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黒猫の秘め事

 隠れ里での生活 4日目


 声が聞こえる。

 靄のかかる意識をそちらに向けると、途切れ途切れにリシアとクロエの会話が耳に届く。


「今日……休………る」

「……ったわ。………りさせ……らう……」


 最近二人でどこかに行っている件に関する話だろうか。

 気になるので身体を起こそうと、力を入れた瞬間ーー全身に痛みが走る。

 そこで思い出す。……物理的制裁以降の記憶が無い事を。

 強制的な早寝の効果か、まだ薄暗い室内。

 二人を気にしつつ身体の痛みがマシになるのを待っていると、そのまま意識が闇に落ちた。



 目覚めると昼を回っていた。

 どうやら二度寝してしまったようだ……。

 身体の痛みは無視できる程度に落ち着いていたので、起き上がり辺りを見回すとクロエが寝ているのが目に入る。

 リシアとイロハは出掛けたらしく、ここには俺とクロエしかいない。

 そう言えばイロハは昨日もいなかったが、完全に忘れていた。

 まぁどこかで遊んでいるのだろうと、再度忘却の彼方に追いやるとクロエに話しかける。


「なぁクロエ。一昨日と昨日、リシアと何してたの?」


 クロエは返事をしない。

 完全に眠っているのかと思いかけるも、即座にそれを否定する。

 尻尾が微妙に反応している……これは答えたくなくて、狸寝入りを決め込んでいるのだろう。

 都合の悪い事をスルーというのは大変猫らしいと言える。が、大人しく引き下がる俺では無い。


「寝てるみたいだし、今のうちに撫でまくっておこうかなぁ」


 わざと声に出してクロエの様子を窺う。

 予想通り尻尾がピクピクと動く。

 だが心なしか、イブキさんと話していた時よりも動きが小さい……気がする。

 そんな思考をしながら手の届く位置まで近づいた所で、クロエが跳ね起きて俺から距離を取る。


「昨日はコトノハにあんな真似しといて、今日はアタシが寝てる所を襲おうなんて、このケダモノ!」

 

 ……獣にケダモノ扱いされて地味に堪えた。

 しかし昨日の所業を思えば反論さえ許されないので、それは甘んじて受け入れる。

 でも撫でようとしただけでこの反応はやっぱり酷いんじゃないですかね……。


「俺が悪かったから昨日の事はもう忘れろ……。ってかやっぱり起きてんじゃねえか」

「あっ……!」


 クロエが明らかに狼狽える。

 俺の心のダメージはさて置き、狙い通りの展開になったので再度俺はクロエに問いかける。


「んで、何してたの? 別に悪巧みとかを疑ってるわけじゃ無いけど、単純に気になるんだが」

「それは……」

「それは?」


 そこでクロエは一度大きく息を吸い込むと、一息に告げる。


「女性のプライベートを詮索しようだなんて、感心しないわね! いい女には秘密の一つや二つある物よ……!」


 声の調子や尻尾の動きから、ドヤ顔で言い放っている事は容易に知れた。

 イラっとしたので、徹底抗戦しようと決める。

 このクソ猫……絶対吐かせてやる!

 しかし普通に捕まえようとしても、体の痛みもあるし、警戒されてると思われるので一計案じる。


「分かった。じゃあもう聞くのは諦めるよ」

「え、嫌に素直ね……。まぁそうしてくれると助かるわ」

「んじゃ話は変わるが昨日の制裁でまだ体が痛くてな。少し背中を踏んで貰えるか? 尽くしたい欲求とやらを発散するいい機会だろ?」

「……へ? まぁ、別にいいけど……」


 あっさり引いて関係ない事を言い出した俺に訝しげな目を向けるクロエだが、追求が終わって安堵したのか、深く考えずにこちらに近づいてくる。

 ふははは! 所詮箱入り猫(だと思う)の浅知恵よ!!

 俺は射程圏内に入ったクロエを、迅速に捕獲する。


「よぉし捕まえたぞ。さて、何をしていたのか、吐いてもらおうか!」

「アンタ騙したわね! さてはエロい事して吐かせるのね! いやー! 犯されるー!!」


 ……何故どいつもこいつも俺を獣姦嗜好にしたがるのか。

 俺はクロエを猫掴みして、目の前にぶら下げながら言う。


「お前はどうしてすぐそんな発想に行き着くんだよ……。安心しろ、エロい事はせん。痛い事をする」


 俺はフェミニストではないのだ。必要とあれば躊躇わずに力を振るう。その辺のギャルゲーやラノベの主人公みたいに、一方的にやられる人間ではないのだ。

 そんな感じだから異世界転移しても主人公補正やチートが無いのではとチラッと考えるが、そんな事は知らない。人は生き方を簡単に変えられないのだ。

 

