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神殿
ロジーナは神殿の前に降り立った。
神殿の扉がゆっくりと開く。
内部から、凍てつくような風と闇が流れてきた。
ロジーナの豊かで艶やかな黒髪がふわっとなびく。
人影が見えた。
フィオナ――ロジーナの母親だ。
フィオナはニッコリ笑うと、ロジーナに跪き拝礼を行った。
ロジーナは口元を緩める。
フィオナは立ち上がると、ロジーナを神殿の奥へと先導した。
神殿の中には薄い闇が漂っていた。
穏やかな静けさの中を、二人の衣擦れの音が響く。
ロジーナは一足ごとに、昔、本来の姿に戻った時に感じた感覚を取り戻していった。
人間では、決して感じることのできない、研ぎ澄まされた感覚。
世界の全てが認識できる感覚。
懐かしくもあり、悲しくもあった。
永年慣れ親しんできた人間の感覚を手放すことは、過去を手放すような気分だった。
何かを失うということは、辛く寂しい。
まるで心の奥の開いた小さな穴に冷たい風が流れ込み、ヒューっと笛が鳴くような音が聞こえてきそうだった。
ロジーナは立ち止まり、目をつぶった。
分かっていたことだ。
承知していたことだ。
まだ人間の部分が残っているからこその喪失感だ。
そのうちに、この感覚自体が消えるはず。
立ち止ってはいけない。
前に進まなくてはならない。
ロジーナは大きく息を吸うと、目を開き、再びゆっくりと歩きはじめた。




