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閑話(白石の過去)その6


その日、母は亡くなった。


シロツメクサは赤茶色に変色し、洋服に染み込んだ母の血液は、洗っても洗っても落ちなかった。


母の遺品整理が行われた。


『遺品』といっても、着替えと母が病院で読んでいた一冊の小説ぐらいだった。


数年後、祖父も祖母もあっけなく他界した。


祖父と祖母がいなくなった時、お嬢の爺さんが現れて「屋敷に住まないか」と言われた。


俺は大嫌いな祖父母の家から出て行けることが嬉しくて、家の中の物を全て処分し、家を売り払って出ていった。


唯一屋敷に持ってきた物は、自分の着替えと母が読んでいた小説だった。


屋敷にはうるさく言う奴もいないので、ここで初めて母がどんな小説を読んでいたのかを見てみることにした。


小説はオムニバス形式になっていて、全て『花』がテーマになっていた。


パラパラと捲ると、同じページに四つ葉のクローバーが沢山挟まっていた。


そのページは題名が『シロツメクサ』だった。



ある日、若いカップルがシロツメクサの花に誓って『永遠の愛』を約束する。

シロツメクサの花言葉は『幸運・約束・私を思って』

ところが男は彼女を裏切って、別の女と結婚してしまう。

彼女はシロツメクサの畑の中で男を殺す。


シロツメクサのもう一つの花言葉は『復讐』。


他の花言葉が叶わなかった時に『復讐』が果たされる。



「圭ちゃん、約束よ」

「圭ちゃん、おばあちゃんにしおりを渡して」

「圭ちゃん、約束が守れなくてごめんね」



優しかった母の言葉が甦り、急に恐ろしくなった。




俺は何をしていたのだろうか。


母に『病院に相応しくない花』を送り付け、祖母に『復讐』が花言葉のシロツメクサを渡した。


母は、祖母は、あの時何を思っていたのだろう。


お互いに憎しみと憎悪が渦巻いていたのだろうか。




それから俺は、俺の手に付いた母の血は、とっくに消えているはずなのに、自分の手の皮が剥けるまで、毎日洗うようになっていた。


病院で『強迫性障害』と診断された。


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