「それはそれで嫌よ! アタシみたいな高貴な女性は丁重に扱うべきじゃないかしら! レストもそう思わない……!?」


 俺に以前折檻されているし、やると言ったらやる覚悟のような物を感じ取ったらしいクロエが、全力で穏便に済まそうとしてくる。

 言い訳の内容は噴飯ものでしかなかったが。

 

「なぁクロエ。女性を丁重にと言うのは俺も賛成だ」

「そうでしょ? だったら……」

「だがな、品性に劣る女性にまで丁重に接すると言う事は、他の女性に対しての侮辱に当たるとは思わないか?」

「む……まぁ確かに、そんなのと同列扱いはされたくないわね。えっと……つまり?」

「そう言うセリフは態度改めてから吐けって事だよ! この万年発情猫!!」


 そう言い捨てると以前リシアに用いたグリグリ的な物をクロエの食らわせる。


「いったたた! ちょっと! 降参するから離して!!」

「よし、じゃあ吐こうか。俺の予感が囁くんだよ、放置するとロクな事にならんとな!」

「わかったわよ! 言うから! だから離してぇぇ!!」


 言質が取れたので攻撃の手を止める。ただし解放はしない。

 ここで逃げられると面倒なので、吐くまで決して離さない所存。


「で、どういう理由?」

「魔術の訓練よ! アタシは種族特性で素養が低いけど、それでも訓練すればマシにはなるのよ。リシアから聞いたけど、アンタも最初は全くダメダメだったんでしょ? じゃあアタシだって頑張ればそれなり程度にはなれると思って頼んだの」


 渋々話すクロエを見て俺は考える。

 なんと言うか、かなりまともな感じだ。警戒する必要なんてなかったのか……?


「そういう理由か……。でもそんな真っ当な話なら、何で話すのを嫌がってたんだよ」


 そう聞くとクロエはそっぽを向いて、憮然とした感じに言う。


「アタシに訓練なんて似合わないでしょ! だから隠しておきたかったのに……」

「あー、うん。無理矢理聞き出して悪かったよ……。よしよし、向上心があってクロエは偉いな……」


 そう言いながら猫掴みをやめて、胸に抱いて頭を撫でてやる。

 するとクロエは気持ち良さそうに喉を鳴らして、体を擦り付けてきた。

 かと思うと、次の瞬間凄まじい速さで俺から離れる。

 

「!!! 何、頭なんて撫でてるのよ! 全く油断も隙も無いわね!」

「えぇ……。気持ち良さそうだったじゃん……」

「そういう問題じゃ無いの! 全くデリカシーが無いわね」


 またしても地味にショックな事を言われた。

 今日は精神にダメージを負ってばかりな気がする。

 軽く落ち込んでいると、リシアが帰ってきた。

  

「レスト、クロエ、ただいま。あれ、何かあった?」


 俺たち二人を見て首を傾げるリシア。


「いやなんでもない。それよりクロエに訓練とかしてたのな?」

「ん、レスト……。クロエから、無理矢理聞き出した?」


 一瞬で事情を理解された。

 やだ、このコ凄い。


「何故わかったし」

「簡単。プライドの高いクロエが、自分から話す訳ない。私もクロエの意を汲んで隠してたし」

「そういうことね……」

「そうなのよリシア! レストが言わないなら犯すぞー! って脅してきて……」

「おい捏造やめろ発情猫! 昨日の今日でその冗談はシャレになってねえんだよ!!」


 そう突っ込んだが、既に手遅れだったらしい。

 リシアの背後にオーラが立ち昇るのを俺は見た。


「レスト、昨日はコトノハで今日はクロエ。やっぱりハーレムなの?」

「今日のは濡れ衣だ! 少し力に訴えたがそんな真似は断じてしてない!」


 そう言うと、リシアのオーラが立ち消える。

 どうやら助かったらしい……。

 しかし大抵俺の虫の知らせ的な物は当たるのになぁと、不思議に思いながら二人の相手をする。



 その後は訓練がどんな感じか聞いたり、いつの間にか帰ってきていたイロハにクロエでも出来そうなゲームを出してもらって、それで遊んだりして穏やかな1日を過ごした。毎度こうあって欲しいものだと思う。心から、そう思う。



 


このタイトルを見てまたエロ回だと思った人。

怒らないから正直に言いなさい。

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