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緋竜の試練

『汝に問う、その傍らにいる獣は汝にとってどのような存在か?』

「……は?」


 何この質問。

 傍らにいる獣とは要するにリシアとクロエのことなのだろう。

 ご丁寧にモニターに白狼と黒猫をデフォルメしたようなキャラが表示されてるし。

 …………。


「なぁこれ、別に誰が答えてもいいんだよな?」

「ヨルちゃんから資格があるみたいな話をされたのはレストさんだし、質問内容からして他にいないんじゃない?」


 ですよね……しかしこの質問にこの場で馬鹿正直に答えるのは抵抗しかない。なので、


「えっと、二人は大切な仲間──」


 嘘ではないラインでお茶を濁すべく、そう答えようとしたのだが、


「…………」

「仲間、ねぇ?」


 瞬間、両隣から強烈なプレッシャーが放たれる。

 無言で腕に抱き付いてくるリシア。

 不満げな発言と共に寄り掛かってくるクロエ。

 どうやら解答の正否を決めるのは謎の声だけではないらしい……。


「──にして、俺の最愛の嫁です!」

「きゃー!」

『おー!』

「後ろの二人、うっさい!」


 俺の答えを聞いて囃し立ててくる傍観者共、それと両隣から伝わってくる満足気な雰囲気が居心地の悪さを加速させる。

 羞恥プレイかな?

 せめてイロハとコトノハがこの場にいなければまだ傷は浅かったのに!

 俺のそんな嘆きなど斟酌することなく、淡々と謎の声は続ける。


『汝に問う、その「最愛の嫁」である獣らを犠牲とせねば世界を救えぬとしたら、汝はどうする?』


 復唱するのはやめろ。

 しかし今度は世界との二者択一ときたか……。


『これはあれですね。いわゆる究極の選択ってやつで──』

「世界は諦める」

『ノータイム!!』

「一切の迷いがなかったわねぇ……」

「いやまぁどっちを優先するかと言われたらな」


 世界のためにヒロインを犠牲にする類いのシナリオが嫌いな俺には悩む要素など一つも無かった。

 なんなら二人のどちらかを選べと言われた方が余程キツかったまである。


『さっきの恥じらいはなんだったんですか!?』

「最初の質問に玉虫色の答えを返そうとしてた人とは思えない男らしさだったわねぇ」

「おい」


 しかし言われてみればそうだな……。

 今の答えは意訳すれば、世界よりも二人が大事と答えたようなものだ。

 つまり、最愛の嫁と答えることより余程ハードルの高い発言だったと言える。


「レストは、世界より、私たちが大事……」

「まぁ当然よね! レストとしてはアタシたちがいなくなったら、世界を救えても無意味な訳だし?」

 

 ……まぁ二人は喜んでるみたいだし結果オーライだな!


