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ノーキル&ノーアラート

『レストさん! 起きてください!!』


 イロハの呼ぶ声が聞こえる。

 しかし俺は昨夜、クロエに付き合わされて遅くまでゲームをしていたせいで猛烈に眠い。

 なので聞こえなかったことにして二度寝の体勢に──。


『ついに緋竜の山に到着しましたよ!』

「……!! マジか!」


 イロハのその発言で一瞬で目が覚めた。


『はい、ただ問題もありまして……』


 そう言ってイロハが投影した画面には、大小無数の光点が所狭しと浮かんでいた。


「これは?」

『ここら一帯の生体反応です』

「全部……?」

『全部ですね……』

「えっと……緋竜族の方々だったり」

『念のためコトノハさんに確認しましたが……』

「なら無害な生き物という線は──」


 俺のそんな一縷の望みは、


「普段なら無害なんだけどね……隠形で軽く偵察してきたけど、残念ながらほとんどが魔獣化してるみたい」


 横から会話に入ってきたコトノハによりあっさりと絶たれた。


「いやこの数はヤバすぎんだろ……」


 数えるのもバカらしい程なんだが。

 しかもこれで全部とは到底思えない。範囲外やサーチ漏れまで考慮すると魔獣の数はさらに増えるはずだ。


「どうするの? あんな大群、まともに相手してらんないわよ?」

「どうにかして、やり過ごすしかないと思う」


 コトノハに続いて馬車内に戻ってきたクロエとリシアが俺の両隣に座りながら言う。

 若干脳筋のきらいがある二人をしてこの感想な辺り、事態の深刻さを物語っている。


「緋竜が住んでるのは山の中腹辺りって話だったが、そこまでどうにかコトノハの隠形で……」

「無理。死んじゃう」


 ダメ元で提案しようとしたのだが、言い終わる前に抑揚の死んだ声音で拒否されてしまった……。


 緋竜の住み処であるこの山はここから見る限り、ピッケルが必要なレベルの断崖絶壁でこそないものの、山頂は霞がかって見えない程度には巨大な山だ。

 順調に進めたとしても中腹にたどり着くには最低でも半日程度はかかるだろう。となればコトノハが持たないのも無理はない。


「隠形と言えばイロハも真似事が出来るようになったって言ってたわよね?」

『可能は可能ですが……』


 そうクロエに水を向けられたイロハだが、反応が芳しくない。


「やっぱり長時間は厳しいのか?」

『いえ隠形と比べれば時間的な制約はそれほどでもないんですが、単純に精度で劣るんですよね』

「つまりそちらを頼ると最悪、気取られる恐れがある、と」

『感知能力が高いやつがいたらアウトですね。特に視覚や聴覚に依らない手段を用いる相手には確実にバレます』

「熱や音波みたいな場合か」

「隠形なら問題無いんだけどねぇ」

『その辺は技術的にも容量的にも厳しくてオミットするしかなかったんですよね……』


 どうやらナノエフェクトに落とし込むには重すぎたらしい。

 しかし片や完璧な隠密性だが短時間しか使えず、片や長時間使えるが隠密性はそれほどでもない、か。


「よしわかった」

「レスト、名案でも浮かんだ?」 

「そんないいもんじゃないが、一応な」



「なんていうか……本当に普通ね」

「いやそんな毎度都合よく画期的なアイデアなんて出てこないから」

「二人とも、ぼやいてないでちゃんと警戒して」

「ねぇイロハちゃん、何かゲーム貸してもらえる? コトノハ、退屈で寝ちゃいそうかも……」

『そんなことしたら私まで怒られるから却下ですよ! というかですね、いざというときはコトノハさんにかかってるんですから、本当に頼みますよ!?』


 俺の提案、それはコトノハを除く全員で周囲を警戒しつつイロハのステルスを使って移動し、もしこちらに気付いた魔獣がいたら即座にコトノハの隠形に切り替える、というシンプルなものだ。


 しかしその単純さが功を奏したのか、何度か魔獣に反応されるもその度にそれに気付いた誰かが素早くコトノハに指示を飛ばすことで交戦を避けることが出来た。


「やれやれ……何とか危険地帯は突破したか……」


 目視できる距離に魔獣がいなくなったことを確認して一息つく。

 と、リシアが何やら険しい雰囲気でこちらにやってくる。


「レスト、何か違和感がある」

「違和感?」


 俺は何も感じなかったが……。


「さっき私たちに気付いた魔獣、コトノハの隠形が発動するより早く、私たちから意識を外してた……気がする」

「ふむ」

「違和感と言えば魔獣化してたのもそうだけど、麓にあんなにいたのもおかしいのよねぇ」


 コトノハが背伸びをしながらそんなことを言う。


「そうなのか」

「魔獣って同種であっても群れたりしないのよ」

「コトノハの言う通り、大抵は単独行動」

「ほう」


 聞けば魔獣は元の生物がなんであっても魔獣化した瞬間、単独行動をとるようになるらしい。


 言われてみれば今まで出会った魔獣も全てそうだった。

 この前の蟻なんてよく考えたら群れている方が自然な訳で、この習性はこちらとしては大変ありがたい限りだが。


「あとさっきの集団にいた一部の魔獣は、もっと上の方を住み処にしていたと思うのよね」

 

 まぁ当時は魔獣化してなかったんだけど、とコトノハが言う。


「コトノハ、前にきたことあるんだ」

「昔に母様と、ね……」


 遠い目をしている辺り、単なる旅行ではなかったんだろうなと察する。


 それはともかく謎は深まるばかりだな……魔獣化に集団化、それに加えて住み処を離れていることやこちらを襲ってもこない件もある。


「何にせよ異常事態なのは間違いないだろうな」

「多分緋竜族が金狐族と連絡が途絶えた理由にも関わってるんじゃないかしら」

「私はてっきり、金狐族が何かやからしたのが原因じゃないかと疑ってたんだけど」

「わかる」

「種族単位で信用がない!?」


 と、そんな話をしていたら前方から少数の魔獣の集団が現れた。


「レスト、また魔獣がいるわよ! この程度の数ならやれると思うけど、どうする?」

『とりあえずステルスは起動しますよ』


 クロエとイロハの声を聞きながら数瞬、考える。


「……よし、とりあえずはさっきのようにコトノハ以外は各自周囲の警戒。で、今回はこちらに気付いた魔獣がいてもすぐには隠形を使わず様子を見よう」


 何事も一歩一歩着実に。差し当たってはリシアの感じた違和感──魔獣がこちらを無視するかどうか──の真偽を確かめるべく、俺は指示を飛ばした。




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