望まぬ再会
隠れ里での生活 5日目
朝、久し振りに皆で朝食を食べる。
俺に訓練の件がバレたので、早くに出掛ける必要が無くなったが故の変化だろう。
食べ終えるとリシアとクロエは訓練に向かい、俺とイロハだけが離れに残される。
少しして、俺も一緒について行って訓練に混ざれば良かったかと思い始めた辺りで、イブキさんの使いが離れにやってきた。
その狐が言うには、急な人間の来客があったので極力大人しくしていて欲しい。との事だった。
今その人間はイブキさんと話し合いをしているらしい。
それを聞いて少し考える。
この世界にきてロクに人間と関わっていないので、少しはどういうものか自身の目で見て、知っておくべきでは無いだろうか……。
白狼族と敵対している連中の件もある。
その旨を伝え、遠くから様子を見る許可を求める。
すると使いの狐はイブキさんに許可を取り、接触は控えるようにと念を押して去って行った。
言われずとも人間と直接話したりはしたくないので、観察以上のことはする気がない。
話を聞いていたイロハが『私も少し気になるのでお供します』と言ってきたので、二人でイブキさんと件の来客が話をしている部屋を覗きに行く事に。
因みに親父さんは、道場の地下に造られた私室に篭っているようだ。
まぁ見られたらただの村じゃ無いって、一発で露見するから仕方ないね。
襖の様なもの(ただし紙製ではない)を、ほんの少しだけ、音を立てないように開ける。
そこはいかにも来客の為のあしらえた部屋という印象だった。
まるで高級旅館の一室みたいだなぁ。写真でしか見た事ないけど。
そんなことを思いながら、イブキさんと話している来客の後ろ姿を盗み見る。
『後ろ姿だけですけど、なんと言うか粗暴そうな感じですねぇ』
隣で同じように覗くイロハがかなり失礼な事を抜かしたが、全くの同意見だったので特に注意はしない。と言うか出来ない。
顔が見えないので何とも言えない所はあるものの、無造作に伸ばされた髪やヨレヨレの服、年季の入った鎧などを見る限り、どう足掻いても紳士の類には見えないし。
「里長様、この辺で魔術の使える獣を見やせんでしたかい?」
そう尋ねる声からして、どうもいい歳のおっさんらしい。
まぁこの後ろ姿で若い女性だったりしたら、それはそれで怖いのだが。
「いやぁ、残念ながらそういう報告は来てないねぇ。どうしてまた、そんな珍しい存在を探しているんだい? 希少さから言って割に合わないだろうに」
イブキさんが素知らぬ感じに返す。
その返答を聞いて、俺は名も知らぬおっさんに少し同情する。
お探しの魔術が使える獣は目の前にいるんだよなぁ……。
「依頼主が金に糸目をつけない人でして、理由は明かせないが報酬は幾らでも払うからと言われまして」
「なるほど。冒険者も何かと入り用だしねぇ。まぁもし見つかったら君達に伝えるよう手配しておくよ」
君達、ね。ここにはイブキさんとおっさんしかいないが、他にも仲間がいるらしい。
それにしても目的が魔術の使える獣とは、やはり見に来て正解だったようだ。
今後使命の為に旅をする上で障害になり得るかも知れない。特に依頼主の存在とその意図が不明な点が引っかかる。
しかしどうでもいいが、そんな珍しい存在しか知り合いがいない俺は一体……。
そんな事を考えているとおっさんが「それともう一つ、こいつは個人的な理由でもあるんですが」と言って、懐から何かを取り出しイブキさんに見せる。
なんだろう、ここからでは見えない……。
どうにかならないかと思っていたら、イブキさんの後ろに突如鏡のような物が生成された。
何故鏡が生まれたかも気になるが、反射で俺たちの存在がバレるかもと慌てて、イロハに小声で苦情を言う。
「なんかいきなり鏡が現れたけど、お前の仕業だろ! バレたら面倒になんだろうが!」
『え、まぁ腕輪の機能なので、ある意味そうとも言えますけど。腕輪がレストさんの意図を汲んで、パッシブでリフレクミラーが発動したんですよ。その鏡は本人にしか見えないので、安心してください。因みに私も使ってます』