『汝に問う、ただ殺すより余程困難なれど、魔獣を元に戻す術があるとする。汝はそれを選ぶか?』


 またよくわからない問いだな。これで一体何を量る気なのか。


「……そんな方法がもしあるなら、可能な限りそうすると思う」

「可能な限りって、具体的には?」

「自分や仲間が死ぬかも知れないって状況なら、そんな甘いことは言ってられんだろ?」


 リシアの疑問に対して率直に返す。


『レストさんって、優先順位がはっきりしてますよね』 

「まぁ割り切るタイプだからな」



 それからも心理テストのような意図の不明瞭な質問をいくつかされ、俺は請われるまま全てに答える。と、


『試練を越えし者よ。汝に力を授けん』


 俺の答えがお気に召したのか、謎の声がそう言うと、床からエレベーターがせり出してきた。

 それに乗り込みしばらく待つ。


「結局あの質問って何だったのかしら」

「わからん……力を授けんって言ってたし、このエレベーターが出てきた以上合格はしたんだろうけど、何をもって判定したのやら」

『あの、一つ気になることが』

「ん?」

『この施設に入ってからこっち、お二人はずっと人化した状態でしたよね?』

「ん、ツルツルした床は、歩きにくい」

「靴ってこういうとき便利よね、元の姿だと絶対に履きたくないけど」

『なのにどうしてあの謎の声には、お二人の本当の姿がわかったんでしょう……?』


 イロハが疑問を漏らした直後、目的の階についたのかエレベーターの扉が開く。と、


『警告。貴方のセキュリティクリアランスレベルではこの先への立ち入りは許可されていません。繰り返します、貴方の──』


 サイレンの音と共に機械的な音声が辺りに響き渡る。


「ちょっとレスト……これヤバイんじゃないの?」

「壁から何か出てくる、警戒して」


 リシアの言に従い辺りを見回すと、それなりに広い空間、その左右の壁から一定間隔で配置されているらしきロボットがわらわらと湧いてくるのが見えた。


『これ実はレストさんの解答が誤りだったってパターンなんじゃないですか!?』

「かもな」


 俺の答えはかなり利己的なものだったからな……その可能性は大いにあり得る。

 まぁそれにしたって力を授けんとか言っておいてこの仕打ちはあんまりだと思うが。


「イロハ、あの連中のデータはあるか?」

『えーと……ありました! どうやら軍用の警備型みたいです! 安価な量産機でスペック的にはそこまでではないので、単体相手であれば楽勝だと思いますが……』


 一体一体がメトロイドに出てくるEMMIのような化け物でないというのは朗報だが、このままでは数の暴力で蹂躙されることになるだろう。

 さてこの状況、どう切り抜けたものか。


 とりあえず目の前に迫る一体に爪による一撃を加えようとした瞬間、


「いやーすまないね、まさか軍用のグレイプニルの装着者がくるとは……完全に想定外だったよ。しかもドローンまで連れてるし」


 そんな言葉と共に白衣に眼鏡、ボサボサの髪に無精髭というどこに出しても恥ずかしくない研究者然とした男が奥から現れる。

 同時に警告音声が鳴り止み、こちらに殺到するロボットも停止した。


「あちらの手違いだったってことかしら……」

「らしいな」


 何はともあれ、危機は脱したらしい。


「色々と聞きたいこともあるだろうし、こちらとしても君らには是非事情を説明したいんだけど、ご同行願えるかな?」

「わかりました」


 白衣の男に案内され、しばらく歩くと小部屋についた。

 部屋の中央には台座があり、マスターソードよろしくな伝説感の漂う剣が刺さっている。


『力というのはこの剣のことですか?』

「いや、それはさっきの問いにこちらの求める答えを返せなかった者に与えるダミーだよ、イロハ君。まぁ噂が絶えないように、それなりには強化してあるけどね」

「噂……?」

「君たちがここを訪れたのは、魔剣の伝承を聞いたからじゃないのかい……?」

「いえ……ここには緋竜の薦めできたので」

「!! これはいよいよ期待出来るかも知れないな……」


 そんな発言と共に怪しい笑みを浮かべる白衣の男。


「ちょっとレスト……こいつ、ほんとに信用出来るの……?」


 それを見て秘匿通信で耳打ちしてくるクロエ。

 いやまぁ気持ちはわかる。ぶっちゃけ怪しさしかないし。しかし、


「俺たちをどうにかするつもりなら、姿を見せたり警備を止める必要も無いから、多分平気だと思う」


 それに仮に敵だとしても、可能な限り情報を引き出しておきたい。

 発言からしてこの男がイロハの時代の人間なのはほぼ確実だからな。

 明確に敵対している組織に対して優位に立つためには、多少のリスクは呑む必要があるだろう。


「こっちだよ」


 白衣の男はそう言って、魔剣とやらを素通りして壁に手をかざすと、音もなく壁が開き隠し通路が現れる。


 一体この先に何が待ち受けているのか。期待と不安がないまぜな中、先導する白衣の男に従い、俺たちは現れた通路に足を踏み入れる。



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