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トレジャーマイン

 翌日。


「それで結局、どうするつもりなの?」


 緋竜窟への帰路、クロエが唐突に口を開く。


「どうもこうも、やるしかないだろ」


 あの後も色々なことを聞いた上で一晩考え続けたわけだが、結論自体は最初から出ていた。


 いつリシアらの命が失われてもおかしくないという事実を前に、俺に選択の余地などない。


「人間がこの件を収めようとするなら……私たちは間違いなく犠牲にされるでしょうねぇ」


 教会とやらが魔術を神聖視してるようなのでそこで一悶着ありそうだが、最終的にはそういう方向性になるだろうな。


「で、そうなれば漏れなくアタシらは死ぬ、と」

『私も機能停止ですね……』

「けど、使命は果たされるし、レストだけは助かる」


 その時は強く生きてね? という目でリシアがこちらを見てくるが、


「いや、そうなったら自動的に俺も死ぬ事になるからな??」


 ナノマシンが失われれば、同時に今までに得た力も知己も一切合切失われるのだ。そうなれば確実に、森でリシアと出会わなかった場合のifを体験する事になるだろう。


『クリスさんの世話になれば何とかなるのでは?』

「まぁクリスを頼れるなら確かにワンチャンあるが……」

「ナノマシンが無いのにどうやって連絡取るのよ」

『あっ……』

「おまけに基本、辺境を流離う身だからなぁ」


 クリスは今、王都だろう。灰狸族から貰ったタブレットで何となく調べたことがあるが、この辺りから馬車で向かうなら半月は余裕でかかる距離だった。ちなみに隠れ里からでも一週間は堅い。


 さらに言えば腕輪も死んでるだろうから特殊空間が使えず食い物にも困るし、野盗や普通の獣といった脅威もある。

 魔獣よりは全然マシとはいえ、白狼や黒猫の力を振るえない俺ではそれらへの対抗手段が無いので、よほど運が良くないとまぁ再会する前に野垂れ死ぬと思う。


 結局、ナノマシンに頼りきっている俺は高確率で詰むんだよなぁ。


 そしてそれを抜きにしても、リシアたちがいない世界で生きている意味はあるのか、というね。


「まぁそんな絶望の未来の話はいいよ。ナノマシンは停止も破壊もさせない。──これは、確定事項だ」


 託された剣に目をやりながら、有無を言わせぬ口調で言い切る。

 俺の選択が生前のジルベールの願いに添う形な以上、自身が適格者というのは確かにその通りなんだよな。


「……ん、そうだね」

「ま、当然よね」

「はぁ……これはいよいよコトノハも本気で協力しないとかしらねぇ」

『私も機能停止は嫌なので頑張りますよ!』


 そんな風に話がまとまったところで緋竜窟に帰り着いた。




「ふむ、別に構わんぞ」


 金狐族の至宝の件を皇女様にお伺いを立てたところ、二つ返事で了承された。

 やったぜ! ……と、思っていたら、


「……ただし、その宝珠とやらがどこにあるかはわからぬ故、自力で見つけ出して貰わねばならんがな」

「……」


 まさかの発掘作業をする羽目になった。……どうしてこう一筋縄ではいかないのか。



「レストー、あったー?」

「ないなぁ」


 探し始めて早一時間、それらしい物の一つも見当たらない。


「本当にあるんでしょうね……」


 怖いこと言うのやめろ。


「こっちも見当たらない」

「コトノハ、もう疲れちゃったんだけど」

「おい」


 誰のための作業だと思ってんだこら。


「そもそも現物を見たことがあるのがコトノハだけだからなぁ」

「つまり、コトノハが一人で探すのが、賢いやり方」

「ちょっと!?」


 いやそこまでは言ってないが……。


「バカ言ってないでとっとと見つけるわよ! いい加減ガタクタの山を漁るのも飽きてきたんだから」

「おいクロエ、例え事実でも人様の宝をガラクタ呼ばわりするのは失礼だろ」


 すぐそこに皇女様とそのお付きがいるんだぞ!

