終
神殿の本殿内陣には大きな玉座があった。
玉座の上には、周りよりも濃い闇が漂っている。
ロジーナは玉座の前まで進むと、跪き、正式な拝礼を行った。
闇が凝縮し密度を増したかと思うと、パッとはじけた。
闇は銀色の光を纏った闇色の瞳を持つ男性に姿を変えていた。
男性――ウィドゥセイト神はゆっくりと天井を見上げる。
ロジーナも天井を見上げた。
そこには満天の星空があった。
ウィドゥセイト神はひときわ大きく輝く星――月を指す。
「そなたに与えよう」
ロジーナは返事をするように深々と頭を下げた。
ロジーナが顔をあげると、ウィドゥセイト神は促すように視線を動かす。
その先に佇む男性の姿にロジーナの瞳の奥が仄かに揺れた。
クレメンスはロジーナの前に進むと、正式な拝礼を行った。
拝礼を見届けると、ロジーナはおもむろに口を開いた。
「そなたを我が眷属とする」
ロジーナはクレメンスに手を差し出す。
クレメンスは押し戴くようにしてから、手の甲に口付けをする。
「契約は成立した。これより、そなたはわたくしの一部。そなたは永遠にわたくしのもの」
クレメンスは立ち上がると、おだやかに微笑んだ。
二人の視線が交わる。
ロジーナの中に微かに残っていた人間の感情が揺れ動く。
ロジーナはクレメンスの胸に飛び込む。
クレメンスはロジーナを優しく抱きしめた。
*****
二つに束ねた赤い髪を揺らしながら、少女が夜空を見上げ指さす。
「お母さま」
少女の指の先に銀色の月が輝いていた。
「きれいなお月さまね」
振り向いた少女に、母親はニッコリと微笑む。
「月には女神様がいらっしゃるのよ」
母親はかがんで、少女と目線を合わせる。
「女神様?」
少女の大きな目がキラキラと輝く。
「そうよ。きれいな黒髪の女神様がいらっしゃるの。私たち魔術師を守ってくださっているのよ」
母娘は再び空を見上げる。
月は静かに夜空を照らしていた。




