狂気の片鱗
「ふむ……それが行動を共にしていた理由ですか。しかし弱っていたとは言えそれは魔術が封じられただけの話。そんなものが無くとも埒外の強さを誇る奴が死んだというのは軽々には信じられません。一体どんな経緯でそのような事に?」
そう訝しむ優男は先程と全く変わらぬ笑みを浮かべている。
表情から何かを読み取るのは厳しそうだ……
そちらは一旦諦めて即席で作り上げた筋書きを淀みなく答えていく。
「俺はずっと奴を殺せる機会を窺っていた。しかし常に魔術で警戒と防御をされていたせいで打つ手が無かった」
「なるほど……魔術が使えないことを好機と見て寝首をかいた訳ですか。けれど貴方一人でそれを為し得たと言うのは些か荒唐無稽に過ぎる話です。こんなことをあまり言いたくはないのですが、何かそれを証明出来る物を見せて頂けませんか?」
まぁあっさり信じてはくれないわな。不意討ちしたところであんな存在を人間一人で討てるとは俺だって思えない。魔術を使える戦闘集団や魔獣相手に無双するような化け物だし……
あまりこちらの手札を晒したくは無いが……ここは切るべきところだろう。
「奴に飼われている間に特殊な術を施されてな。それがこの力だ」
俺は腕を変化させ手近な木を殴り付ける。
すると幹が中程から分断され上部が吹き飛び、盛大な音を立てて地面に突き刺さった。
一瞬の静寂。その場に居た全員が驚愕に身を竦ませる。
全員だ。例外はない。それが一体何を意味するか。
この事態を引き起こした当人にとっても想定外な現象だったという事実だ。
やだなにこれアタシ聞いてない。
いや抉れて倒れるだろうくらいの考えでやったんだよ……大した太さの木では無かったとはいえ、まさかこんな事になるとは完全に予想外だよ……
驚愕から立ち直った優男が僅かに動揺したように言う。
「……ふむ、そのような力をお持ちなら納得できます」
まぁいいか。結果オーライだな! リシアを手懐けて共謀した事にでもしようと考えていたがその必要は無さそうだ。
「信じてもらえて何より。それと迂闊な真似はしてくれるなよ? 俺は人間相手だろうと容赦するつもりはない」
「そんな化け物じみた力を見せつけられて安易に手を出すほど愚かではありませんよ」
よし……一応の安全も確保出来た、か? 今のが抑止力として機能してくれれば御の字なんだが……
「それと……質問ばかりで申し訳無いのですが、バラエティに富んだお連れの方々の事をお聞きしても?」
まぁそこにも当然切り込んでくるよな……しかしリシアやクロエとの関係を知られるのは不味い。となると気乗りしないがこうするしかないよな……
「こいつらは俺の下僕だよ。強いものに従う性分らしくてな」
すまん二人とも。これはハッタリだから怒らないでくれ……
心の中で謝りながら嘘を重ねる。
「奴を倒したせいでなつかれたと?」
「そんなところだ。この機械は遺跡で見つけて便利そうだったから連れてる。猫の方は森での拾い物だよ」
そんな説明をしながら念のため二人の様子を確認する。
まさか本気にしてはいまいし、このタイミングで切れて口を挟んでくるほどバカじゃないのは理解している。
とは言えやはり気になるので少しだけ意識を傾ける。
「下僕……そういうのも、悪くない。確かそんなヒロインの出てくるラノベやエロゲがいつかの記憶に……」
おいこら。今シリアスな場面なんだが? てか人の記憶をアーカイヴか何かみたいに検索しようとするのはよせ!!
