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影との邂逅

 里を出て半日、俺たちは緋竜の住み処を目指して森の中を歩いている。

 リシアとクロエは人気のない場所なので元の姿だ。そちらの方が歩きやすいらしい。

 特にクロエはそれほど人化に慣れていないので顕著だろう。

 街道などでは狼と猫を連れた人間なんて絶対に目立つので人化して貰うしかないが、今なら問題ない。いやイロハのせいでどのみち目立つことは避けられないけど……

 因みにこの森は鎮守の森とは違い普通の森なので腕輪の範囲外でも魔術を使えるし、イロハが調べたところ付近に遺跡も無かった。その為か魔獣もあまりいない。

 そんなことをつらつら考えているとクロエが不満そうな声をあげる。


「ねぇレスト……まだこの森は続く訳?」

「イブキさんに渡された地図ではそうなってるな」

「森は嫌なこと思い出すのよね……早く抜けたいわ」


 鎮守の森で死にかけた事を言っているのだろう。

 まぁトラウマになってても仕方ない。しかしそれはクロエだけという訳でもない。


「奇遇だな。俺もだよ」


 唐突に放り出されたのが森なら助けた獣にノータイムで攻撃された(しかも二回も)のも森だからな!!


「引っ掻いた事を思い出してる顔ね」

「なんだそのピンポイントな顔!?」

「噛みついた事を思い出してる顔でも、ある」

「その件は俺にも非があるし気にしてないから!!」


 恐るべき野生の勘を見た。てかリシアもさらっと混じってきた。


「その件はって事はアタシのは気にしてるんじゃない! 全く……あれは不可抗力だったって結論が出たでしょ」

「そっすね」


 そうぞんざいに答えるとクロエが唐突に手近な木を使って爪研ぎを始めた。

 クロエの こうげきが グーンと あがった!

 いや本来は攻撃と命中を一段階づつ……ってそんな事はどうでもいい。マジで重要なことじゃない。

 下らない思考を打ち切り即座に謝罪を入れる。

 あのときはひっかくで済んだが今のはきりさくがきそうだった。初代仕様の。

 クロエが嘆息しながら爪をしまう。


「でもまぁ……今こうしてるのはあの出逢いのお陰だから、そう思えば悪い思い出でもない、かも?」

「そうだな……」


 俺が間に合わなければ確実にクロエの命は無かったろうし、あの件が無ければ化身をすることもなく、当然こうして一緒に旅をすることも無かっただろう。

 そう考えれば運命的とも言えるし悪い思い出ではない。

 そんな風に若干いい雰囲気になっていると、リシアがとてもわざとらしい咳払いをしながら咎めてくる。


「二人とも無駄口叩いてないで、ちゃんと警戒して」

「うぃっす……」

「はーい……」


 君も無駄口に参加してましたよね? とは思っても言わない。

 長生きの秘訣は余計な発言をしないことにある。

 俺とクロエがそんな処世術の重要性を噛み締めていると、今まで沈黙を貫いていた物が口を開く。


『いやいやリシアさんも軽く混ざってましたよね!?』


 学習しないやっちゃなぁ。見ればクロエも呆れている。

 これはいつもの流れだな……合掌。


 しかしーー意外にもそうはならなかった。腕輪によりもたらされた情報のせいで。


「……! 腕輪に反応が……はぁ!? 何でこんな距離まで無反応だったんだよ!?」

 『まさか魔獣ですか!? こちらのレーダーには何も映ってませんよ!?』


 設定した範囲を考えれば本来ならもっと早く反応しているはずなのだが、何故か至近距離まで接近されている! ステルス能力持ちか!?


「……くる」

「きたわね」


 リシアとクロエが同時に告げた瞬間、そいつは現れた。

 黒を基調としたローブを羽織った優男。

 胡散臭いやつというのが俺の第一印象だった。

 その優男が張り付けたような笑みを浮かべながら慇懃な態度で話しかけてくる。内容は呆れるほど白々しかったが。


「おや? こんなところで人に会うなんて奇遇ですねぇ!」


 そう宣う目の前の存在はとても友好的な空気を放っている。

 一見人畜無害そうに見えるが正直なところ詐欺師やサイコパスお得意のそれにしか見えない。そしてこれはパーティの共通認識だったのだろう。

 それを証明するかのようにリシアとクロエは一切警戒を解く気配を見せず、魔術で話しかけてきた。


「レスト……こいつ、さっきまで何の臭いも感じなかった。明らかに、変」

「それにたった今まで全く気配が無かったわ。こんなのありえない。絶対に普通じゃないと思うわ」


 なるほど。獣視点での情報だけでも正直十分過ぎるまである。

 しかしこいつにはもっと分かりやすく異常な点がある。

 いくら魔獣が少ないとはいえこんな深い森に、荷物の一つもなくたった一人。さらに狼と猫に加え変な遺物まで連れた不審人物に対してまるで警戒心を見せないその態度。……自分で言ってて悲しくなるなこれ。

