亡霊の凱旋
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城門をくぐり、石畳を踏みしめる。
鼻腔をつくのは、鉄錆と、かつてこの場所で流された俺の血の臭いだ。
見上げれば、二階の回廊から見下ろす女の姿があった。
眩いばかりの白銀の鎧。冷徹なまでの美貌。
リリアナ。
王国最強のグランドマスター。英雄。そして――俺がこの世で最も愛し、最も無惨に俺を裏切った女。
(リリアナ……ッ!)
視界が真っ赤に染まる。
心臓が爆ぜ、血液が全身を逆流するかのような、猛烈な興奮と殺意が突き上げてくる。
愛していた。狂おしいほどに。
その愛が、裏切りの果てに漆黒の憎悪へと反転した。
それは今のリリアナを縛る魔族の呪いとなんら変わりない、純粋で、凶悪な呪縛だ。
怒りで思考が焼き切れ、頭から湯気が上がる感覚に陥る。
今すぐ。今すぐその喉笛を食い破り、その美しい顔を絶望に染めてやりたい。
(待て。待て待て待て待て……!)
俺はフードの下で、奥歯が砕けるほど噛み締めた。
ここで焦れば、全てが水の泡だ。
憤怒を抑えろ。心臓を制御しろ。
まだ、俺は死人のまま。ただの、名前のない「手元」でなければならない。
その時、裾をギュッと握りしめる感触があった。
隣に立つマリが、俺の殺気の漏れを感じ取ったのか、不安げに俺を見上げている。
その小さな手の温もりが、辛うじて俺を「人間」の側に繋ぎ止めた。
「……何故、そこに子供が二人も混ざっているの?」
階下へ降りてきたリリアナの声が、すぐ近くで響く。
俺に向けられる、あの懐かしくも忌々しい、獲物を品定めするような鋭い視線。
俺の肌が、彼女の放つ殺気に反応して粟立つ。
(クククッ……何を恐れている、リリアナ)
俺は完璧な職人の所作で、恭しく頭を下げた。
顔は見せない。声は殺す。
俺はお前の知る「カイラス」ではない。
お前が嘲笑い、踏みにじり、殺したはずの男が、地獄の底からお前の首を獲りに来た。
その真実を知った時の、お前の顔が楽しみだ。
「……失礼いたしました、団長様」
吐き出した声は、自分でも驚くほど冷たく、静かだった。
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