「拾い物って……いやでもあながち間違いでも……それにしても下僕って、そんな趣味でもあるのかしら? ま、まぁ少しくらいなら? 興じてあげなくもないけどねっ?」
クローリエお前もか。この状況下で妄想に浸れるとか強者過ぎるだろこいつら……
一応イロハの方も確認する。しかしこっちは不気味なほどに大人しいもので一切身動きも見せない。偉いぞーそのままお利口にしてろよー。
「そういうことでしたか。いや根掘り葉掘り聞いてしまって申し訳無い」
「まぁ自分の組織に敵対する存在かどうかは把握しておきたいだろうし、こちらも敵意が無いことを伝えられて良かったよ」
これは完全に本心だ。特に後者に関しては運が良かったと言える。
最悪奇襲される可能性すらあったわけだし。
「そう言って頂けると助かります。しかし何とも拍子抜けな結末ですね……直接争う様な機会は滅多にありませんが、奴には散々手を焼かされた身としては複雑です」
「遺跡の件か」
「そうです。あれは貴重な資料の宝庫でして。今までに数え切れない程の遺跡が奴によって潰されてましてね」
何か聞いてもいないのに語り出した。こちらとしてはありがたいので聞き役に徹するが。
「邪魔物が消えて良かったな」
「えぇ、全く。これで組織の目的を阻むものは完全に無くなりました。万々歳ですね」
言葉とは裏腹に投げやり気味に言う優男。
なんだ? 実は戦闘狂で自分で倒したかったとか、か?
そんな疑問はおくびにも出さず別の事を聞く。
「……興味本意で悪いが、その目的ってのは部外者の俺が聞いても?」
「無論話せません。と、本来なら切って捨てるところなのですが組織の恩人である貴方にはお話しましょう。特別ですよ?」
ダメ元で聞いたらまさかの返答で正直驚く。
口の軽そうなタイプには見えないんだが……
「まぁ端的に言ってしまえば古代技術の復活とそれによる世界征服って感じですかね?」
「世界征服とはまた大きく出たな」
「子供じみてて笑えますよね」
「上役っぽいアンタが言うか……」
「これは痛いところを。しかし子供の戯言にしか聞こえない話ですが実現可能なのですよ……この魔獣を意のままに操る術があれば、ね」
そう言って優男が手をかざすと地中から巨大なワームのようなものが姿を表した。
驚愕に見舞われる俺たちを他所に優男は朗々と語り続ける。
「あらゆる生き物を魔獣に変え、そしてそれらを操ることが出来るということは既に実証済みです。後はそれを大規模に行うための装置さえ発見出来れば……」
「……」
悪の組織には守秘義務とか無いんですかね……
これ絶対部外者に話したらダメなやつでしょ。
しかし予想外にスケールがデカイ上に事態が逼迫してて笑えない。どうすんのこれ……
そして今更ながらに使命の意義を察した。そら獣側としたら遺物は壊せになるわ……
種族によるこの件に対するスタンスの違いは多分認識の差なんだろうな。嫌なところで人間にそっくりなのやめろ。
「……そこまで話して良かったのか? 俺が他言したりしない保証はないんだが」
「してみますか? 恐らく異界の迷い人の与太話と切って捨てられるだけでしょうね」
異世界に飛ばされて社会的信用の重要性を思い知る羽目になるとか嘘だろ……でも確かに身元不明な人間からそんな話されて信じる存在がいるとは思えない……
てか俺がこの世界の住人でないこともバレてんのね。
「確かに。けどもしかしたら、俺が邪魔をするかも知れない」
「えぇ、そうなればいいと思って話しました」
何か雲行きが怪しくなってきたんだが。
邪魔されたくて話した? 実は組織の裏切り者とかなの??
あ、いつの間にかリシアとクロエが警戒モードに戻ってる。
まるで俺を守るように前に……いやこれ実際守られてますね。
愛されてるありがたさと自身の無力さを噛み締めながら自分の警戒レベルも上げる。
さてこいつの真意は一体何なのか。
正直ろくな予感はしないし聞きたくないが……そんな訳にもいかないよな。
毒を食らわばと覚悟を決めて俺は口を開く。
「それはどういう意味か、聞かせてもらおうか」




