゃんと、お礼を言わないと。そして、あの事を話し合わないと。

 そう考えた直後、一際大きな声が、みんなとは別の方向から聞こえてきた。


「ちょっと! 何隠れてんの!」


 そっちを見ると、ラフィネが誰かを引き摺ろうとしているのが見えた。ラフィネは見られていることに気が付くと、しれっとした様子で言う。


「あ、すぐに引き摺りだすから待って」


 あまりにも自然にそう言うものだから、ボクもほぼ反射的に頷いた。ボクの反応を見てから、ラフィネが一気に誰かを引っ張ると、簡単に彼は現れた。


「おわっ!?」


 姿を現したのはルドヴィンだった。ボクと目が合うと、ルドヴィンは若干引きつったような笑みで、声を出した。


「よ、よう! さっきぶりだな?」


 ボクはそれに、思わず頷いた。

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