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ようこそ最前線の地獄(職場)へ。 軍師リナ、8歳です  作者: 輝夜
第十一章:『一年という名の礎』

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夢話:『星降る夜の初詣』

 

 音もなく降り積もる雪が、北壁の砦を白く染めてゆく夜だった。

 部屋では深紅の炎が薪を喰らい、ぱち、と甲高い音を立てている。壁に掛けた武具の影が、まるで生きているかのように大きく揺らめいた。


 私はその揺らめきをぼんやりと見つめながら、吐息まじりの言葉を漏らす。

「私の故郷では今頃、新しい年を迎える祝いで一番賑やかな夜なんですけどね……」


 その言葉が、凍てついた時の歯車に触れたかのように。

 視界の全てが白く焼き切れ、何もかもが光の奔流に飲み込まれていった。


 次に目を開けた時、暖炉の燻る匂いは消えていた。

 代わって甘く香ばしい醤油の香りと、数えきれない人々の喧騒が肌を撫でる。

 目の前には、夜の闇を切り裂くように巨大な朱塗りの門。無数の提灯が、まるで天の川のように道を照らし出していた。


 自分の姿に、息を呑む。

 堅苦しい軍服は消え、闇夜に桜の花が舞う華やかな振袖をまとっていた。

 隣を見れば、セラは気品のある藤色の訪問着を、ヴォルフラムは背筋の伸びた凛々しい袴姿を、そしてグレイグ中将は、その巨躯に風格のある紋付袴をまとっている。


「……何が」

「これは、一体……」


 呆然と呟く三人の横で、私は歓喜に打ち震えていた。

「うそ……ここ、日本!? しかも、初詣!」


 ◇◆◇


 私の袖を掴むセラが、不安げにきょろきょろと周囲を見回す。

「リナ様、この甘く香ばしい匂いは一体……? まあ、綿を雲のように固めたお菓子ですの?」

 ベビーカステラの屋台から漂う匂いに小さく鼻をひくつかせ、ガラスケースの中の綿あめに目を輝かせる。いつもの完璧な顔はどこへやら、その姿は好奇心に満ちた無邪気な少女そのものだ。


「なんと奇妙な……防寒具にしては、機能美に欠けるな」

 ヴォルフラムは、ダウンジャケットを着込んだ人々を値踏みするように見つめ、眉間に深い皺を刻んでいる。私に近づく人影があるたび、その視線は剃刀のように鋭さを増した。


 ひときわ大きな人だかりの中心には、グレイグ中将がいた。

「おお! あの丸いものを鉄板で焼いておるぞ!」「あの紐を引けば景品がもらえるのか!」

 巨体と和装は異様なほど目立ち、スマホを向けられていることにも気づかず、たこ焼きの屋台に釘付けだ。

「どれ、一つ」と買ったばかりのそれを、豪快にも一口で頬張った瞬間。中将の動きがぴたりと止まった。

 大きく見開かれた目から涙が滲み、口から勢いよく湯気が噴き出す。

「ぐぉっ! こ、これは…あ、あふぃ!?」

 その姿に、周囲からどっと笑いが起こった。


 喧騒の中、私にぶつかりそうになった若者の肩を、ヴォルフラムの手が音もなく掴んだ。無言のまま放たれる殺気に、若者の顔が凍りつく。

「ご、ごめんなさい! この人、ちょっと人見知りで!」

 私が慌てて頭を下げると、ヴォルフラムは不満げに鼻を鳴らし、そっと手を離した。


 ひんやりとした長い石段を、一歩ずつ踏みしめて登る。

「真ん中は神様の通り道ですから、私たちは端を歩きましょうね」

 小声で教えると、三人は神妙な顔つきで頷き、石畳の端を静かに進んだ。


 手水舎に着くと、グレイグ中将が柄杓の水を豪快に飲もうとし、私の悲鳴に近い声に動きを止める。

「違います! これは身を清めるための水です!」

 私の手本に倣い、左手、右手、口をすすぎ、最後に柄杓の柄を洗い流す。凍えるほどに冷たい水が肌を清めると、三人の表情から浮ついた空気が消え、神聖な儀式に臨む者の顔つきに変わっていった。


 長い行列の末、ようやく辿り着いた拝殿の前。

 賽銭箱にそっと硬貨を投げ入れ、囁いた。

「二拝二拍手一拝、ですよ」

 鈴の音が厳かに響く中、四人はそれぞれの想いを胸に、深く頭を下げる。


(みんなが幸せでありますように。そして、私がこの世界で為すべきことを成し遂げられますように……)

(リナ様の心労が、少しでも和らぎますように……)

(いかなる脅威からもリナ様を守り抜く力を……)

(帝国の武運長久と、あの甘い菓子が皆と頂けますように!)


 お参りを終え、私たちは運試しにおみくじを引くことにした。

 しゃらしゃらと乾いた音を立てて筒を振る。小さな木の棒が、からりと穴から顔を出した。


『大吉』――私の手の中には、幸先の良い文字が躍っていた。『願望:思うままになる。驕らぬこと』という言葉に、自然と背筋が伸びる。

『吉』――セラは『待ち人:便りあり』の文字に、安堵の微笑みを浮かべた。

『末吉』――ヴォルフラムは『争い事:控えるが吉』と書かれた紙を睨みつけ、「むぅ……」と唸っている。

 そして、グレイグ中将は。

「がっはっは! 凶か! 逆に良いわい! これ以上悪くなることはないという証拠だからな!」

 そう言って豪快に笑い飛ばすと、おみくじを力強く枝に結びつけた。


 帰り道、参道を照らす提灯の灯りが、来た時よりもずっと暖かく心に沁みるように感じられた。

 張り詰めていたヴォルフラムの肩から力が抜け、セラは夢見るような瞳で光の列を見送っている。グレイグ中将は「あの光る果実の飴(りんご飴)も試したかったのう」と、まるで子供のように唇を尖らせた。

 皆の穏やかな顔を見て、私の胸に温かいものが込み上げてくる。

「不思議な夜でしたけど、楽しかったですね」


 私がそう微笑んだ、その瞬間。

 朱塗りの鳥居をくぐり、再び世界が白い光に包まれた。


 気づけば、そこはいつもの自室だった。暖炉の炎が静かに揺れ、服装も元に戻っている。

 まるで束の間の幻。

 そう思いかけた時、掌に微かな感触を覚えた。

 固く握りしめていたのは、一枚の和紙。

 そこには、見慣れぬ国の文字で、しかしはっきりと記されていた。


『大吉』、と。


 不思議な一夜の確かな証を胸に、私は静かに微笑む。

 暖炉の炎が、まるで祝福するかのように、一度だけ大きく揺らめいた。


あけましておめでとうございます!

本年も、どうぞ、よろしくお願いいたします!

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あとがき集、更新しました♪(あとがきは、別途進行中です。今更ですが(笑))

【あとがき集】天翼の軍師様は作者に物申したいようです

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― 新着の感想 ―
あけましておめでとうございます。 新年早々の更新ありがとうございます。今年も楽しみに読ませていただきます!
 あけましておめでとうございます、今年も楽しい作品をお書きくださることを期待しております。  さて、もし現代日本の年始にリナ達がやってきたら。といった感じの内容ですね。リナの初夢かな。セラさんの意外(…
 輝夜さん、こんにちは。 「ようこそ、最前線の地獄(職場)へ。 私、リナ8歳です 夢話:『星降る夜の初詣』」拝読致しました。  リナの故郷では、初詣の時期。  そうか、カレンダーが一緒か、あるいは別…
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