そういう事らしい。ナノエフェクトによる便利機能の一つなのだろう。
自分にだけ見える鏡。犯罪以外の使い道が思い浮かばないんですがそれは……。
しかしそんな謎機能に対する疑問は一瞬で吹き飛ぶ事になる。
おっさんが取り出したのは、人相書きの様な物だった。
そこまではいい。問題はそれに描かれているのが、獣耳と尻尾を生やした男という事で……。
「こんな風体の男を見ませんでしたかい? これにはちょっとした借りがありましてね……」
そう言いながら古傷を労わるように腕をさするおっさん。
暗かった上にかなり前なのでよく覚えてはいないが、人相書きと共に鏡に反射した男の姿は、初日に敵対したあのおっさんに似ている気がした。
よもやこんな場所で再会を果たすとは。まぁ一方的だし、全く嬉しくないのだが。
……にしてもヤバい。やはり目をつけられていたらしい。どころか恨みまで買ってる気がする。
「見覚えは無いけど、この妙な格好の男がどうかしたのかい?」
そうしらばっくれながら、覗いている俺に一瞬目配せをするイブキさん。あまり上手くない絵だが、あれが俺である事にも覗いていた事にも、しっかり気付いていたらしい。
これは……貸し一つ的な意味合いだろうか。魔獣退治の件でチャラにと思ったが、あれは親父さんの為だったしダメか……。
「少し前に魔獣の森で怪しい獣を見つけたんですがね、この変な服装の男が邪魔してきやして……。そいつは何を言ってもこちらに返事もせず、へっぴり腰で錆びた剣を構えて獣を守ろうとするんですよ」
知ってたけど完全に俺ですね。そしてあの森は魔獣の森と言うらしい。
ストレートに危険とわかる名前に乾いた笑いしか出ない。やっぱスタート地点の設定おかしいよなぁ!
「ふむ、それで?」
「邪魔できない様に剣を弾いて、そいつが逃げる事に期待したんですがね。それでも立ちふさがる物ですから、こっちも仕事なんで本気で殺そうと、もう一度斬りかかったんですよ」
今明かされる衝撃の事実。あれ俺が上手く防げたんじゃなくて、温情だったのかよ……。
地味に凹む俺に構わず話は進む。
「でも殺せなかったと」
「えぇ……剣を振り下ろす直前に10mくらいの距離を一瞬で跳躍して避けられまして……」
「それは凄いねぇ、人間業とは思えない」
「本当に腰を抜かすかと思いやしたよ。その上さっきまでただの一般人という感じだったのに、突然耳と尻尾を生やしてそれこそ別人みたいに、一切の隙もなくこちらに殺気を放ってきたんですから」
身振り手振りで大げさに話すおっさん。
うん、せやろね。だってあの瞬間から実際別人だったしね。
裏を返せば化身するまで俺は隙だらけだったようだ……いや、知ってたけど。
「それでその後どうなったんだい?」
イブキさんがどこか楽しそうに続きを促す。
いやこの狐の事だ、絶対楽しんでるに違いない。
おっさんが首を振りながら答える。
「どうするか決めあぐねているうちに、獣のような走り方であっという間に距離を詰められて、気付いたら体当たりを食らわされてましたよ……それから仲間に助け起こされるまで、記憶がありやせん」
「つまり仕事の邪魔をされ、傷を負わされたそいつにリベンジしたいと?」
「まぁそういうことですね。それと、これは関係があるかはわかりやせんが、仲間も巨大な狼に襲われてまして。でもおかしな事に誰も殺されはしなかったんですよ。どうもこの件は色々引っかかるんで、もし見かけたら情報の方、お願いしやす」
そこまで聞いて、話が終わりそうな気配を感じたのでバレない内に撤収する。
道中イロハが『あの変な絵、ちょっとレストさんに似てましたね』などと呑気な事を言ってきた。
よく考えたらイロハは化身したとこを見た事が無いので仕方ない面もあるのだが、こいつは本当に悩みが無さそうでいいなぁと思う……。
いっそ親父さんが全員始末してくれてたら楽だったのにと、かなり酷い事を考えながら俺とイロハは離れに帰還した。
そろそろ話を進めよう。
ところで昨日えらくアクセスあったの、なんで……?




