閑話(お嬢と五人の執事)遊園地編③
「白石、大丈夫ですか?」
「ああ……、お嬢。大丈夫ですから放っておいてください」
「白石、きつねうどんでも食べますか?
お腹がいっぱいになれば元気が出るかも知れませんよ?」
「ははは。そうですね。
ではカレーうどんでも頂きましょうか」
駄目だ。白石が完全に壊れている。
白石は普段、シャツが汚れるからと言って、決してカレーうどんを口にしない。
でも、本人が食べたいと言っているのだ。
ここは彼の意思を尊重しよう。
「黒川、カレーうどんのオーダーが入りました!」
黒川がカレーうどんを買いに行く。
「白石、一人で食べられますか?
私が食べさせてあげましょうか?」
「お嬢、嫌がらせがしたいのですか?
あんなに触るなと言ったのに……。消えてください」
……酷い。本当に心配しているのに。
「お嬢。白石君の事はしばらく放っておいてやれ。
そろそろ帰る時間だ。最後に一つだけ、お前の乗りたいものに俺が付き合ってやろう」
「でも……、白石が……」
「白石君は青田君が見ているから大丈夫だ。
そうそう、白石君。土産物売り場でTシャツを買って来たから、後で着替えるといい」
「黒川君、ありがとうございます」
「白石、ごめんね」
「……」
白石……、返事すらしてくれない。
相当怒っているようだ。
黒川がスタスタと歩き出したので、私は黒川から離れないよう、小走りで後を追った。
「お嬢、何に乗りたいんだ」
私は黙って遊園地の中で一番高い乗り物を指差した。
「観覧車か……」
黒川が懐かしそうに観覧車を見上げる。
観覧車に乗り込むと、地上からゆっくりと離れていく。
年季の入った観覧車がギシギシと音を立てるたび、少し不安になる。
「黒川。この観覧車、落ちないかな……」
「ハハハ。この高さから落ちたら即死だから安心しろ」
「安心できるかー!」
「フッ……」
黒川が外の景色を見ながら静かに笑った。
私も窓の外を眺める。
「観覧車って……。
高い所からの景色を楽しむ乗り物ではなくて、落ちたらどうしようか考える乗り物だったのですね」
「そんな事を考えながら乗っている奴は、お前ぐらいだと思うが」
「白石……。まだ怒っているかな……」
「お前、怒らせるのが上手いよな」
「怒らせようと思って怒らせているわけではありませんよ。
誰かを怒らせてしまった時は、いつも後悔しています」
「白石君が本気で怒っていたのなら、城の中でお前を置き去りにして出てきただろう。
面倒なお前をわざわざ外まで連れ出してくれたのだから、素直に礼だけ言っておけば良いのではないか?」
「……」
「あんなに楽しそうにしている白石君を見たのは初めてだけどな」
「楽しそう?」
黒川がにっこり笑ったところで観覧車はもとの位置に戻ってきた。
観覧車を降りると、下で皆が集まっていた。
「お嬢、楽しかったね。遊園地」
「う、うん。そうだね、桃。
し、白石。今日は付き合ってくれて、ありがとう」
「……仕方ないですね。
もう金輪際、お嬢の面倒は見ませんからね」
「あ……、はい」
白石は、私がビリビリに引き裂いてしまったシャツを脱いで、黒川が買ったTシャツに着替えていた。
この遊園地のキャラクターらしきファンシーなウサギがでかでかとプリントされた濃いピンク色のTシャツ……。
黒川、何故これを選んでしまったのか。
白石、どんな心境で、このTシャツを着てしまったのか……。




