閑話(お嬢と五人の執事)お正月編⑤
「……ちょっと黒川。
私の頭上で海老を剥くのを止めていただけませんか?」
「白石君、海老を剥いたよ」
黒川、無視するな。
「ありがとうございます。黒川君」
「何ですか? その関係は。
何故黒川が白石の為に海老を剥いているのですか?」
「白石君は海老で手が汚れるのが嫌いだからな」
「白石、どこの甘ったれ坊やですか!
潔癖のくせに黒川が剥いた海老なら食べられるなんて、潔癖の風上にも置けませんな。
黒川、私にも剥いてください」
「お前は潔癖でも何でもないだろう。自分で剥け」
「フッ。そう言うと思っていましたよ。
栗きんとん、栗きんとん~」
「目の前でちょろちょろ動くな。目障りだ」
「ならば移動すればどうですか? 数の子、数の子~」
「ああッ! 何が食べたいんだ!
取ってやるから大人しくしていろ!」
「では、カマボコと昆布とハムと……、あ。海老も剥いてください」
「黒川君、結局そうやってお嬢を甘やかすから駄目なのですよ」
「甘ったれ白石王子にだけは言われたくありませんな」
「ふー。そろそろ着物に着替えようかな」
私達が騒いでいると、パジャマ姿の青田が立ち上がった。
青田は今年もマイペースだな。
「わーい! 振り袖、振り袖ー!」
桃も嬉しそうに立ち上がる。
「え? 桃も着物を着るの?」
「うん。振り袖、可愛いじゃん! お嬢も一緒に着ようよ」
「いえ。私は遠慮しておきます」
「お嬢、たまには着物も良いよ。
お嬢の着物も用意しているから、一緒に着よう」
「えー……」
渋々、青田と桃に付いていく。
「お嬢も桃も着物向きの体型だから、絶対似合うと思うよ」
「青田……。それって、どういう意味ですか?」
「ふふ」
着付けは地獄のひとときだった。
「ギエー! 青田、これ以上締め上げたら肋骨が折れます」
「ハハハ! まだまだー」
「青田ー! 後で餅が食べたいので、餅分の容量を空けておいてくださいィィィ」
「着物を着ている間ぐらい、食べ物の事から離れなさーい!」
……。
今知った事実。青田もかなりのドSだ。
「わあ! やっぱり青田。着物を着ると格好いいよね。
桃も可愛い! 男なのに、男なのに……」
「フフ。お嬢も可愛いよ。さあ、お披露目に行こう」
「え……。絶対貶されるから行きたくない」
「大丈夫。絶対褒めてくれるよ。自信持って」
「そ、そうかな……」
私は青田と桃の後ろに隠れながら、大広間に戻った。
「どう? 可愛い?」
桃が黒川達の前でクルクル回る。
「ああ。桃は安定の可愛さだ。
しかし、青田君の後ろの、扇子で顔を隠している奴が気になって仕方がない」
「アチキは平安生まれの平安育ちでやんすから、顔など見せぬでござんすよ」
「お前……。顔を見せずに十分笑わせてくれるその存在感は、一体何処から出てくるんだ?」
「見ないでくだされー。見ないでくだされー」
「見ないから、扇子を取ってくだされー」
「……」
黒川の、時々真顔で放つ冗談が怖い。
扇子で顔を隠して登場するんじゃなかった……。
余計に皆の注目を集めて、扇子を取るタイミングを失ってしまったではないか……。
私は扇子で顔を隠したまま、大広間の隅っこに正座した。
「さすが着物だな。お嬢が大人しくなった」
「だからアタイを見ないでくだされよー」
「お嬢、お年玉が要らないのですか?」
白石がポチ袋をチラチラ見せる。
「ハッ! お年玉ッ! 下せぇ!」
扇子を閉じて、猛ダッシュで白石の元へ行く。
「ハハッ。天照大神みたいだな」
「天照大神? 何ですか?」
「天照大神を知らないのか。
……。美人な神様だ」
美人……。黒川、説明が適当過ぎるな……。
少しは私の事を褒めてくれているのかな?
この屋敷に来た時から、赤井、桃、私の三人は、黒川、白石、青田の大人組から毎年お年玉を貰っている。
あげる側、貰う側が正座で対面する。
「ありがたき幸せ!」
「お嬢、貰ったそばから中身の確認をするなよ」
「エッ? 千円札一枚……。
あ。白石のも。お! 青田だけ三千円!」
「青田君。
あれほどお嬢のお年玉は千円にしようと決めておいたのに……。
甘すぎますよ」
「ハハハ。良いじゃないか」
私の……。
私の知らない所で悪の協定が結ばれている……。
「千円って! 今時、小学生でももっと貰っていますよ!」
「お嬢は無駄遣いしかしませんからね」
「無駄遣いなどしていません!
……と、いうか、この金額で無駄遣いなんか出来ません」
「この間、ハブとマングース柄の下着を買っていましたよね?」
「うわぁぁー!
白石、何故皆の前で発表してしまうのですか?
それにあれはハブとマングース柄ではなくて、ラッコとウミヘビ柄ですよ?
水族館十周年記念に限定販売された特別グッズなのです」
「どちらにしても悪趣味だと思います」
クッ!
ただのラッコ好きなのに。
ラッコグッズを集めているだけなのに。
オホーツク海に行きたい!
「赤井、お前はいくら貰ったんだ!」
私は赤井に体当たりし、赤井のポチ袋を奪った。
「あッ、一万円! 白石も! 青田まで!」
「赤井くんや桃は部活などで物入りだから仕方がないだろう?」
「では、私も部活に入ります」
「何の部活だ?」
「お……、応援団?」
「……仕方がねーな」
黒川から五百円を追加で頂きました。
次いで白石からも五百円の追加。金額アップ大成功!
……応援団? 何故私は応援団と言ってしまったの?
私達は毎年こんな感じでお正月を過ごしている。
この後、初詣で捻挫したり、黒川餅地獄があったりするのだが、話が長くなってしまいそうなので、それはまた別の機会に。
ちなみに今年の書き初めで『不良少女』と書いたら、黒川に微妙に訂正され、今年の決意表明が『良い少女』になってしまった。
『良い少女』って何だー! 新年早々守れる気がしないよね!




