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隣の彼女は異世界の妻でした  作者: 佐々木勇二


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ヴェルナーの最後

マザーブレインの部屋で、光が消えていった。 柊と澪は床に座り込んでいた。手は、まだ繋がっていた。

「……終わったのか」柊が言った。 「終わりました」

ヴェルナーの声がした。振り返った。 ヴェルナーが扉の前に立っていた。いつものスーツ。いつもの微笑み。 でも、その輪郭が、少しだけ薄くなっていた。

「ヴェルナーさん」澪が立ち上がった。「大丈夫ですか」 「ええ」ヴェルナーが言った。「予定通りです」

柊も立った。

「消えるのか」 「はい」ヴェルナーは穏やかに言った。「要塞のエネルギーが尽きれば、私も消えます。それとともに、エージェントの皆さんは現世へ帰ります」 「止められないのか」 「止める必要はありません」

ヴェルナーは二人を見た。

「あなたたちは、本当によくやってくれました」 「褒めないでください」澪が言った。「いけにえにしておいて」 「……そうですね」

ヴェルナーは頷いた。

「弁解はしません」少し間があった。「私は、家族を失いました」

柊と澪は黙って聞いた。

「守れなかったんです。それが全ての始まりでした」 「だから、管理しようとした」澪が言った。 「はい。壊れた人格でも、繋ぎ止めていれば、いつか戻れると思っていました」 「箱の男は」 「同じ痛みから、別の道を選びました」ヴェルナーは言った。「どちらが正しかったのかは、今もわかりません」 「正しくなかったと思います」

澪が言った。ヴェルナーが澪を見た。

「あなたたちは、管理でも再編でもなく、揃わないまま一緒に進んだ。それが答えでした。私には、できなかった答えが」

輪郭が、もう少し薄くなった。

「ヴェルナーさん」柊が言った。 「なんですか」 「あんた、いい人だったのか悪い人だったのか、最後までわからなかったな」

ヴェルナーは少しだけ笑った。今夜だけは、掴みどころのない笑みではなかった。

「……私もわかりません」 「そうか」 「でも」ヴェルナーは言った。「あなたたちに出会えてよかった」

光が、薄れていった。

「それだけは、確かです」

最後に、微笑みだけが残った。 それも、消えた。

部屋に、二人だけが残った。 柊は、ヴェルナーが立っていた場所を見ていた。何もなかった。

「……行ったな」 「ええ」

澪も同じ場所を見ていた。しばらく、誰も動かなかった。それから、澪が言った。

「帰りましょう」 「ああ」

二人は手を繋いだまま、扉へ向かった。


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