 まぁ荷物に関しては人のことを言えたものではないし、俺のようにナノエフェクトの恩恵(魔術では厳しいという話だし)である可能性も一応あるが。けどこれは確実に黒だろう。

 ……うん、もうめどいから切り込むか。


「アンタの目的はなんだ?」


 下らない小芝居に付き合う義理はないので言外に本題に入れと告げる。リシアとクロエは黙って成り行きを見守っている。


「ふむ、その反応はつけていたのがバレていましたかね? しかし驚いてたように感じたんですが……わかりませんね」


 衝撃の事実が明かされた。

 初耳だよバカヤロウ! 気付いたのはたった今だっつの!

 そこでトラブルメーカーの存在を思い出した俺はイロハに余計なことを言うなと目配せした後、動揺を悟られぬよう話を合わせる。


「そんなことはどうだっていい。何か話があったからこうして姿を晒したんじゃないのか?」 


 ハッタリだ。致命的なことを知られていないか、内心冷や汗をかきながら森での会話を思い返している。

 レーダーの存在が完全に裏目に出たなぁ……油断大敵としか言いようがない。少なくともリシアやクロエと意思の疎通が図れることは間違いなくバレているだろう。


「いえね……我々の邪魔をするあの巨大な狼。奴に連れられた人間が一体どういう存在なのか。それを見極めるため危険を犯して話しかけた次第でして。折よく別行動を取っているみたいですしね。しかし潜伏には自信があったんですがねぇ……」


 巨大な狼とは親父さんのことだろう。つまり俺が親父さんとどういう関係か知るのが主な目的ってことか?

 というか潜伏に関しては自信を持っていいと思う。完璧だったからな。

 だからこそ警戒されたのは皮肉としか言い様がないが。

 もっと雑だったり離れた位置で解いていればまた展開も違っただろうに。ってこれ要するに親父さんと合流してから今までの間ずっとつけられてたのかよ! かなり致命傷なのでは。


「……アンタは遺跡で返り討ちにあった連中の仲間か」

「えぇそうです。あ、それと僕の名前はシュラウドと申します。以後お見知り置きを」


 あっさり認めやがった……まぁいいけど。

 しかし余裕の態度を崩さないな。腕に相当な自信があるのか……? こっちは全く余裕がないのに腹立たしい。


「アンタが敵じゃないと判断出来たらそう呼ぶよ」

「つれないですねぇ……」

「名前よりも目的の方が気になるんでね」

「やれやれ……せっかちな人だ」


 肩を竦めてそう溢すシュラウドとかいう優男。

 一々芝居がかってるところが本当に胡散臭い。


「それにしても追跡していた部下から奴と人間である君が行動を共にしていると聞かされた時は驚きましたよ。もっともそいつも鎮守の森の影響とはいえ、追跡対象を見失ってしまうような間抜けでしたが……全滅した者達といい使えない部下ばかりで困ったものです」


 なんで俺はほぼ確実に敵だと思われる人間の愚痴を聞かされているんだ……

 というか森の影響ってのは一体……魔術が使えないことを言っているらしいが、あれは森に入らなければ問題ないはずだし里に向かう途中に鎮守の森には入っていない。


 そこで気付く。恐らく鎮守の森の影響と偽ってイブキさんが里の周りで魔術が使えないよう細工をしているであろうことに。

 自分等の存在を秘匿するための方便なのだろう……魔術で覗かれたりしたら最悪、村を大量の狐が闊歩しているとこを見られる訳だし。どうやら里の秘密もバレてないみたいだしこちらの手の内はあまり知られていないかも知れない。


 しかしお陰で助かったとはいえあの狐に一杯食わされてるのは同情するな……まぁこれを利用しない手はないけどな!


「それでレストさん、率直に聞かせて貰いますが、結局あの狼とはどんな関係で? それに奴は今どこに?」


 名乗った覚えはないんだが。名前くらいは知られてるに決まってるけど。そんなどうでもいい思考をしながら覚悟を決める。

 んじゃいっちょやりますかね……!

 

「俺は奴の気まぐれで飼われてた哀れな人間だよ。もっともそれはつい先日までの話だがな。アンタらのお陰で奴は死んだ。今は晴れて自由の身って訳だ」


 俺は清々したという雰囲気を出しながら吐き捨てるように言った。

 二匹と一体の愉快な反応を尻目に頭を回す。

 さて、出たとこ勝負になるが……それなりに口は立つ方だ。

 悪いが利用させてもらうぜ優男。役立つ情報の入手先にしてくれるわ。

 

 ……てかあんまり驚かないでね? ブラフがバレるから。



こっからどうなるんやろなー(ノープラン)

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