 まぁ特に気にした風でもないが。


『レストさんも本音が出てますよ……ってそれより、ちょっとこれ見てください』

「! ついに見つけたか!?」

『いえ、恐らく宝珠ではないんですが』


 そう言ってイロハが差し出してきたのは黒い箱だった。


「それがどうかしたのか?」

『これ、ナノエフェクトにより周囲のナノマシンに一定間隔で信号を送ってるみたいなんですよね』

「……発信器か?」

『恐らく。まぁそれだけであれば、たまたま紛れ込んだだけかなと、気にも留めませんでしたが……どうも信号を魔術で隠蔽してるようなんです』

「……!」

『解析してみたところ、これの作成時期と魔術による隠蔽が施された時期には百年単位のズレが存在することがわかりました』


 ナノエフェクト装置に魔術による後付けの細工……。


「組織──とは限らないが、何かしらの意図によりここにあると見るべきだろうな」


 そうやって俺とイロハが真剣な話をしていると、


「何ぞ面白いものでも見つけたか?」

「!?」


 真後ろから皇女様の声。

 さっきまで入り口の辺りにいたはずなのに! と、そちらに目をやると、変わらずそこにいた皇女様が手を振ってくれた。いやどういうことなの。


「あれは写し身よ。それで? 深刻そうな顔をしていたのはそれが原因か?」


 箱を手渡して、イロハから聞いた話をそのまま伝える。と、皇女様は軽く思案してから、


「話がある故、後で妾の寝所にきて欲しい。……レスト殿一人で、な」


 箱を受け取った皇女様は、それだけ告げて去ってしまった。


『……夜伽ですかね?』

「この流れでそれだったら笑うわ。というか俺は一応客人で向こうは皇女様だぞ……」

「えっ!? レストさんがヨルちゃんの夜伽をするぶぇ!!」


 言い終わる前に潰れるコトノハ。


「コトノハ、真面目にやって」

「でも意味深な感じに一人でって言ってたぎゃふっ!!」

「真面目に、やって」


 なんでそう妙なとこでガッツがあるんだよこいつは。


『しかし件の宝珠、拳大の大きさの玉という話でしたが……この山から見つけ出すのは数日はかかるんじゃないです……?』

「だよなぁ。ってかそういやイロハ、さっきの箱はどうやって見つけたんだ? 偶然か?」

『いえ、妙な反応を感知したのでそれを頼りにですね』

「宝珠もそういう代物らしいし、感知出来たりしない?」


 ある程度の当たりがつけられるだけでも全然違うのだが。


『いえ、それが魔術やナノエフェクトの反応自体は無数に出てまして』

「あぁ、あの箱は細工されてたからってことか」


 発想自体は悪くないと思うんだが一手足りない感じだな……。


「コトノハ、死ぬ気で感知して」

「やってるけど他の魔術に紛れててわかんないのよねぇ。もう少し私の魔力が高ければ特定出来ると思うんだけど」


 ……ふむ。つまり魔力を補ってやればいける、と。


「一つ提案なんだが、俺と化身したらどうかな? 少しは足しになると思うが」

「秘儀はダメ」


 その反応は想定内だ。


「いや腕輪の方でな?」

「それならいい」

「だそうだが、どうする?」


 嫁のお許しが出たので問いかける。


「間髪入れず秘儀が却下されたのには言いたいことがあるけど、このままじゃ埒があかないしお願いしようかしら」

「んじゃやるぞ」 


 コトノハと化身するのはこれで二回目か。さて、上手くいくといいが。

 コトノハに向かって手を向ける。と、


「あ、若干探しやすくなったかも!」

「そら何より」

「レスト、尻尾が四本になってる」


 金狐の尾は余剰魔力という話だったが、元が三本だったので一本分……本当に少しの足しにしかなってないらしい。まぁいいけど。


「てか俺も何か感知出来てるっぽいな……コトノハの影響か」

「ほんと? じゃあレストさんも一緒にお願いね! 何か禍々しい魔力を感じたら多分それだから」


 ……禍々しい魔力?


『え、宝珠って言うので何か神聖なものを想像してたんですが、もしや曰く付きの呪物だったりします……?』

「んー確か大昔のご先祖様が、死ぬ間際に力を込めて遺した石を魔術で加工して作った物、だったかしら?」

「……」


 そのご先祖様、尻尾が九本だったりしない?


「魔力がそんな風になってる理由は、なに」

「それに関しては諸説あるんだけど、何かを恨んでたってのが通説ね。実際、金狐以外が扱うと周囲に呪いが振り撒かれて大変なことになるらしいし」


 完全に殺生石じゃねえか!

 ジルベールから託された剣といい、どうして危険物にばかり縁があるのか。


『そんな恐ろしいものを探させられてたんですか……』

「ほんとだよ」


 宝探しというより地雷処理と呼ぶべき作業だろこれ。


「クロエ、おまえ命拾いしたな」

「そんな危ない物と知ってたら手を出そうとは思わなかったわよ……」


 クロエは元々、これを狙って鎮守の森に侵入していた訳だが、首尾よく宝珠を手に入れていた場合、確実に呪いの餌食になっていたであろう事を考えるとこいつは本当に運がいい。


 まぁ魔術耐性の高い黒猫族なら呪いに耐えられた可能性もなくはないが、流石に無傷とはいかなかったろうし。


 恐らくだが金狐族の巫女だけが持つことを許されてるのは某財団的な、確保、保護、収容といった意味合いもあるのだろう。


 そしてそれを平然と手放したシキさんよ……。

 まぁこんな感じで雑に放って置かれてる辺り、緋竜が宝を溜め込むだけで利用したりしないのを見越してのことかも知れんが。



 それからしばらくして、


「見つけたー!!」


 コトノハの一声により、俺たちはようやく発掘作業から解放されたのだった。


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