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激戦を終えて

 幸いなことに、緋竜が目覚めるのにそれほど時間はかからなかった。


 戦闘によるダメージが残っている上に魔獣化が解けたばかりであることを申し訳なく思いながらも、あまり悠長にしてはいられないので、手早く互いの自己紹介を済ませ、俺たちがここにきた目的と、この場に留まれない理由を簡単に伝える。


 そうしてわかったのは、この緋竜、名をヴェルガンといい、緋竜族の中でもかなりの強者であること。

 加えてとても友好的な性格をしており、俺たちが緋竜の里への案内を頼むと快く了承してくれ、「手負いの状態なれど魔獣如きに遅れはとらぬ故、安心されよ」と力強く宣言してくれた。

 口調も相まってとても頼もしい。

 が、ここで一つの問題が発覚する。それは──


「それにしても自分は何故、このようなところで手傷を負い気を失っていたのであろうか。異変を感じて里を出て少しした辺りからのことが何一つ思い出せぬのだが、レスト殿は何か存じておらんか?」


 この緋竜、どうやら魔獣化していた間の記憶がないらしい。


 こちらにはやましいことなど何も無いので正直に打ち明けても特に問題はないとは思うのだが、武人気質なこの緋竜がシキさんのようなバトルジャンキーでないとも限らない。その場合、またしても余計な戦闘が発生する恐れがある。例えば、自身が万全な状態で再度戦ってほしい、といった具合に。


 そうした懸念によりしばし逡巡するも、やはり嘘をつく方が面倒になる可能性が高いと判断して、経緯を説明する。と、

 

「君たちには本当に迷惑をかけた……」


 そう言ってその巨体を小さくしながら、平身低頭といった感じでひたすら謝罪してきた。


「いえ、ヴェルガンさんに落ち度があったことではないですから……」


 遺跡がここに生成されたのもその影響により魔獣化したことも、緋竜族やヴェルガンさんの落ち度ではない。


 俺は気にしていない旨を必死に伝える。が、しかしそれでも気が済まないのかさらに謝罪を重ねられ、半ば押し問答となりかけたところで腕輪が震える。

 何事かと思ったら親父さんからの通信らしい。

 俺は皆に断りを入れて、少し離れた位置に移動すると、腕輪を自身から気持ち遠ざけてから通信を取る。


「親父さん、どうしました?」

「そろそろ緋竜の山についた頃かと思ってな」


 落ち着いた親父さんの声。どうやら今回は冷静であるらしく、鼓膜にダメージを与えられることはなかった。


「えぇ、何とか無事にたどり着けました」

「ふむ。それで、緋竜らに何が起きているかは掴めたか?」


 そう聞かれた俺は、遺跡が生成された影響で緋竜が魔獣化していたこと、恐らくそのせいで連絡がつかなかったこと、そして遺跡を破壊したことにより事態は概ね解決したであろうことを伝える。


「なるほど、後でイブキのやつに伝えておく。……しかしそれをお前たちが解決出来たというのは僥倖と言えよう」

「はい、大事に至らず良かったです」

「そうだな。何しろ奴らは義理堅い性分だ。金狐族に頼まれてのことではあるが、これで協力を取り付けるのが容易くなったはずだ」

「…………」


 なるほど、確かにそういう考え方もある。現にさっきまで、しきりに謝罪をされていた訳なので、恩に着せるのは容易いだろう。

 しかし──


「親父さんって、割と腹黒いですよね……」

「なっ!?」


 前々から思ってはいたが……親父さんといいリシアといい、基本直情的なのだが、要所で打算的になる傾向がある。

 その理由は恐らく……いや、それはいいか。

 

「まぁ協力してもらえると助かるのは確かですし、頼んではみますが」

「う、うむ。それがいいだろう」

「魔獣化している状態だったので普段がどの程度かはわかりませんが、相当に強かったので戦力としてはかなり期待出来そうですね」


 そう言ったところで、通信の向こうから息を飲む気配。


「レスト……ひとつ聞くが」

「はい」

「まさかとは思うが……緋竜と戦ったりはしておらんだろうな?」

「出来れば避けたかったんですが……そうもいかない状況になりまして、ついさっき、かろうじて倒したところですよ……」

「緋竜を、倒した!? いやそれもだがリシアは無事──でなければそのように落ち着き払っているはずはない、か」

「また危ない橋を渡る羽目にはなりましたが、全員無事ですよ」

「ならばよい。では引き続き、娘をよろしく頼むぞ」



 親父さんとの話を終えて皆の下へ戻る。と、コトノハとヴェルガンさんが何やら話をしていた。


「先程から気になっておったのだが……おまえはもしや、あのコトノハか?」

「気付くのが遅すぎじゃない? 名前を言っても反応がないから、てっきり完全に忘れられたかと思ったわよ」

「いやすまぬ、人化されるとどうしてもな。しかしおまえがきたとあれば、ヨルも──」

「あ、それなんだけど、驚かせてあげたいから、私がいることは伝えないでおいてもらえる?」

「ふむ、それは構わぬが……あれから随分と経つが、悪戯好きなところは一向に変わっておらぬようだな」


 どうやらコトノハとヴェルガンさんは旧知の仲らしい。

 恐らく以前シキさんと共に訪れた時に知り合ったのだろう。

 しかし、それならコトノハは顔見知りと戦う羽目になった、ということになる。

 話が一段落したところを見計らってコトノハに話しかける。


「コトノハ、ヴェルガンさんとは知り合いだったのか……それなら言ってくれれば──」

「そしたら私を戦闘に加えなかった?」

「それは……」


 残念ながら、先程の戦いにそんな余裕は無かった。コトノハが居なければ、恐らく緋竜が種族魔術を使ってくるまで持ちこたえられなかっただろう。


「ね? それに、言っても皆が戦いにくくなるだけでしょ? 戦闘では僅かな躊躇が命に関わるんだから、時には知らない方がいいこともあるものよ?」

「そう、だな……変な気を回したせいで余計に気を遣わせて悪い」

「いいのよ。気持ちは嬉しかったし、ね」


 そう言って微笑むコトノハに不覚ながら見とれていると、リシアが隣にやってきた。


「レスト、父さんはなんて?」

「あー、そろそろ山についたかの確認だった」


 それから小声で、緋竜に恩を着せて協力を取り付けるよう言われたことも伝える。


「流石父さん、抜け目がない」

「……絶対に側にいる友人のせいなんだよなぁ」

「?」


 小首をかしげるリシアに何でもないと告げる。と、さっきから無言を貫いていたクロエが突然、大きな声をあげる。


「さっき話に出てたヨルって、もしかして幼くして歴代緋竜族中、最高の魔力を持つと一時期話題になってたあのヨルだったりする!?」

「おぉ、クロエ殿は我が娘を存じておるか!」

「あっ……」


 クロエの発言に物凄い食い付きを見せるヴェルガンさんと、それを見て目を伏せるコトノハ。

 ……うん、大体察してしまったよね。


「娘の偉大さが黒猫族にまで伝わっているとは、いやぁ親としては鼻が高い! 娘が最初にその力を示したのは──」


 そこから始まった娘自慢トークを強制的に聞かせられながら、俺たちは緋竜の里へ向かうこととなった……。




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