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ようこそ、最前線の地獄(職場)へ。 私、リナ8歳です ~軍師は囁き、世界は躍りだす~  作者: 輝夜
第十一章:『一年という名の礎』

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閑話:『帝都の熱と、北の茶飲み友達』

 

 聖リリアン孤児院。

 秋の深まりと共に冷え込み始めたこの時期、木枯らしが古い窓枠をガタガタと揺らしていた。


 医務室のベッドで、一人の少年が顔を真っ赤にして息を荒げていた。

 リナの弟分、トムだ。

 彼は額に冷たいタオルを乗せられながらも、シスターたちの目を盗んでベッドから起き上がろうと、ふらふらと身をよじっていた。


「こら、トム! 寝ていなさいって言ったでしょう!」

 アンナが、舌足らずな声で怒りながら、小さな両手で必死に彼をベッドに押し戻そうとする。

「アンナが心配してるのにぃ!」


「へ、へーきだよ! こ、これくらいで寝てるようじゃ……! リナねーちゃんに笑われる!」

 トムは強がって見せるが、顔色は赤くなったり青くなったりと目まぐるしく変わり、声はヒューヒューと掠れている。明らかに、よたよたで限界を超えていた。

「俺は将来、立派な騎士になって、リナねーちゃんを守るんだ……! 風邪なんかで……ごほっ、ごほっ!」


 激しい咳き込みに、彼はついに力尽きて毛布の上にへたり込んだ。


「もう……! 強がらないの!」

 アンナが涙目で怒る中、静かに歩み寄ってきたシスターのカリンが、トムの熱い体を優しく抱きとめた。

「トム。……しんどい時は、休んで良いのですよ」

 カリンの手が、熱を持つトムの背中を一定のリズムでトントンと優しく叩く。その温もりに、トムの強張っていた身体からふっと力が抜け、呼吸が少しだけ落ち着いた。


「……カリン先生」

 トムは、潤んだ瞳でカリンを見上げた。

「……リナねーちゃんも、体調悪い時は、ちゃんと休んでるかなぁ……?」


 その問いに、カリンは一瞬だけ言葉に詰まったが、すぐに微笑んでみせた。

「ええ。あの子はとてもしっかりしているから、ちゃんと休んでますわ。……だからトムも、キチンと休んで、早く治しましょうね」


「……うん」

 安心したように、トムは目を閉じ、やがて規則正しい寝息を立て始めた。アンナもほっと胸を撫で下ろし、毛布を掛け直す。


 だが、子供たちを寝かしつけた後。

 医務室の入り口で見守っていたアガサ院長の顔からは、いつもの柔らかな微笑みが消え、深い憂いが顔を出していた。カリンもまた、心配そうにアガサを見つめ返す。


(……あの子が、ちゃんと休んでいるわけがない)

 アガサは、窓の外の遠い北の空を見つめた。

 リナの性格を誰よりも知っているのは彼女だ。あの小さな娘は、責任感が強すぎる。きっと今頃、目を回しながらでも、フラフラの足で無理をして、誰かのために自分の命を削るように頑張っているに違いない。


(……周りの方々が、あの子をキチンと休ませてくださっていれば良いのだけれど……)

 アガサは胸の前で手を組み、愛しい娘の無事を祈るように、静かに目を閉じた。


 ◇◆◇


 その頃。北壁の砦、あるいはその近郊の『道の駅』。


「……うーん、ここをこうすれば、物流の効率が……でも、そうするとこっちの予算が……あー、もうダメ、頭がパンクする……!」


 私は作戦室の机に突っ伏し、紙の山に埋もれながら、ウンウンと唸っていた。

 連日の極度の緊張と、終わりの見えない知略戦。さすがに八歳の脳みそはオーバーヒートを起こしかけ、視界がグルグルと回り始めていた。


 ◇◆◇


「…………ナ、リナ様……」

「……リナ様、そこまでにいたしましょう」


 ふわりと。

 い草の香りと、どこか懐かしい温かい空気が、私の頬を撫でた。


「……はにゃ?」

 私が重い瞼をぱちりと開けると、そこは作戦室の冷たい石壁の中ではなかった。

 柔らかな陽光が障子越しに差し込む、和風の『茶室』のど真ん中だった。


(あ、あれ? 私、いつの間にここに……?)

 状況が全く飲み込めない。

 私は、軍師としての豪奢なマントも仮面も無く、だるだるのゆったりした可愛らしい部屋着姿で、座布団の上で、だらけたワンコの様な格好で横たわっていた。

 傍らには、完璧な所作でお茶を点てるセラさんの姿がある。


「よく眠っておられましたよ。そのまま、こちらへお運びいたしました」

 セラさんは、氷のような副官の顔を完全に捨て去り、まるで聖母のように優しく微笑んだ。

「……作戦室から、ここまで?」

「ええ。ヴォルフラムが、とても慎重に抱き抱えて」


 私は、自分が限界を迎えていたこと、そして、この過保護すぎる側近たちが、私を物理的に強制シャットダウンさせ、この癒やしの空間へと拉致(?)してきたことを悟った。


「さあ、リナ様。クララが新しいお茶菓子を作りました。今日は頭を使わず、ただ甘いものを召し上がってください」

 スッ、と私の目の前に差し出されたのは、美しい桜色をした練り切りの和菓子もどきと、温かい抹茶。


 私は、自分のだらしない格好を直す気力すら湧かず、そのまま寝転がった姿勢で、セラさんが差し出してくれた和菓子を、あむっ、と口に入れた。


「んんっ……!」

 上品な甘さが、疲労困憊の脳髄に直接染み渡っていく。


「……セラさーん。美味しいね〜……」

 私の口から、軍師の威厳の欠片もない、へにゃへにゃに溶けた声が漏れた。


「ええ、とても。……ゆっくり、お休みくださいませ」

 セラさんは、私の乱れた亜麻色の髪を、愛おしそうに優しく撫でた。


 遠く帝都でアガサやカリンが心配している「目を回しながら無理をしている少女」は、北の果てで、最強の側近たちによって物理的に仕事を取り上げられ、最高級の「和」の空間で、全力で甘やかされ、ダメ人間にされかかっていた。


 障子越しに聞こえる建設の槌音を子守唄に、私は再び、甘い微睡みの中へと落ちていくのだった。


風邪?が、しんどいのてす。

ごめんなさい。脳が休養を求めて、求められるがまま描いてみたらこんな話に…

休養の大切さを痛感して、反省してみました。


……反省、どこやった。そして、休養の大切さとは?…甘物クッキーは、おいしく頂きました。


@この体調で本流を描くと、大きな見落としをしてしまいそうで…。

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― 新着の感想 ―
美しい桜を眺め、団子を頬張り、春を感じ ゆっくりなさって下さい。 茶室最高! いつもありがとうございます。
 日本酒代わりに96度ぐらいのウォッカを入れた卵粥を置いていきますね。
更新お疲れ様です。 一瞬、トムが瀕死とか悪い考えが・・・・ まあリナが軍師になってからは充実した環境になっているのでしょうが、それ以前なら悪くすれば風邪から肺炎で亡くなった子も居そうです(><) …
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