結婚
クレメンスは村の外れにある墓地にロジーナを誘った。
墓地は祭りの喧騒がうそであるかように静まり返ってる。
まるで別世界のようだった。
ロジーナは、なぜクレメンスがこのような所に自分を連れてきたのか、よくわからなかった。
しかし、今はそんなことはどうでもよかった。
こうしてクレメンスの隣にいられる。
それだけで嬉しかった。
それだけが重要なことだった。
後のことはどうでもよかった。
クレメンスは墓地の入口に着くと仮面を外した。
ロジーナを見て微笑む。
その優しい瞳に、ロジーナは何も考えられなくなってしまった。
クレメンスはロジーナの仮面もとってやる。
ロジーナはなかば夢うつつで、うっとりとした表情でクレメンスにみとれていた。
クレメンスはロジーナの手をとると、ぎゅっと握り、墓地の中へと入って行った。
ロジーナは手のぬくもりに顔を赤らめながら後に続いた。
墓地の中央にはウィドゥセイト神を祀った社がある。
クレメンスは社の前まで来ると立ち止った。
クレメンスはウィドゥセイト神の前で誓いを立ててくれるつもりなのだ。
ロジーナはなんとなくそう思った。
自分を正式に妻にしてくれる。
喜びで胸がいっぱいになった。
結婚の誓いは、光の神ソヨムーデムか豊穣の神トルキロケの前で行うのが一般的だ。
なぜ冥界の王ウィドゥセイト神なのか、ロジーナにはよくわからなかった。
しかし、なぜかそれが至極もっともなことだと思われた。
ゆっくりと振り向いたクレメンスに、ロジーナは頬を染めながら深く頷く。
クレメンスも微笑みながら頷くと、ロジーナの手を離し、厳かな面持ちで社に向きなおった。
二人は社の中に入った。
社の中は真っ暗で、ひんやりとした空気が漂っていた。
クレメンスは蝋燭に火をつけた。
ウィドゥセイト神像が闇の中に浮かびあがった。
二人は両膝をつき、正式な拝礼を行うと、神を讃える祝詞をあげる。
蝋燭の炎が大きく揺れたかと思うと、ふっと消えた。
辺りは真の闇に包まれた。
ロジーナは驚き戸惑ったが、クレメンスは気にせずに続けていた。
その様子を見てロジーナも落ち着きを取り戻し、再び唱え出す。
神を讃える祝詞が終わり、再び深く拝礼する。
辺りをうっすらと銀色の淡い光が漂っている。
そのまま結婚の祝詞にはいる。
光は徐々に密度を増し、二人を包み込む。
神が祝福している。
ロジーナはそう感じた。
神の気配を感じる。
ひんやりと冷たいなかに、なぜだかとても懐かしくて心地良い、魔力よりももっと澄んだ力を感じる。
クレメンスが誓詞と自分の名を述べ、ロジーナも自分の名を言った。
パシッと弾けるように輝き、次の瞬間、辺りは闇に包まれた。
聴き届けられた。
そう確信した。
ロジーナは今度は動揺せずに、神を讃えながら、深く拝礼した。
儀式が終わると二人は立ち上がり、向き合った。
社の中は真の闇に包まれていたが、なぜかお互いの姿ははっきりとわかった。
クレメンスは右手でロジーナの頬を優しく包み込むように撫でてから上向かせた。
ロジーナはうっとりと瞼を閉じる。
クレメンスはロジーナの唇に、そっと唇を重ねた。
唇を離すとロジーナの身体を抱き寄せる。
ゆっくりと目を開けたロジーナのすぐ近くに、クレメンスの情熱に染まった瞳があった。
熱い瞳が絡み合う。
クレメンスはロジーナにふっと笑いかける。
「ロジーナ、私の心はお前の虜だ。愛している」
ロジーナはすがりつくようにクレメンスの背中に腕をまわす。
「好き。大好き。愛し……」
言いかけたロジーナの唇をクレメンスが強引に奪う。
情熱的な口づけに、ロジーナの頭の中は真っ白にはじけた。
「ロジーナ。もう決して離さない」
クレメンスは、ロジーナを強く抱きしめながら、耳元で囁いた。




